リチャード・ネルソン

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リチャード・K・ネルソン
Richard K. Nelson
生誕 Richard K. Nelson
1941年12月1日
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国・ウィスコンシン州マディソン
死没 (2019-11-04) 2019年11月4日(77歳没)
カリフォルニア州サンフランシスコ
住居 アラスカ州シトカ
国籍 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
教育 文化人類学博士(Ph.D.)
出身校 ウィスコンシン大学マディソン校(学士・修士)
カリフォルニア大学サンタバーバラ校(博士)
職業 文化人類学者、ネイチャーライター、ラジオプロデューサー
活動期間 1969年 - 2019年
団体 シトカ保全協会(理事、40年間)
著名な実績 アラスカ先住民の生活文化研究、ネイチャーライティング、ラジオ番組『Encounters』の制作
代表作 Make Prayers to the Raven: A Koyukon View of the Northern Forest
The Island Within
流派 ネイチャーライティング
影響を受けたもの コユコン・アサバスカンの長老スティーヴン・アトラおよびキャサリン・アトラ夫妻、イヌピアットの狩猟者たち
影響を与えたもの ハンク・レントファー、シトカ保全協会、作曲家ジョン・ルーサー・アダムズ
活動拠点 アラスカ州シトカ
肩書き アラスカ州桂冠作家(1999年 - 2001年)
受賞 ジョン・バロウズ賞、ラナン文学賞(創作ノンフィクション部門)、シガード・オルソン・ネイチャーライティング賞
栄誉 ラスムソン財団特別功労芸術家賞(2019年)
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リチャード・K・ネルソン(Richard K. Nelson、1941年12月1日 - 2019年11月4日)は、アメリカ合衆国の文化人類学者、ネイチャーライティング作家、ラジオプロデューサー。友人たちからは愛称「ネルズ (Nels)」と呼ばれた[1]。

イヌピアット、グウィッチン・アサバスカン、コユコン・アサバスカン(en:Koyukon Athabaskan)などアラスカ先住民の生活文化を長期間の現地滞在を通じて記録した文化人類学者としてキャリアを始め、後に人間と自然の関わりを主題とする詩的な散文で高く評価されるネイチャーライティング作家へと軸足を移した[2]。代表作に『Make Prayers to the Raven: A Koyukon View of the Northern Forest』(1983年)、『The Island Within』(1989年、ジョン・バロウズ賞受賞)がある[3][4]。

1999年から2001年まで第10代アラスカ州桂冠作家を務め[5]、2004年からはラジオ番組『Encounters』のホスト・プロデューサーとして100本以上のエピソードを制作した[2]。長年アラスカ州シトカに暮らし、シトカ保全協会の理事を40年間務めるなど、環境保護活動にも尽力した[5]。

生涯・経歴

生い立ちと学生時代

1941年12月1日、ウィスコンシン州マディソンに生まれた[1]。子供の頃からカメやヘビなど爬虫類・両生類に強い関心を抱き、大学では当初、爬虫両生類学者を志して動物学を専攻していた[1]。

しかし、ある人類学の教授から北極圏への調査旅行の機会を与えられたことをきっかけに人類学へと専攻を転じ、ウィスコンシン大学マディソン校で学士号・修士号を取得した[1][2]。

アラスカ先住民との生活

1964年8月、22歳のネルソンは、アメリカ空軍の依頼による海氷サバイバルマニュアル作成調査のため、イヌピアットの村ウェインライトに派遣された[1]。その冬をイヌピアットの狩猟者たちのもとで過ごし、犬ぞりの操縦やアザラシ・カリブーの狩猟技術を学ぶとともに現地の言語を習得した[1][6]。

この時の記録と体験は、27歳で発表した最初の著書『Hunters of the Northern Ice』(1969年、シカゴ大学出版局)の土台となった[6]。この頃、彼はイヌピアットから「アザラシ」を意味する「ナッチク(Natchiq)」という名を授かっている[7]。

その後カリフォルニア大学サンタバーバラ校で文化人類学の博士号を取得し[2]、各地の大学で人類学を教える職に就いたが、都市での講義生活には耐えられず、まもなく大学を離れてアラスカでのフィールドワークに戻り、参与観察に入った[1]。

コブク川沿いの村アンブラーで犬ぞりの隊を組んで狩猟者・罠猟師たちに弟子入りしたのち、ダルキ峠を越えてコユコン・アサバスカンの村フスリアへ移り、長老スティーヴン・アトラおよびキャサリン・アトラ夫妻の小屋の傍らに滞在した[1]。

インフォーマントたち、アトラ夫妻をはじめとする村の長老たちとの生活は、ネルソンにとって生涯を通じて最も深い師弟関係となり、代表作『Make Prayers to the Raven: A Koyukon View of the Northern Forest』(1983年)の直接の土台となった[1][2]。

作家・環境活動家として

『Make Prayers to the Raven』の刊行のあと、ネルソンは学術的な民族誌(エスノグラフィ)の書き手から、より文学的な散文(ノンフィクション)の書き手へと軸足を移していった[3]。

