マルテッリの受胎告知
| イタリア語: Annunciazione Martelli 英語: Martelli Annunciation | |
| 作者 | フィリッポ・リッピ |
|---|---|
| 製作年 | 1440-1442年ごろ |
| 種類 | 板上にテンペラ |
| 寸法 | 175 cm × 183 cm (69 in × 72 in) |
| 所蔵 | サン・ロレンツォ聖堂、フィレンツェ |
『マルテッリの受胎告知』(マルテッリのじゅたいこくち、伊: Annunciazione Martelli、英: Martelli Annunciation)は、イタリア初期ルネサンス期の巨匠フィリッポ・リッピが1440-1442年ごろに板上にテンペラで制作した絵画である。メディチ家の教会であったサン・ロレンツォ聖堂 (フィレンツェ) 内にブルネレスキが設計したマルテッリ礼拝堂のために描かれた。現在も、同聖堂に所蔵されている[1][2]。
作品
『新約聖書』中の「ルカによる福音書」 (1章26-38) によれば[3]、ある日、大天使ガブリエルが聖母マリアのもとに現れ、「おめでとう、恵まれた方。あなたは神の恵みにより、男の子を産みます。その子をイエスと名付けなさい」と彼女が神の子を授かることを告げる[3]。マリアは驚きながらもイエス・キリストの母としての役割を受け入れ、「わたしは主のはしためです。お言葉どおりこの身に成りますように」と答える[3]。
フィリッポ・リッピはメディチ家のコジモ・デ・メディチに寵愛され、その庇護のもとに大胆に画境を切り開いていった画家である。リッピは受胎告知を主題とした作品を何点も描いているが、1440年ごろから制作された本作で、30代前半であった画家は様々な実験を試みている[2]。

通常ならば、聖母マリアと大天使ガブリエルの2人で演じられるこの場面にはさらにもう2人の天使が配され、情景はより華やかに演出されている。背景は画面中央の柱によって光の当たっている右側と陰になっている左側に分割されている一方、前景から遠景に後退する建物と木々がなす多くの垂直線が配置され[2]、ルネサンス期の斬新な発明である線遠近法が駆使されている[1][2]。
しかし、おそらく本作の最も顕著な特徴は、そのだまし絵的な効果であろう[1]。画面を二分する柱は実在しているようで[2]、ガブリエルが持つ白いユリの花 (聖母の純潔の象徴[4]) が入れられることとなる、画面最前景右寄りの透明な花瓶も実物のように見える。リッピは、事物を客観的に表現する名人であった同時期のフランドルの画家たちに挑戦しているかのようである[1]。
なお、身体をひねった聖母の異例のポーズは、ドナテロがサンタ・クローチェ聖堂 (フィレンツェ) のカヴァルカンティ (Cavalcanti) 礼拝堂のために制作した高浮き彫りの『受胎告知』[5]と同様のものとなっている。また、聖母と跪いている大天使ガブリエルと聖母の配置も同じである。とはいえ、リッピの人物像の顔の描写は、ドナテロの古典主義的なものとは異なっている[1]。
関連作品
- 『受胎告知』(1435-1440年ごろ)、ナショナル・ギャラリー (ワシントン)
- 『二人のひざまずく寄進者のいる受胎告知』(1440-1445年)、バルベリーニ宮国立古典絵画館 (ローマ)
- 『受胎告知』(1449-1459年)、ナショナル・ギャラリー (ロンドン)
脚注
参考文献
- 千足伸行監修『週刊世界の美術館 No.60 ウフィツィ美術館III』、講談社、2001年4月刊行 全国書誌番号:20135446
- 大島力監修『名画で読み解く「聖書」』、世界文化社、2013年刊行 ISBN 978-4-418-13223-2
- 岡田温司監修『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』、ナツメ社、2011年刊行 ISBN 978-4-8163-5133-4