証券口座乗っ取り事件
このページ名「証券口座乗っ取り事件」は暫定的なものです。(2025年5月) |
| 証券口座乗っ取り事件 | |
|---|---|
| 場所 |
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| 標的 | 証券会社18社(2025年8月末現在)の証券口座及び投資家 |
| 日付 | 遅くとも2025年1月以降[1] |
| 攻撃手段 | 不正アクセス |
| 攻撃側人数 | 不明(実行役2名(1名は嫌疑不十分で不起訴)、口座準備役5名を逮捕) |
| 被害者 | 不正アクセス件数 19,207件、不正取引件数 10,639件(2026年8月現在)[1] |
| 損害 | 不正売却金額 約4,368億円、不正買付金額 約3,837億円(2026年8月現在)[1] |
| 犯人 | 警察庁サイバー特別捜査部および警視庁にて捜査中[2][3] |
| 容疑 |
実行役 : 不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反および金融商品取引法違反 口座準備役 : 電子計算機使用詐欺罪 |
| 防御者 | 金融庁監督指針、日本証券業協会ガイドラインをそれぞれ改正強化(#政府機関の対応、#証券会社の対応 - セキュリティ強化を参照) |
| 補償 | 証券会社からの被害補償が進められている |
| 賠償 | 一部の被害者が証券会社に対して原状回復の調停を申し立て |
| 刑事訴訟 | 東京地方裁判所にて公判中 |
| 被害者の会 | 一部の被害者が『証券口座のっとり被害者の会』[4]を組成 |
証券口座乗っ取り事件(しょうけんこうざのっとりじけん)とは、2025年に発覚した、日本の証券会社の顧客の口座が不正アクセスされ、その口座で不正な株式取引が行われた事件である。
概要
何者かが実在する証券会社を装ったフィッシングサイト等で窃取したとみられるログインIDやパスワードによる、インターネット上での不正アクセスを行い、不正アクセスした口座を勝手に操作して口座内の株式等を売却し、その売却代金で相場操縦とみられる目的で他の株式を買い付けた不正取引および事件である。不正アクセスと相場操縦を組み合わせた手法は「ハック、パンプ・アンド・ダンプ(Hack, Pump And Dump)」と呼ばれる[5]。警視庁が不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)違反および金融商品取引法違反(相場操縦)の疑いで捜査を行っている[6][7]。
金融庁が各証券会社から受けた報告によると、2025年1月から2026年5月までに、不正アクセス件数18,915件、不正取引件数10,474件、不正取引による売却金額約約4,353億円、買付金額約3,829億円といった被害が確認されている[1]。なお、不正取引の複数の被害者がマスコミの取材に対してフィッシングの被害について否定的な見解を示す証言をしており、SNSではマルウェア感染などの別の可能性を指摘する声が上がり[8]、コンピュータウイルスによる個人情報の抜き取りが行われたとの見方をする専門家もいる[9]。マクニカは各種メディアにて、情報窃取に特化したマルウエア「インフォスティーラー (en:Infostealer)」[10][11]が用いられた可能性を指摘している[12][13][14][15]。
犯人像に対する推測
2025年11月まで容疑者が逮捕されなかったため、犯人像については明らかになっていないが、世界の犯罪組織の関与を指摘する意見が多数存在している。
犯罪ジャーナリストの多田文明は、世界の犯罪グループが、日本の犯罪グループと手を組んでやったのではないかとの見方を示している[16]、週刊文春は、警察当局は世界も絡んだ組織犯罪との見方を強めていると報じ、中国系の犯罪グループが関与している可能性を指摘した[17]。
証券会社の偽サイトを分析すると、コンピュータプログラムの一部に運送会社の偽ウェブサイトに使われていたことを示す文字列が確認され、過去の偽サイトを転用していた可能性が指摘されている。プログラムには中国語の表示も確認された[15][18]。SNSの分析によると、中国語を話す人物による攻撃が増えていて、東南アジアに潜伏して活動しているとの見方がある[15]。
犯罪グループが闇サイトで口座情報を買い取るなどしたとの見方があり、マクニカの調査によると、ダークウェブに少なくとも約14万件の日本の証券口座の認証情報が掲載されていたことが確認されたと朝日新聞が報じている[19]。同じマクニカは2025年8月26日、2025年5月末までに証券会社をかたる不審メールが14万件を超える規模で発信されていたと発表した[20][21]。