1989年発表の『The Island Within』は、南東アラスカの名前を明かさない無人島での体験を綴った瞑想的な作品で、1991年にジョン・バロウズ賞を受賞した[4]。

ネルソンは長年アラスカ州シトカに暮らし、地元の環境保護団体シトカ保全協会の理事を40年間にわたって務めた[5]。北極圏国立野生生物保護区での石油掘削や、トンガス国有林における大規模な皆伐に対しては公然と異を唱え、貴重な公有地が失われることに強い危惧を示した[6]。

1999年から2001年まで第10代アラスカ州桂冠作家を務めたほか[5]、クリエイティブ・ノンフィクション部門のラナン文学賞や、1998年には『Heart and Blood: Living with Deer in America』(1997年)によりシガード・オルソン・ネイチャーライティング賞を受賞している[8]。

ラジオ番組『Encounters』と晩年

自転車事故により長時間机に向かって執筆することが難しくなったことをきっかけに、ネルソンは2004年からラジオ局KCAW-FM(シトカ)を拠点に、番組『Encounters』の制作を開始した[2]。プロデューサーのリサ・ブッシュとともに、ムースやクマとの遭遇、潮の満ち引きの音、サケの遡上など、アラスカの自然を現地録音を交えて紹介する30分番組を、10年余りの間に100本以上制作した[5][2]。

2019年、長年にわたるがんとの闘病の末、11月4日にカリフォルニア州サンフランシスコの病院で77歳で死去した[6]。友人ハンク・レントファーらに見守られながら、自ら録音したワタリガラス(Common Raven, Corvus corax)の鳴き声を聞きながら息を引き取ったという[6]。

学術的業績

ネルソンは、イヌピアット・グィッチン・コユコンの各アサバスカン系・エスキモー系コミュニティでの参与観察(長期滞在)にもとづく一連の民族誌(エスノグラフィ)的著作―『Hunters of the Northern Ice』(1969年)、『Hunters of the Northern Forest』(1973年)、『Shadow of the Hunter』(1980年)、『Make Prayers to the Raven』(1983年)―を通じて、アラスカ先住民の狩猟文化と自然認識を記録した[2]。

『Make Prayers to the Raven』は、PBSで放映された全5回のテレビシリーズの原作となり、ネルソン自身が脚本と共同プロデューサーを務めた[9]。

同書のタイトルは、後に作曲家ジョン・ルーサー・アダムズによる児童向け音楽劇のための小組曲(1996年/98年)の曲名としても用いられている[10]。

主な著作

  1. Hunters of the Northern Ice(1969年、シカゴ大学出版局) - イヌピアットの海氷猟師の生活を描いた最初の著作。
  2. Hunters of the Northern Forest: Designs for Survival among the Alaskan Kutchin(1973年、シカゴ大学出版局) - グィッチン・アサバスカンの生存戦略を扱う。
  3. Shadow of the Hunter: Stories of Eskimo Life(1980年、シカゴ大学出版局)
  4. The Athabaskans: People of the Boreal Forest(1983年、アラスカ大学博物館)
  5. Make Prayers to the Raven: A Koyukon View of the Northern Forest(1983年、シカゴ大学出版局) - コユコン・アサバスカンの自然観を描いた代表作。
  6. The Island Within(1989年、ノースポイント・プレス) - 1991年ジョン・バロウズ賞受賞。邦訳『内なる島: ワタリガラスの贈りもの』(めくるまーる, 1999)
  7. Heart and Blood: Living with Deer in America(1997年、アルフレッド・A・クノップ) - 1998年シガード・オルソン・ネイチャーライティング賞受賞。
  8. Patriotism and the American Land(2002年、バリー・ロペス、テリー・テンペスト・ウィリアムスとの共著、オライオン協会)

受賞・栄誉

  • ジョン・バロウズ賞 (1991年、The Island Withinに対して)[4]
  • ラナン文学賞(創作ノンフィクション部門)[8]
  • シガード・オルソン・ネイチャーライティング賞(1998年、Heart and Blood: Living with Deer in Americaに対して)[8]
  • アラスカ州桂冠作家(1999年 - 2001年、第10代)[5]
  • ラスムソン財団特別功労芸術家賞(2019年)[2]

思想・考え方

ネルソンは、人間と自然のあいだに引かれた境界線そのものを人為的な虚構とみなす。自己と他者、野生と飼いならされたもの、聖なるものと俗なるものといった二分法を人間文化が作り出した「境界」の一種とみなし、そうした境界こそが人類史を通じて対立や争いの温床となってきたと考える[1]。

彼の自然観に決定的な影響を与えたのは、フスリアで生活をともにしたコユコン・アサバスカンの長老たちである。ネルソンは、コユコン民族が経験する森は、「外部者には容易にアクセスできない、まったく異なる現実として存在している」と理解するようになり、この気づきは知的にというより情緒的な衝撃として彼に迫ったと述べる[1]。またコユコン文化における「幸運(luck)」の概念、すなわち「特定の動植物や場所との適切な関係のあり方として捉えられる力」は、ネルソンの自然理解の重要な柱となった[1]。

