LGBT関連映画

ウィキペディアから、無料の百科事典
LGBT > LGBTの文化 > LGBT関連映画

LGBT関連映画(エルジービーティーかんれんえいが、英語:LGBT-related films)とは、性的少数者(LGBT。レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーなど)に関連する映画作品を指す。性的少数者に関連する映画作品は、総称の「クィア」を用いて、クィア映画(Queer films)とも呼ばれる[1][2][3][4]。本記事ではテレビドラマについても同時に扱う。

男性同性愛者に向けたポルノ系作品は「ゲイ・ポルノ」「ゲイビデオ」などを参照のこと。

沿革

1929年、フランク・ヴェーデキントの戯曲(ルル二部作)を原作とするドイツ映画『パンドラの箱』が公開される。主人公のルル(ルイーズ・ブルックス)にゲシュヴィッツ伯爵夫人が恋愛感情を抱くサブブロットが物議を醸し、フランスでは伯爵夫人とルルの場面が削除された[5]。またいくつかの国においては結末が変更されたものが上映された。

1934年、リリアン・ヘルマンの戯曲『子供の時間(The Children's Hour)』がブロードウェイで初演。女子寄宿学校を経営する二人の女性教師をレズビアンの恋人同士だと言って生徒が噂を立てたことから悲劇が始まるこの物語はロングランとなり、批評家からも高く評価された[6]。映画プロデューサーのサミュエル・ゴールドウィンは映画化に興味を示し、ヘルマンと契約した。映画製作当時施行されていたヘイズ・コードでは、同性愛を題材にしたり、それをほのめかしたりすることさえ許されなかった[7]ため、ヘルマンに映画用に脚色させた。1936年、ヘルマンの戯曲は『この三人』のタイトルでウィリアム・ワイラー監督により、同性愛の部分はカットされて映画化された。

1948年、アルフレッド・ヒッチコック監督による実験的なスリラー映画『ロープ』が公開される。近年、登場人物のブランドン(ジョン・ドール)とフィリップ(ファーリー・グレンジャー)の関係性に同性愛的な含みがあることが多く指摘されている[8][9][10][11]。グレンジャーは両性愛者で[12]、脚本を書いたアーサー・ローレンツとは製作当時交際していた[13]。ローレンツはドキュメンタリー映画『セルロイド・クローゼット』の中で「当時の検閲官はこれが同性愛者についての映画だとは気づいていなかったと思う。何がそうで何がそうでないのか彼らは分かっていなかったから、うまい具合に検閲を通過できた」と語っている[14]。

1959年、木下惠介監督は自身のオリジナル脚本による作品『惜春鳥』を発表した[15]。時を経て、映画評論家の石原郁子は1999年に『異才の人 木下恵介―弱い男たちの美しさを中心に』を出版。同書において、「木下はこの映画で一種捨身のカムアウトとすら思えるほどに、はっきりとゲイの青年の心情を浮き彫りにする。邦画メジャーの中で、初めてゲイの青年が<可視>のものとなった、と言ってもいい」と書き記し、日本におけるクィア映画のさきがけとしての『惜春鳥』の再評価につながった[16][17]。

イギリスの脚本家のジャネット・グリーンはウォルフェンデン報告書(1957年4月公表)を読み、男性同性愛者に対する数々の訴追事件の事例を知った[18]。ウォルフェンデン報告書は政府に対し「同意した成人間の私的な同性愛行為はもはや犯罪とすべきではない」と勧告していた[19]。グリーンは同性愛禁止法の改正を熱心に支持するようになり、夫のジョン・マコーミックとともに同性愛を明確にテーマにした一本のシナリオを書いた[18]。プロデューサーのマイケル・レルフと監督のバジル・ディアデンは、主人公の弁護士メルヴィル・ファー役として何人もの俳優に声をかけるが、いずれも断られた[20]。最終的に当時大スターだったダーク・ボガードが引き受けるが、ボガードは周囲から、このような映画に出演するとキャリアが台無しになると警告を受けた[21]。ゲイであることをひた隠しにしている主人公のメルヴィルが秘密を暴露すると脅す謎の集団から脅迫を受けるという筋立ての映画『Victim』は1961年8月に公開された。英語圏の映画として初めて「ホモセクシュアル」という言葉を使った作品とされる。画期的な点はそれだけにとどまらず、1967年にイギリスで性犯罪法が成立し、それまで犯罪行為とされていた同性愛行為が合法になったのは、『Victim』がきっかけだったと言われている[21]。