東京都立大学教授の星周一郎はミャンマーで活動していた中国系特殊詐欺犯罪集団で働かされていた外国人が解放され始め、闇バイトのかけ子をしていた日本人が検挙されたタイミングと重なることを指摘し、ミャンマーを拠点とする中国系特殊詐欺犯罪集団による犯行ではないかとの見方を示している[22]。
これらから、各国に点在する複数の犯罪集団が、国際分業の形で関わっていると考えられる[23][24]。
2025年5月30日の日本経済新聞は、不正アクセスの発信元は中華人民共和国だった疑いが強いことが、複数の関係者への取材で分かったと報じた[6]。同日、警視庁は、警察庁サイバー特別捜査部[2]や証券取引等監視委員会[3]とも連携し、不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)違反や金融商品取引法違反(相場操縦)の疑いで捜査を開始した[7]。
セットトップボックス (STB) の悪用疑い
2025年9月27日、日本経済新聞は一般家庭のテレビ受信機が「踏み台」として悪用された疑いがあると報道した[注釈 1][25][26]。報道後、ケーブルテレビ各社は自社が取り扱うセットトップボックス (STB) で不正アクセスの事案は無いと発表し[27][28]、不正アクセスは管理されていない受信機で起きたものではないかとされた[29][30]。10月24日、一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟は、当連盟配下のケーブルテレビ事業者が管理するSTBに不正アクセス事象は発生していないと公表した[31][32]。
Apple・Googleアカウントの乗っ取り
#証券会社の対応 - セキュリティ強化 の効果により2026年7月には不正取引は5件(売却0.2億円・購入0.2億円)まで減少した。しかし同年8月は不正取引25件(売却2億円・購入2億円)へ急増した[33][34]。同年9月24日、Apple AccountやGoogle アカウントを乗っ取り不正取引した疑いのある事案が確認され、日本証券業協会が加盟する証券会社に対し、顧客への注意喚起を求めた[35]。乗っ取ったアカウントのiCloudキーチェーンやGoogleパスワードマネージャーへ保存されていた情報を用いて被害者の証券口座へログインし、不正取引を行なったとみられる[36]。この場合、証券口座にパスキーを設定していても不正ログイン・取引が可能となる(パスキーハイジャック を参照)[37]。
同年10月2日、SBI証券が出した注意喚起を引用し、同社の口座で被害があったかのように読めるXポストが拡散。同年10月8日、SBI証券は誤解が広がっていたことを受け「他の証券会社で報告された事案」であり、「現時点でSBI証券の証券口座での被害は確認されていない」と説明した[38][39]。
サイバー攻撃
2026年10月21日、マイクロソフトは中国政府と関係するハッカー集団「ストーム0940」が2026年9月以降、中国系の人工知能ツール「アルテックス」を使って、世界各国で数百の組織を標的としたサイバー攻撃を実行したと発表。攻撃対象には宇宙、防衛、自動車、金融といった民間企業や、政府機関、シンクタンクなどが含まれる。GMOインターネットグループ子会社のセキュリティー企業の調査によると、日本の金融や物流などの企業を標的としたサイバー攻撃でもアルテックスが使われていたとされる[40]。
岩井コスモ証券への攻撃
2026年10月20日、岩井コスモ証券はインターネット取引システムの運用を委託しているトレードワークスがサイバー攻撃を受け、7口座で顧客が意図しない不正な売買注文が出されていたことが確認されたと発表。うち5口座で取引が成立していたとされる。対象の顧客に既に連絡し、取引前の状態に戻す措置を済ませたとしている[41][42]。不正アクセスの原因の特定と修正は完了し、その後ネット取引システムは安定稼働しており、通常通り利用できるとされる[43]。トレードワークスは「AIと断定はできない」としている[44]。
同年10月21日、金融庁は、トレードワークスが他の証券会社にもシステムを提供しているため、同種の被害が発生していないか、証券会社各社に聞き取り調査を開始した[45]。