宗教観についてネルソンは、幼少期に受けたキリスト教教育と、コユコンの長老たちから学んだ「あらゆるものに宿る聖性」という考え方のあいだに矛盾を感じないと語っている。彼にとって神とは特定の人格神ではなく、宇宙そのもの、そして地球・植物・動物のすべてに宿る聖性を指すものであった[11]。

ネイチャーライティング

著作の特色

ネルソンの文業は、学術的な民族誌の記述法と、個人的な内省を交えた文学的散文とを融合させた点に特色がある[3]。

『Make Prayers to the Raven』は、コユコンの視点から森・空・動植物を描写する民族誌でありながら、平明な散文で書かれ、コユコン自身の子孫にとっても伝統的知識を次世代へ伝える手段として機能すると評価されている[3]。続く『The Island Within』は、名前を伏せた島を舞台に、狩猟・サーフィン・観察を一種の瞑想的実践として描いた回想録的作品であり、批評家からは同時代のアメリカ人作家ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『ウォールデン』になぞらえられることもある[2]。

批評家からは、ウォレス・ステグナー、シグード・フェルディナンド・オルソン、レイチェル・カーソン、バリー・ロペス、ゲーリー・ポール・ナブハン、テリー・テンペスト・ウィリアムス、ウェンデル・ベリーらとともに、20世紀後半のアメリカを代表するネイチャーライティング作家の一群に位置づけられている[12]。

受けた影響

ネルソンが自身の自然観の基盤として最も強く言及したのは、イヌピアットの狩猟者たちおよびコユコン・アサバスカンの長老スティーヴン・アトラ、キャサリン・アトラ夫妻である。彼はアトラ夫妻について、自らの祖先が失ってしまった、自然との親密な結びつきの確かさと安らぎを体現していたと述べている[1]。批評家はまた、ネルソンの仕事をヘンリー・デイヴィッド・ソロー、ジョン・ミューア、レイチェル・カーソンら先行するアメリカのネイチャーライティングの系譜に連なるものと位置づけている[6]。

与えた影響

ネルソンの評伝『Raven's Witness: The Alaska Life of Richard K. Nelson』(2020年)を著したハンク・レントファーは、キャンプをともにしながら聞いたネルソンの語りに強く触発された一人であり、同書は2020年のバンフ山岳図書賞グランプリを受賞した[13]。

シトカ保全協会の事務局長アンドリュー・トムズは、自身がその職に就いた経緯を含め、40年間理事を務めたネルソンから大きな影響を受けたと述べている[5]。作曲家ジョン・ルーサー・アダムズは、『Make Prayers to the Raven』の書名を自作の音楽作品の題名に借用しており、ネルソンの仕事が文学の枠を越えて音楽など他分野の創作者にも影響を及ぼしたことを示している[10]。

また、『Make Prayers to the Raven』を原作とするPBSのテレビシリーズでは、後に自身も著名なネイチャーライティング作家となるバリー・ロペスがナレーションを務めており、両者は生涯を通じて親交を結んだ[9]。

外部リンク

脚注

  1. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 Hank Lentfer (2020年10月11日). “Remembering Richard K. Nelson, author and anthropologist”. Alaska Magazine. 2026年9月8日閲覧。
  2. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 “Richard Nelson”. Rasmuson Foundation (2023年5月25日). 2026年9月8日閲覧。
  3. 1 2 3 4 “Make Prayers to the Raven: A Koyukon View of the Northern Forest”. University of Chicago Press. 2026年9月8日閲覧。
  4. 1 2 3 “Richard Nelson”. Penguin Random House Canada. 2026年9月8日閲覧。
  5. 1 2 3 4 5 6 7 Katherine Rose (2019年11月6日). “Richard Nelson, writer who shared sounds of the wilderness, has died at 77”. KCAW. 2026年9月8日閲覧。
  6. 1 2 3 4 5 6 Kim Heacox (2019年11月6日). “Richard Nelson elevated Alaska with love and respect”. Anchorage Daily News. 2026年9月8日閲覧。
  7. ↑ “In Memoriam: Richard Nelson - Naturalist, ethnographer and author of the Arctic”. Society for Conservation Biology. 2026年9月8日閲覧。
  8. 1 2 3 “Richard Nelson”. Orion Magazine. 2026年9月8日閲覧。
  9. 1 2 “Richard Nelson”. Conservation Science Institute. 2026年9月8日閲覧。
  10. 1 2 “Make Prayers to the Raven”. John Luther Adams. 2026年9月8日閲覧。
  11. ↑ “An interview with anthropologist and environmentalist Richard Nelson”. Massachusetts Daily Collegian (2001年4月). 2026年9月8日閲覧。
  12. ↑ “The values and philosophies of great American nature writers”. The Christian Science Monitor (1994年8月10日). 2026年9月8日閲覧。
  13. ↑ “Raven's Witness: The Alaska Life of Richard K. Nelson”. Mountaineers Books. 2026年9月8日閲覧。