ハマグリ
ハマグリの中型・小型個体。熊本県産。
保全状況評価
絶滅危惧II類 (VU)(環境省レッドリスト)
分類
界 : 動物界 Animalia
門 : 軟体動物門 Mollusca
綱 : 二枚貝綱 Bivalvia
亜綱 : 異歯亜綱 Heterodonta
科 : マルスダレガイ科 Veneridae
亜科 : ハマグリ亜科 Meretricinae
属 : ハマグリ属 Meretrix
種 : ハマグリ M. lusoria
学名
Meretrix lusoria (Roeding, 1798)
和名
ハマグリ

ハマグリ(蛤、文蛤、蚌、浜栗、鮚、Meretrix lusoria、英:Asiatic hard clam)は、マルスダレガイ科に分類される二枚貝の1種である。食用として一般的な貝類の一つである[1]。俳句文化においては春の季語の一つ[2]。

呼称

標準和名の「ハマグリ」は、Meretrix lusoriaという単一の種を表す。ただし、この他にも様々な用法があるため、生物学や水産学関連の文書以外での「ハマグリ」「はまぐり」「蛤」などが何を指すのかが不明な場合も多く、注意が必要である。

古くは一般的な二枚貝類の総称として「ハマグリ」が使われた。和名構成の基幹ともなり、ベニハマグリ(バカガイ科)[3]、ノミハマグリ(マルスダレガイ科ノミハマグリ属)[4]など、「属」レベル・「科」レベルで異なる種に「○○ハマグリ」という標準和名が与えられることがある。

ハマグリ属の二枚貝はどれも外見が似ているため、水産市場や日常生活ではチョウセンハマグリやシナハマグリを含め、ハマグリと総称・混称される。実際、水産庁の「魚介類の名称のガイドラインについて」(平成19年7月)でも、ハマグリ属の総称として「ハマグリ」と呼んでもよいことになっている。また、ホンビノスガイ(一名・シロハマグリ)も「ハマグリ」と呼ぶことがある[5]。なお、国内で流通するハマグリと呼ばれる貝は、事実上全部チョウセンハマグリまたはシナハマグリである[6]。

和英辞典などでハマグリの訳語としてclamを当てるが(一例として[7])、clamはハマグリとイコールの概念ではない[8]。和独辞典[9]などでハマグリの訳語とされるVenusmuschelについても同様(Venusmuschelの訳語としてマルスダレガイを当てる独和辞典[10]もある)。

分布

北海道南部から九州にかけての日本各地。朝鮮半島。台湾。中国大陸沿岸[11][12]。

日本では干拓や埋め立て、海岸の護岸工事などによって生息地の浅海域が破壊されたため、1980年代には個体数が急激に減少した。少なくとも1980年代以降、瀬戸内海西部の周防灘の一部、有明海の一部などの局地的な生息地を除くほとんどの産地で絶滅状態になった。『千葉県レッドデータブック』でも本種は絶滅種 (EX) に指定されている[13]。環境省の「第4次レッドリスト」では、絶滅危惧II類に指定されている(2012年)[14]。

形態

殻は丸みを帯びた三角形。やや薄い。外套線湾入は極めて浅い。近縁種のシナハマグリに比べ、後背縁はやや直線的[15]。殻長8.5センチメートル、殻高6センチメートル、殻幅3.5センチメートル[16]。殻の表面は黄褐色で2本の放射帯を持つものが典型であるが、個体差が大きい[11]。

生態

淡水の影響のある内湾の潮間帯から水深20メートルの砂泥底に生息[12]。

産卵期は6-10月(ピークは8-9月)。2年で32ミリメートル、4年で44ミリメートル、5年で55ミリメートルまで成長する。寿命は少なくとも6年とされる[11]。

人との関わり

日本では、縄文時代にはすでに利用していたと考えられており、貝塚からの出土事例もある。東京の中里貝塚から大量に出土したハマグリの貝殻を分析した北区飛鳥山博物館によると、資源管理(大きく育つまで待ってから採取する)や、干し貝にして内陸へ供給していた可能性がある[17]。

以前は鹿島灘、九十九里浜、日向灘、石川県加賀海域が主要な産地であったが、水質汚染と干潟の大規模な埋立により水揚げは激減[18]、近年では国内で流通するハマグリ類の3/4はチョウセンハマグリである[19]。その一方、福岡県糸島市の加布里(かふり)湾のように、禁漁期間・区域の設定、小さな貝は放流するといった規制により、ハマグリの資源保護と高級ブランド化に成功している地域もある[20]。

食品として

ハマグリは高級食材の一つで、大量に含まれる遊離アミノ酸が味に深みとコクを与える[17]。殻付きの状態で潮汁、酒蒸し、焼き蛤など、剥き身として寿司、ハマグリ鍋、ハマグリ飯、ぬた、時雨煮など、利用範囲は広い[21]。ただし、アサリやシジミ等と比較して価格が高いため、日常で食べる機会は少ない傾向にある。

生のハマグリはビタミンB1を分解してしまう酵素アノイリナーゼを含むため、一般に生食には向かない[22]。

ハマグリのガソリン焼き

南浦市温泉郡龍岡温泉にて屋外でアルコールを燃料とした火で貝を焼く様子

朝鮮民主主義人民共和国南浦市の郷土料理・貝焼きは、屋外にて筵に敷き詰めたハマグリにガソリンをふりかけて火を点け、一気に焼き上げる一種のバーベキューである。急速燃焼されるため、完成時にはガソリン臭さは消滅する。

その豪快な調理方法のインパクトから国外にも模倣する人が少なくない[23]。ガソリンの代わりにアルコールを使う調理もあり、こちらの方が調理としては上等なものとされる[24]。平壌市には代わりにガスバーナーで焼いて提供するレストランも存在する[25]。