同年10月23日、岩井コスモホールディングスは不正な取引の規模が全体で12銘柄計約125万株だったと発表。また、社員が顧客に代わって口座情報などを見られる「オペレーター画面」に入る際、外部からのアクセスを拒否する機能が不十分で、ここから不正に侵入されたとみている。10月15-17日には、パスワードなどを入力して顧客口座への不正ログインを試みる「ログインチャレンジ」が計730万件以上あったことも発表、いずれも未遂だったとしている[46]。
GMOへの攻撃
2026年10月22日、GMOインターネットグループと子会社であるGMOインターネットは、FXの自動売買などのために使われる同社のサービス「お名前.com デスクトップクラウド」で、不正アクセスにより、影響の可能性がある2万6739件のサーバーについて、サーバー内に保存されていた情報が第三者に取得され、不正利用された可能性があると発表。この中には取引口座のログイン情報などが含まれていた可能性があるとしており、顧客から取引口座で第三者による不正な操作が行われたとの報告もあったとされる[47][48]。
2026年10月24日、GMOインターネットは不正アクセス問題で、政府に対して「能動的サイバー防御」の適用を緊急要請したことを発表。不正アクセスが原因による操作で利用者に金銭的な被害が生じており、同社が損失を補償することも発表した。GMOは攻撃者とみられる者から金銭の要求を受けていることも明らかにしており、応じない場合、会社や顧客の情報を公開するなどと脅迫されているとした。同社は「攻撃者の要求には応じない」と表明し、警察に捜査を要請している[49][50]。
この仮想プライベートサーバー(VPS)はFXなど高速売買の処理に使われており、利用者は2万人以上に上る。サーバーに保管された個人投資家のパスワードを含む認証情報が第三者に閲覧され、国内外の70を超える証券会社やFX会社などに開設された利用者の取引口座に対して、不正操作が行われている可能性があるとされる[51]。GMOは不正アクセスを受けた現行のシステム基盤をそのまま再開せず、セキュリティ構成を刷新するとしている[52]。
容疑者の逮捕
口座乗っ取りの実行犯
2025年11月28日、警視庁などの合同捜査本部は、他人の証券口座を乗っ取って株を売買し、意図的に株価をつり上げたとして、中国籍の男性2人(川崎市・38)(江東区・42)を不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)違反と金融商品取引法違反(相場操縦)の疑いで逮捕した[53][54]。3月17日に、計10名の証券口座を乗っ取り、東証スタンダード上場・ウィルソン・ラーニングワールドワイド社の株式[55](低位株であったとされる[56])を高値で買わせ、約860万円の売却益を得たとみられる[57]。不正取引にあたり、事前に他の金融機関から数千万円の振り込みも確認されている[58][59]。
同年12月18日、証券取引等監視委員会が上記の容疑者のうち1名と法人1社を刑事告発した[55][60][61]。翌19日、東京地検特捜部はうち1人(川崎市・38)と代表を務める貴金属輸入会社を相場操縦の罪で起訴した[62]。残る1人(江東区・42)については嫌疑不十分で不起訴処分とした[63][64]。
2026年2月17日、東京地方裁判所(島戸純裁判長)にて初公判実施[65]。被告は起訴内容を認めている[66]。検察は懲役3年6ヶ月、罰金400万円、追徴金7807万円を求刑した[67]。即日結審し[68]、3月23日、東京地裁は被告に懲役3年、執行猶予5年、罰金400万円、追徴金約7807万円の判決を言い渡した。貴金属輸入会社については罰金400万円とした[69][70]。
自分名義の証券口座を譲渡
2026年2月18日、警視庁・大阪府警察など5都府県警は、実行役へ口座提供(売却)を行なったとして、日本や中国国籍の20〜40代の男女5人を詐欺容疑などで摘発した[71]。闇バイトに応募したとみられる[72]。このうちの1人は、警視庁サイバー犯罪対策課によってを電子計算機使用詐欺罪の疑いで逮捕された住所不定無職の男性 (28) [73]。自身名義の口座を開設し、不正取引の原資400万円や収益132万4100円を送金していた[74]。容疑を認めている[75]。
これら「下位層」にあたる実行役は散発的に逮捕・起訴したものの、指示役である「中間層」、全体設計を行なった「首謀層」の検挙には至っていない[76](2026年3月時点)。
事件発覚の経緯