イギリスの劇作家のシーラ・ディレイニーが19歳の時に書いた戯曲『蜜の味』が同名のタイトルで映画化され、1961年9月に公開される。監督のトニー・リチャードソンはヒロインのジョーに寄り添うゲイのジェフリーを設定を変えることなく登場させ、ジェフリーが抱える不安や同性愛差別への批判をしっかりと描いた[22][23]。『蜜の味』は1962年5月のカンヌ国際映画祭に出品され、ジェフリーを演じたマレー・メルヴィンは男優賞を受賞した。

同性愛が重要なサブプロットとして描かれるアレン・ドルーリーの小説『Advise and Consent』は1960年にピューリッツァー賞を受賞した。オットー・プレミンジャー監督は同性愛のエピソードに手を加えないまま同作品を映画化すると発表。ハリウッドの検閲と闘い、1961年10月3日にアメリカ映画協会は折れて「現代の文化、風習、価値観に合わせて、慎重・抑制を条件として、同性愛その他の性的逸脱を扱うことを認める」と規則を改正した[24]。同年12月に『子供の時間』の2回目の映画化作品である『噂の二人』が公開されるが、『噂の二人』は性的規制改正後にアメリカ映画協会のコード・シールを受けた最初の映画であった[24]。ドルーリーの小説を映画化したプレミンジャー監督の『野望の系列』は1962年に公開された。

海外

レズビアン関連映画作品

欧米など

『パンドラの箱』(1929年)
『制服の処女』(1931年)
『処女オリヴィア』(1951年)

アジア

ゲイ関連映画作品

欧米など

1950 - 1970年代
1980年代
1990年代
2000年代
2010年代
2020年代

アジア

トランスジェンダー関連映画作品

日本

レズビアン関連映画作品

『卍』(1964年)
『美しさと哀しみと』(1965年)

ゲイ関連映画作品

『惜春鳥』(1959年)
一般映画
成人映画

トランスジェンダー関連映画作品

テレビドラマ

レズビアン関連ドラマ作品

ゲイ関連ドラマ作品

(キャストの一部にゲイが登場する作品含む。)

映画祭

日本
名称創立年備考
レインボー・リール東京1992年「東京国際レズビアン・ゲイ・フィルム&ビデオ・フェスティバル」の名称で第1回が開催された。2016年に「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」から現行の名称に変更。
関西クィア映画祭2005年2025年で32回目を迎えた[28]。
香川レインボー映画祭2005年
青森インターナショナルLGBTフィルムフェスティバル2006年
アジアンクィア映画祭2007年「アジアン・クイア・フィルム&ビデオ・フェスティバル・イン・ジャパン」の名称で第1回が開催された。2026年2月に13年ぶりに第5回が開催された[29]。
愛媛LGBT映画祭2011年松山市で第1回が開催された[30]。
福岡レインボー映画祭2016年福岡市で第1回が開催された[31]。
福井LGBTQ映画祭2021年福井市で第1回が開催された[32]。
札幌LGBTQ映画祭2022年札幌市で第1回が開催された[33]
渋谷ジェンダー映画祭2022年渋谷区で第1回が開催された[34]。
海外
名称創立年備考
アウトフェスト・ロサンゼルスLGBTQ映画祭1982年
ニューヨークLGBTQ+映画祭1988年通称「NewFest」。
インサイドアウト映画祭1991年カナダのトロントで第1回が開催。
香港レズビアン&ゲイ映画祭1989年
北京クィア映画祭2001年
韓国クィア映画祭2001年ソウル・クィア・カルチャー・フェスティバルにおいて開催。
ソウル国際プライド映画祭2011年
台湾国際クィア映画祭2014年

脚注

注釈

  1. ↑ 第76回カンヌ国際映画祭において、日本映画史上初のクィア・パルム賞を受賞した。
  2. ↑ 主役がゲイで脇役がバイセクシャル。全編に渡り同性愛がテーマ。
  3. ↑ エンディング主題歌も同性愛をテーマにした松任谷由実の『告白』が使用された。