発祥は諸説あるが、日本で放送されたテレビ番組『なるほど!ザ・ワールド』の1987年11月24日放送回において、この料理が南浦取材映像の中で取り上げられており、「苦難の行軍期(1994年 - 1998年)に物資不足の中で誕生した説」は完全に誤りである。

2020年代には190ヶ国で配信された韓国ドラマ『愛の不時着』に登場したことで全世界的に知られることとなった。

碁石の材料

囲碁に用いる碁石のうち、白石はハマグリの貝殻を用いる。日本各地に名産地があったが、ほとんど枯渇しており、メキシコなどから輸入した貝殻を加工している。

ハマグリに関する文化

ハマグリは同一個体の殻でなければぴったりとかみ合わない。そこでハマグリは貞節の象徴とされ、結婚式やひな祭りでハマグリの吸い物が出されることも多い[16]。貝合わせという古くからの遊戯もハマグリを使うことが多い。

語源は「浜の栗」から。また、「クリ」は石を意味する言葉だとする説もある。石が地中にあるように砂の中に生息する本種をクリと呼んだ[26]。

ハマグリに関する言葉

鳥山石燕 『今昔百鬼拾遺』に描かれた蜃気楼
ぐりはま
ハマグリの殻は向きを揃えないとぴったりと合わないことから、「はまぐり」を逆にした「ぐりはま」で「物事の手順・結果が食い違うこと。意味をなさなくなること」を表す。転訛して「ぐれはま」ともいう[27]。
ぐれる
「ぐれはま」の「ぐれ」を動詞化したもの。「予期したことが食い違う・見込みが外れる。不良化する」ことを表す[28]。
蜃気楼
「蜃」をおおはまぐりと解釈し、ハマグリが吐いた粘液の中に現れる楼閣とされることがある。

参考文献

出典

  1. ↑ 金田一京助, 金田一春彦, 見坊豪紀, 柴田武, 山田忠雄 編『新明解国語辞典』(第二三刷)三省堂、1972年1月24日、909頁。「食べる貝として、最も普通で、おいしい。」
  2. ↑ 大後美保 編『季語辞典』東京堂出版、1977年12月10日、114頁。
  3. ↑ “Mactra ornata Gray, 1837 ベニハマグリ”. BISMaL. 国立研究開発法人海洋研究開発機構. 2021年2月14日閲覧。
  4. ↑ “Turtonia minuta (Fabricius, 1780) ノミハマグリ”. BISMaL. 国立研究開発法人海洋研究開発機構. 2021年2月14日閲覧。
  5. ↑ “魚介類の名称のガイドラインについて” (PDF). maff.go.jp. 農林水産省. 2020年11月27日閲覧。
  6. ↑ 秋山et al 2019, p. 138.
  7. ↑ 新和英中辞典 2002, p. 1489.
  8. ↑ 中島文雄 編『岩波 英和大辞典』岩波書店、1971年1月25日、304頁。「(食用になる)二枚貝」
  9. ↑ 奥津彦重 編『和独辞典(総皮装)』(11版)白水社、1980年1月20日、329頁。
  10. ↑ 『小学館独和大辞典 特装版(総革装天金)』小学館、1985年1月18日、2360頁。ISBN 4-09-515011-4。
  11. 1 2 3 日本大百科全書 1988s, p. 50.
  12. 1 2 世界文化社 2004, p. 335.
  13. ↑ 千葉県レッドデータブック 2011, p. 431.
  14. ↑ “第4次レッドリストの公表について”. env.go.jp. 環境省 (2012年8月28日). 2015年4月27日閲覧。
  15. ↑ 奥谷 2017, p. 1249.
  16. 1 2 『料理食材大事典』主婦の友社、1996年7月27日、673頁。ISBN 4-07-214741-9。
  17. 1 2 櫛田寿宏 (2019年2月24日). “【フード 食・歳時記】ハマグリ 磯の香りとエキスで春到来(page=1)”. sankei.com. 2021年2月19日閲覧。
  18. ↑ 日韓共同干潟調査団ハマグリプロジェクトチーム(山下博由et al.)「沈黙の干潟 ―ハマグリを通して見るアジアの海と食の未来―」『高木基金助成報告集 Vol.1』高木仁三郎市民科学基金、2004年、85-91頁。 NAID 10028165592。
  19. ↑ 小島彰、初澤敏生、阿部高樹、井上健、熊本尚雄「ハマグリ漁におけるプール制について ―鹿島灘漁協,はさき漁協,大洗町漁協の事例―」『福島大学研究年報』第5号、2009年、33-37頁。
  20. ↑ 「国産ハマグリ 福岡で復活/漁獲規制が実を結ぶ」『日経MJ』2019年2月25日。
  21. ↑ 河野 1991, p. 393.
  22. ↑ 小川政禧、梅村和子、江原史子「蛤アノイリナーゼの調理科学的研究(主として食塩の影響)」『栄養と食糧』第8巻第4号、公益社団法人日本栄養・食糧学会、1955年、11-13頁、doi:10.4327/jsnfs1949.8.145。
  23. ↑ はまぐりのガソリン焼きを食べに行ってきました!!
  24. ↑ 井上一希 (2020年8月31日). “北朝鮮名物「愛の不時着」にも登場したハマグリのガソリン焼きの魅力”. Korea World Times. 株式会社コリアワールドタイムズ. 2021年2月16日閲覧。
  25. ↑ 南浦名物ハマグリのガソリン焼きがガスバーナー焼きに。 - 韓食生活
  26. ↑ 前田 2005, p. 926.
  27. ↑ 前田 2005, p. 442.
  28. ↑ 前田 2005, p. 447.

関連資料

関連項目

外部リンク

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