2025年3月、楽天証券の一部利用者が保有していた株式を勝手に売却され、中国株を買われる不正取引が多発したことがきっかけで発覚した[8]。3月21日、楽天証券はフィッシング詐欺によると見られる被害が相次いでいると公表[77]、利用者に向けた注意喚起と中国株11銘柄の買い注文を停止した[8]。3月25日、楽天証券は買い注文を停止した中国株を582銘柄に拡大した[78]。
3月26日以降、楽天証券とSBI証券が中国株の買付注文を停止したタイミングで、日本の株価が100円から200円程度の小型株の株価が不自然な乱高下を繰り返すようになったと東洋経済オンラインが報道している[79]。犯罪グループは大量に買い付けて相場をつり上げ、高値で売りつけたと見られている。また、不自然な値動きをした銘柄は100を超えると見られている[80]。
不正取引が確認された証券会社
2025年4月30日現在、SMBC日興証券、SBI証券、大和証券、野村證券、松井証券、マネックス証券、三菱UFJ eスマート証券[81]、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、楽天証券の9社[82]だったが、みずほ証券でも5月13日にも不正なログインによる取引が確認され、不正アクセスが確認された証券会社は10社となった[83]。5月16日までに、岩井コスモ証券、岡三証券、GMOクリック証券でも不正ログインによる取引が確認されている[84]。
5月28日までに、IG証券、SBIネオトレード証券、立花証券、内藤証券でも不正取引による被害が確認され、被害が確認された証券会社は17社となった[85]。翌5月29日、IG証券では被害は発生しておらず[86]、日本証券業協会は被害総数を16社へ訂正した[87]。
6月30日、インタラクティブ・ブローカーズ証券[88]での被害が報じられ、被害総数は17社となった[89]。8月末時点で1社増え、計18社[90]。
このように事件は証券業界全体へ広がり、QUICK資産運用研究所が選定した2025年「投信10大ニュース」では本件が1位となった[91]。
その後、後掲の証券会社各社のセキュリティ強化策が奏功し、被害件数は減少。2026年7月の不正取引は、月間で1件(200万円)であった[92][93]。
2026年9月3日、浜銀TT証券は同社のインターネット取引サービス「浜銀TT証券ダイレクト」での不正アクセス・不正取引の被害の発生を発表[94]。
証券会社の対応 - セキュリティ強化
事件発覚後、証券会社各社は当面の対策として #ログイン時多要素認証の必須化 、そして恒久的な対策として #パスキー導入 を進めてきた。一部の証券会社は #パスキー認証の必須化 を行なっている。
ログイン時多要素認証の必須化
2020年9月にSBI証券で発生した不正送金事件[95][96]を機に、日本の証券会社各社は、証券口座から預金口座への「出金(送金)」に対しては多要素認証や郵送手続きを求める等の、一定のセキュリティ対策を講じていた[97]。一方で、証券口座自体へのログインに対する多要素認証導入は利用者の任意であった[98]。これは、利用者の中には簡便さを重視し複雑な方式を望まない者もおり、証券会社は顧客離れを懸念し[99]、全利用者への必須化までは踏み切れなかったものとされる[100][101]。しかし本件事件を受け、2025年4月25日、日本証券業協会は、証券会社58社がログインにおいて多要素認証を順次必須化すると発表した[102][103]。同年5月29日までに、ログイン時多要素認証必須化を決定した証券会社は76社へ拡大している[104]。7月7日時点で79社へ増加[105]。
- 2025年
- 5月26日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が、ログイン時多要素認証必須化を開始[106]
- 5月27日、三菱UFJ eスマート証券が、ログイン時多要素認証必須化を開始[107]
- 5月30日、マネックス証券が、ログイン時多要素認証必須化を開始[108]。合わせて、自身の意思で多要素認証を解除した顧客に対する不正アクセス被害は免責とする約款改定を実施[109]
- 5月31日、SBI証券が、ログイン時多要素認証必須化を開始[110]。合わせて、自身の意思で多要素認証を解除した顧客に対する不正アクセス被害は免責とする約款改定を実施[111]
- 5月31日、松井証券が、ログイン時多要素認証必須化を開始[112]
- 6月1日、楽天証券が、ログイン時多要素認証必須化を開始[113]。合わせて、自身の意思で多要素認証を解除した顧客に対する不正アクセス被害は免責とする約款改定を実施[114]。楽天証券では5月上旬以降、新たな口座乗っ取りや被害は1件も発生していない[115][116]。10月、楽天証券は絵文字認証を突破する「リアルタイムフィッシング詐欺」を確認したとして、顧客に緊急の注意喚起を行った[117]。