出典

  1. ↑ “「彼は僕の宇宙の全てに存在する」。パラレルワールド描く韓国クィア映画『あのもし』を言葉から紐解く”. CINRA (2025年10月28日). 2026年4月8日閲覧。
  2. ↑ 『韓国女性映画 わたしたちの物語』 2022, pp. 158–162.
  3. ↑ 김혜리 (2000年1月4日). “<여고괴담 두번째 이야기> 공동감독 김태용ㆍ민규동”. 씨네21. 2026年5月26日閲覧。
  4. ↑ “Out ranked the 25 best queer films of the century so far”. Out (2024年12月23日). 2026年5月13日閲覧。
  5. ↑ Hoberman, J. (2006). Opening Pandora's Box. Reflections on Pandora's Box (DVD liner booklet). The Criterion Collection. pp. 8–9. CC1656D.
  6. ↑ “The Children's Hour”. Internet Broadway Database. 2016年10月22日閲覧。
  7. ↑ Noriega, Chon (1990). “"Something's Missing Here!": Homosexuality and Film Reviews during the Production Code Era, 1934–1962”. Cinema Journal 30 (1): 20–41. doi:10.2307/1224848. ISSN 0009-7101. JSTOR 1224848 2026年6月4日閲覧。.
  8. ↑ Canby, Vincent (June 3, 1984). “Hitchcock's 'Rope:' A Stunt to Behold”. The New York Times. 2009年5月14日閲覧.
  9. ↑ Miller, D. A. (1991). “Anal Rope”. Inside/Out: Lesbian Theories, Gay Theories. Routledge. pp. 119–141. ISBN 0-415-90237-1
  10. ↑ “When Hitchcock Went Gay: 'Strangers On A Train' And 'Rope'” (2014年8月11日). 2026年6月1日閲覧。
  11. ↑ 石原郁子 1996, p. 57.
  12. ↑ Granger, Farley, Include Me Out. New York: St. Martin's Press 2007. ISBN 0-312-35773-7, pp. 37-41
  13. ↑ Laurents, Arthur (2000). Original Story By. pp. 115. ISBN 0-375-40055-9
  14. ↑ Epstein, Rob and Friedman, Jeffrey (Directors) (1995). The Celluloid Closet (Documentary) (英語). Sony Pictures Classics.
  15. ↑ 惜春鳥 - KINENOTE
  16. ↑ 石原郁子 1999, p. 226.
  17. ↑ 神谷円香 (2020年11月18日). “映像世界から多様な性のあり方「LGBTQ+」を考える企画展 早稲田大演劇博物館で”. 東京新聞. 2026年5月13日閲覧。
  18. 1 2 Grey, Tobias (14 July 2017). “Out of the closet, on to the screen: the legacy of 'Victim'”. Financial Times. 2022年12月10日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2017年7月25日閲覧.
  19. ↑ Lewis 2016, p. 275.
  20. ↑ Stafford, Jeff. “Victim”. Turner Classic Movies. 2012年2月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年9月27日閲覧。
  21. 1 2 “LGBTQ+の歴史を動かした名作映画。”. Vogue Japan (2020年4月8日). 2026年5月25日閲覧。
  22. ↑ 北村紗衣 (2024年4月5日). “【お砂糖とスパイスと爆発的な何か】「ヒロインのゲイ友」はどこから来た? ロマンティックコメディのステレオタイプ”. 書肆侃侃房 web侃づめ. 2026年6月1日閲覧。
  23. ↑ Cooper, Neil (2023年5月5日). “Actor known for groundbreaking gay role in A Taste of Honey”. The Herald. 2026年5月25日閲覧。
  24. 1 2 パリス 上巻 1998, p. 357.
  25. 1 2 임수연 (2024年10月31日). “기획 지금까지 미디어가 퀴어를 재현하는 방식 점검하기, 굳건한 벽장의 문을 누가, 어떻게, 열 것인가”. 씨네21. 2026年5月15日閲覧。
  26. ↑ “道をつくる 2022 - 韓国クィアの今、その声のいくつか -”. Normal Screen. 2026年9月21日閲覧。
  27. ↑ “演技未経験のトランスジェンダー当事者をオーディションで主演に抜擢 短編映画『息子と呼ぶ日まで』公開決定”. ムビコレ (2024年8月18日). 2026年4月21日閲覧。
  28. ↑ “LGBTQ+映画の祭典「レインボー・リール東京」6月&7月、渋谷で開催”. シネマカフェ (2025年4月2日). 2025年7月27日閲覧。
  29. ↑ “第5回アジアンクィア映画祭 | 2026年2月21日(土) - 2月22日(日)”. アジアンクィア映画祭. 2026年4月8日閲覧。
  30. ↑ “愛媛LGBT映画祭”. レインボープライド愛媛. 2026年4月8日閲覧。
  31. ↑ “明日11/5 sat. 福岡レインボー映画祭 Fukuoka Rainbow Film Festival いよいよ開催です!”. NPO法人Rainbow Soup (2016年11月4日). 2026年4月8日閲覧。
  32. ↑ 牧悠平 (2021年11月11日). “LGBTQテーマに映画祭 21日、福井で県内初”. 中日新聞. 2026年4月8日閲覧。
  33. ↑ “特集:多様な当事者のリアリティに触れられる多彩なLGBTQ映画祭”. PRIDE JAPAN. 2026年4月16日閲覧。
  34. ↑ “渋谷で「ジェンダー映画祭」 渋谷区パートナーシップ制度10周年”. シブヤ経済新聞 (2025年10月29日). 2026年4月16日閲覧。

参考文献

関連項目