- 6月上旬、SMBC日興証券が、ログイン時多要素認証必須化を開始(適用開始日は顧客によって異なる)[118]
- 7月6日、大和証券が、ログイン時多要素認証必須化を開始[119][120]。合わせて、自身の意思で多要素認証を解除した顧客に対する不正アクセス被害は免責とする約款改定を実施[121]
- 7月7日、みずほ証券が、ログイン時多要素認証必須化を開始[122][123]
上掲の各社が必須化した多要素認証は、その多くが電子メールやショートメッセージサービス (SMS) を用いたワンタイムパスワード方式である。この方式はリアルタイム型フィッシングでは突破されるとされ[124][125]、パスキー等の生体認証を用いた多要素認証が望ましい[126][127][128]。
パスキー導入
このような状況下、日本証券業協会は、ログイン時や出金時に生体認証等を必須とするようガイドラインを改訂した[129]。2025年7月15日、「インターネット取引における不正アクセス等防止に向けたガイドライン」の改正案を公表した[130][131][132]。同年10月15日、同ガイドラインが正式に施行された[133]。
日証協が発表したガイドラインでは、多要素認証の中でもフィッシング詐欺に耐性のある方式を求めている(ログイン・出金・出金先口座の変更では『必須』。取引時は『推奨』)。具体的には、パスキー、公開鍵基盤を用いた実装を求めている[134]。同日発表の金融庁監督指針と同水準の内容となっている( #政府機関の対応 を参照)[135][136]。またフィッシングメール対策として自社のメールシステムへDMARCを導入し、検証失敗時のポリシーは「拒否 (reject) 」とすることを求めている(必須)。また自社が発信する電子メールについてはBIMI (Brand Indicators for Message Identification) を用いた公式アイコンの表示を推奨している[137]。これらガイドラインの内容は、フィッシング対策として有効であると評価されている[138][139]。日証協ガイドライン施行後の2025年11月時点で、証券各社のDMARC適用率は、一般企業(日経平均株価対象企業)を上回っている[140]。
2025年11月現在、野村證券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、SBI証券、楽天証券、マネックス証券、三菱UFJ eスマート証券、松井証券の大手10社は、「パスキー」認証を来春までに導入する方針を固めており、そのうち6社は導入済みである[141]。
- 2025年
- 2026年
その他、SaaS型証券サービスプラットフォームでも、スマートプラスが8月6日から[171][172]、トレードワークスが9月3日から[173]パスキー認証を提供開始した。Liquid(リキッド)は、大手オンライン証券向けにパスキー認証を提供する[174]。また個人向け投資一任契約サービスのウェルスナビも9月上旬からのパスキー導入を予告し[175]、9月3日開始[176]。同社では、口座の乗っ取りによる不正取引の被害は確認されていない[177]。
パスキー認証の必須化
2025年秋から順次導入が始まったパスキー認証を “必須化” する取り組み[178][179]。日本証券業協会は証券各社に対し、2026年6月までに必須化することを要請している[180][181][182]。必須化に当たっては、自身でパスキーを設定できない利用者に向け、店舗等にて対面でサポートする体制が求められる。そのため必須化は対面証券が先行し、対面チャネルの無いネット証券は要請期限の2026年6月まで必須化に踏み切れていなかった[183]。必須化へ踏み切った証券会社でも、顧客サポートが負担となっている[184]。
- 2025年
- 2026年
- 1月末以降、マネックス証券が新規口座開設者のパスキー認証を必須化[189]。ドコモショップにて対面サポートも行なう[190][191][192]。6月30日、既存顧客についてもログイン時パスキー認証を必須化した[193]
- 2月9日、みずほ証券がパスキー認証を必須化[194]
- 2月下旬以降、SMBC日興証券がパスキー認証を必須化予定[158][195]
- 6月から順次、松井証券がログイン時のパスキー登録を必須化[196]
- 6月18日、三菱UFJ eスマート証券がパスキー認証を段階的に必須化すると発表[197]
- 6月以降、楽天証券がパスキー認証を段階的に必須化予定[198][199](2026年1月30日時点で、全チャネルのログインにおいて、約7割のユーザーがパスキー認証を利用済[200])
- 6月末より順次、PayPay証券がパスキー認証を必須化[201]
その他の対応
- 2025年
- 4月30日、SBI証券は5月30日にバックアップサイトを終了すると予告。その後バックアップサイトの終了を前倒しで5月2日に閉鎖[202]。
- 5月8日、SBI証券は自社で扱う全ての中国株の新規買い注文を停止した[203]。
- 5月10日、楽天証券は株式取引ツール「マーケットスピード」の旧バージョンからのログインを遮断[204]。
- 5月13日、楽天証券は「ログイン追加認証(多要素認証)」の仕様の変更を発表。セキュリティ強化のため、認証に3回失敗すると口座をロックする仕様にする[205]。
- 6月16日、マネックス証券はドコモショップにて、同証券の多要素認証の設定方法・利用方法を対面でサポートするサービス(有償)を開始した[206][207]。
- 8月15日、日本証券業協会は、特定の銘柄を売却して利益を得た口座を「加害者口座」と見なし、特定する手法の検討を始めた[208]。
- 10月17日、SMBC日興証券はフィッシング詐欺等による不正アクセス被害拡大防止のため、バンク&トレードの即時入金サービスを10月28日から当面停止すると発表[209]。
証券会社の対応 - 被害補償
証券会社による被害補償動向の概要
一連の不正利用に関し、当初、証券会社各社は下記の各点を理由に顧客への被害補償には消極的であった[212]。
- 証券会社側システムに過失が無く、正規のID・パスワードを用いたログインは本人からのものであるとみなす旨が規約に明記されている。オンライン取引利用者は、開始時に必ず同規約へ同意している
- そのため仮に被害補償を実施する場合も規約を超えた対応になり、証券会社が加入している損害保険が適用できない(損害保険会社からは、規約外で証券会社が自主判断によって実施したものとみなされる)。補償費用が証券会社側の純粋な持ち出しになってしまい、「経営陣の判断によって会社資産を棄損させた」とも解釈され、株主への説明責任が生じ株主代表訴訟のリスクがある
- 正規の売買と不正取引の区別が困難である。従って被害額・補償額が算定できない
- 証券業界の過去の各種事件[213][214]の経緯により、証券会社から顧客への損失補填は厳に禁じられている
- 任意とはいえ、証券会社は多要素認証の仕組みを提供していた。それを利用しなかったのは顧客側の判断と自己責任である
当初金融庁は、被害への対応は証券会社の自主性に委ね、2025年3月下旬時点では「被害補償無し」も容認していたとされる[215]。しかし、被害急拡大の社会情勢を鑑み4月下旬に金融庁の態度が変容し[215]、5月2日、証券会社各社は被害補償へ応じるよう方針を転換した。日本証券業協会を通して、同日時点で被害が確認された9社を含む大手証券会社10社が被害の状況に応じて補償に応じる方針を発表した[216][217]。一方、被害補償の具体的方法は、6月中旬に金融庁が証券会社に対し100%の補償を目指すよう求め出したこともあって調整が難航し[215]、方針決定には6月下旬まで期間を要した[218]。被害補償方針は証券会社各社が独自に取り決め、統一基準は無い[219]。後掲のとおり、対面証券会社とネット証券会社(三菱UFJ eスマート証券、GMOクリック証券を除く)では内容が大きく分かれる[220][221]。いずれにしてもこの補償対応は「異例」であり今後も続くものではない事は、金融庁も認めている[222]。
対面証券会社の対応
- 2025年
- 6月24日、大和証券[223]とSMBC日興証券の被害補償方針が報じられた[224]。過失が無いと認められた顧客に対し、不正売却された株式等を返還し、不正購入した株式は取り除く原状回復措置を基本とする[225]。7月30日、大和証券グループ本社の第1四半期決算発表の中で、損失補償のための引当金として6億2000万円を計上したと発表した[226][227][228]。
- 6月26日、野村證券の被害補償方針が報じられた。上掲の2社と同様に原状回復措置を行なう[229][230]。7月29日、左記内容を同社から公式発表[231]。同日、第1四半期決算発表の中で、補償費用は66億円であると公表した[232][233]。
- 7月1日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の被害補償方針が報じられた。既報の他社と同様に原状回復措置を行なう[234][235]。
- 7月17日、みずほ証券が、被害補償方針を発表。7月9日には金銭による全額補償と報じられたが[236]、既報の対面証券4社と同様に原状回復措置を行なう[237][238]。対面証券大手5社の被害補償方針は、全て原状回復措置となった[239][240]。みずほ証券の被害額は数百万円[241]。
- 7月28日、岩井コスモ証券は被害について、7月15日に全額補償を実施したことを発表。今後発生した不正アクセス等による被害への補償については 、利用状況や被害事情を精査し、被害前の口座状況に原状回復させる全額補償を含めた一定の補償を行う[242]。
- 8月7日、立花証券は7月30日に被害を被った顧客に全額補償(原状回復)を実施したことを発表。7月26日以降に不正取引による被害が発生した場合は、個別に勘案し一定の補償を行う[243]。
ネット証券会社の対応
- 2025年
- 7月11日、SBI証券が被害者へ個別補償の通知を開始していると報じられた[244]。損害額の半額を金銭で補償する方針。その他のネット証券4社(楽天証券、松井証券、マネックス証券、三菱UFJ eスマート証券)も金銭による半額補償を軸に検討していると見られる[245][135]。
- 7月25日、SBI証券は原則として被害額の50%を金銭で補償する方針を発表[246][247]。半額補償に加え、一律1万円の見舞金を渡す[248]。もともとの保有株が売られた分は損失の算定に入れず、手数料のみを補償する[249]。7月29日、SBIホールディングスの第1四半期決算発表の中で、約80億円の損失計上を発表した[250][251]。
- 7月25日、楽天証券は原則として被害額の50%を金銭で補償する方針を発表[252]。半額補償に加え、一律1万円の見舞金を渡す[253]。7月29日、1〜6月期連結決算で10億5800万円の特別損失を計上した[254][251]。
- 7月25日、松井証券は原則として被害額の50%を金銭で補償する方針を発表[255]。7月29日、第1四半期決算にて補償費用として2億7400万円の特別損失を計上した[249]。9月29日以降の被害補償は個別事情に応じて決定する[256]。
- 7月25日、三菱UFJ eスマート証券は、原状回復を含む補償を行うと発表[257][258]。
- 7月28日、マネックス証券は「一定の金銭補償」を行う方針を発表[259][260]。
- 8月5日、GMOクリック証券は原則全額補償すると発表、原状回復措置を行なう。Q2決算で3600万円の特別損失を計上した[261]。5月までに被害にあった顧客を補償の対象とし、今後の被害についての補償方針は個別に対応する[262]。
政府機関の対応
- 2025年
- 金融担当大臣の加藤勝信は、4月22日の会見で、被害者への補償に関して、証券会社に対し「被害の回復に向けて誠実な対応を取るよう指示した」と発言した[263][264]。
- 6月20日、金融庁が、証券会社へセキュリティ強化を義務付け、対策不十分であれば業務改善命令を出せるよう監督指針を改定すると報じられた[265][266]。
- 7月15日、金融庁が「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の改正案を発表した[267]。多要素認証の中でもフィッシング詐欺に耐性のある方式を求めている。具体的には証券会社は自社サイトにおいて中間者攻撃やマン・イン・ザ・ブラウザ攻撃に耐えられる対策を講じ、例としてパスキー、公開鍵基盤を用いた実装を求めている[268][269]。同日発表の日証協ガイドラインと同水準の内容となっている( #証券会社の対応 - セキュリティ強化 を参照)[270]。10月15日、改正監督指針を適用開始[271]。
- 7月28日、金融庁は上掲の監督指針改正とは別に、証券会社の他、銀行・保険・暗号資産交換業者等、幅広い金融サービス事業者へ、不正アクセス対策の強化を要請した[272][273]。
顧客からの訴訟
2025年7月4日、私立大学講師の男性 (60) が、SBI証券に対し原状回復を求める訴訟を起こした[274]。同氏は4月22日に同証券で不正アクセスに遭い、数千万円の被害を受けたと述べている[275]。7月16日、同氏が代表となって「証券口座のっとり被害者の会」[276]が発足した[277][278]。顧問弁護士は河合弘之。証券会社との団体交渉や集団訴訟を計画している[279][280][281]。9月3日、東京地方裁判所にて第1回口頭弁論開始。SBI証券は請求の棄却を求め、争う姿勢を示した[282][283]。
これとは別に、2026年8月27日、不正取引被害者79名が、半額補償を行なったネット証券4社(SBI証券、楽天証券、マネックス証券、松井証券)に対し全面的な原状回復措置を求め、東京簡易裁判所へ民事調停を申し立てた[284]。担当弁護士は上掲の訴訟と同じ河合弘之弁護士[285]。被害者らは、不正取引認知後も証券会社へ電話が通じなかったり郵送対応を求められたことで口座凍結が遅れ、被害が拡大したと述べ[286][287]、これらを指して証券会社の防御態勢がずさん・脆弱であったと主張している[288][289]。被害者は「口座から一銭も無くなった」とも発言しているが、一連の証券口座乗っ取り事件で不正出金事案は発生していない[290][291]。
著名人の被害
2025年5月1日、個人投資家のテスタが自身の楽天証券の口座が口座乗っ取りの被害にあったことをX(旧 Twitter)に投稿した[292]。その関連報道により個人投資家の防犯意識の向上や、証券会社のセキュリティ対策見直しの機運が強まった[293]。
日本国外での類似事例
香港やマレーシアでも同様の手口と見られる不正アクセスと相場操縦事件が起きており、香港では2024年10月から11月にかけてハッキングされた証券口座を通して大量の買い付けが行われたことが確認されている[294]。
二次的なフィッシング行為
不正取引の被害者や、不正アクセス対策をしようとする人を標的とした二次的なフィッシング行為も確認されている。不正アクセス対策として口座ロックをしようとする人を標的とした、真偽不明の電話番号を紹介するSNSの情報や、証券会社からのフィッシング詐欺の注意喚起メールを装った、フィッシング詐欺のメールが確認されている[295]。
また、日本証券業協会が被害者への補償に応じる方針を発表した翌日に、補償手続きの案内を装ったメールが送られた事例が確認されている[296][16]。
フィッシングサイトの傾向
2025年5月度はSBI証券をかたるフィッシングサイトが急増、また大和証券をかたるフィッシングサイトも増加傾向にある[297]。
2025年6月度は大和証券をかたるフィッシングサイトが前月比8倍に増加、またSBI証券をかたるフィッシングサイトも5月から引き続き増加傾向にある[298]。7月に入って野村證券をかたるフィッシングサイトも増加傾向にある[298]。楽天証券をかたるフィッシングサイトは6月には4月の100分の1に減少、証券会社のターゲットを変えながらフィッシングが続けられている傾向が指摘されている[298]。
2025年7月は野村證券をかたるフィッシングサイトが前月比5倍に増加、またマネックス証券やSMBC日興証券をかたるフィッシングサイトも増加傾向にある[299][300]。
2025年9月度は証券系全体のフィッシングサイト数は減少傾向にあるものの、GMOクリック証券のフィッシングサイトが急増した[301]。三菱UFJモルガン・スタンレー証券やマネックス証券のフィッシングサイトも増加傾向にある[301]。一方で、報告数の多かった大和証券、野村証券、SBI証券は減少傾向にあり、攻撃者側がフィッシングサイトのターゲットを別の証券会社に切り替えるという状況が続いている[301]。
2026年4月17日、フィッシング対策協議会がSBIネオトレード証券をかたるフィッシングの報告を受けているとして、緊急情報を公開した[302]。
その他の影響
2025年10月8日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、コラボス株(東証グロース上場銘柄)を12.94%取得したとして大量保有報告書を提出した[303][304][305]。同証券の被害者口座を原状回復する際に、不正取引によって購入された株式を証券会社の管理口座に移管させたもの[注釈 2]。この結果、一時的に証券会社が大株主となる企業が発生する事態となった[306][307]。
2026年3月26日、岡三証券は株式のネット取引サービス(証券総合口座・NISA口座など)から撤退し同事業をSBI証券へ譲渡すると発表。セキュリティー対策の強化が重荷となり、事業の採算が合わなくなったとされる[308][309]。
脚注
注釈
出典
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