積極的な同意

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積極的な同意(せっきょくてきなどうい、積極的なYES、英語:affirmative consent)とは、単なる受動性を性的同意とはみなさず、言葉や行動などによる同意の表明を求める考え方である[1]。また積極的な同意は、必ずしも明確で曖昧さのない同意を要求するものではなく、曖昧さが残る場合もあり得る[2]。

なお積極的同意教育で用いられる同意の定義は、必ずしも刑法上の同意の定義と一致しない[3]。

概要

積極的な具体的な基準には幅がある。コールは、一般には「Yes Means Yes」、すなわち性行為に言語による許可を必要とする考え方として理解されることがある一方、言語による許可を必要とする考え方という狭い基準を採る研究者や立法例は少ないと指摘している。少なくとも積極的な同意に共通するのは、受動性のみを自体を同意の表明とはみなさないことである[1]。

法廷外では倫理的な性行為の基準として用いられる一方、刑事裁判におけるその適用範囲は、それよりもかなり限定的である[4]。刑法上の積極的同意における「積極的」とは、性行為への熱意や欲望を意味するものではなく、同意する意思が言葉や行動によって表明・伝達されることを指す。気乗りしない場合や、その性行為を特に望んでいない場合であっても、自由かつ任意の同意は成立し得る[2]。

日本政府は2023年の法改正において、明示的な同意がない場合に内心では同意していた者まで処罰対象となるおそれがあるとの指摘を踏まえ、積極的な同意を必要とする制度(YES型)までは採用していないとしている[5]。

またフィッシェルは、積極的な同意について、性行為に気が進まない、迷いがある、あるいは興味がない場合でも、硬直や沈黙ではなく、行動や合図などによって参加意思を示していれば、その性行為が性的暴行や大学の性的非行規則違反になるわけではないと説明している。その上で、欲望は同意の要素ではなく、伝達された参加意思がその要素であるとしている[6]。

積極的同意モデルについて言葉や行動による同意の表明がない受動的(passive)な者であっても、内心では性的接触を望み、歓迎している場合があり得ると指摘している[2]。ケイト・ウォルシュらは、受動的な同意の手掛かり外部的な同意伝達の一形態として扱い、性的行為への内面的な意思があることは、受動的な手掛かりを用いることと矛盾しないとしている[7]。

積極的な同意をさらに発展させ、積極的な同意の表明に加えて性的欲望や熱意を求める考え方として、熱意ある同意(enthusiastic consent)がある。ベネットはこれを、単なる肯定的な「Yes」の伝達以上を求める「より高い基準」と説明している[8]。 一方、ハイは、曖昧さなく許可を伝える言動や、熱意ある合意を要求する刑法上の積極的同意モデルは確認できないとしている[2]。

積極的同意に対する批判として、クロスケリー=ヒューイットは、性的な意思疎通は実際には必ずしも明示的に行われるものではなく、積極的な同意の伝達を要求することは現実の性的コミュニケーションのあり方を反映せず、当事者に過度のコミュニケーション上の負担を課すという反対論を紹介している[9]。もっとも、クロスケリー=ヒューイット自身はこうした批判を紹介した上で、明確な言葉または明白な行為によって示されるコミュニケーション的な基準とすることを支持している[9]。

トレンツは、積極的同意は性的な場面において当事者間の「継続的な交渉」を要求し、そのためには、当事者が自らの希望や意図を直接表現する能力と意思を有していることが前提となると指摘している。その結果、不安を抱えている者、他者に依存している者、自らの希望を伝える意思または能力のない者が、性的主体として不適格なものとみなされかねないと批判している。また、同意についての責任を個々の当事者に帰属させることで、性的関係を取り巻く社会的文脈や当事者間の権力関係、異性愛規範によるジェンダー関係を十分に捉えられなくなるとしている[10]。

ベネットは、先行研究を引用し、「Yes Means Yes」はスローガンであって法的基準ではないとしている。そのうえで、先行研究を踏まえ、合法な性行為の基準を、倫理的な性行為や良い性行為の基準と混同すべきではないと指摘している。合法な性行為の基準は、性行為に際して刑事責任を負わないために最低限必要な基準を画するものであり、快楽、楽しさ、欲求、相互性などの付加的要素は、犯罪性を回避するための必要条件というより、理想的な性行為についての志向を反映するものとなり得るとしている。また、「同意があるものの性的には望んでいない性行為」のすべてが問題となるわけではないとし、例として、妊娠を目的として頻繁に性交する場合、パートナーへの贈り物として性交する場合、相手に勧められて新たな性行為をためらいながら試す場合などを挙げ、これらは性的欲求や熱意を伴わないことがあり得るものの、犯罪とされるべきではないとしている[11]。

積極的な同意の例

積極的な同意の例として、口頭で尋ねて「はい」という返事をもらうこと、うなずくといった身体的なジェスチャー、服を脱ぐといった相手と同じ行動をとることなどが挙げられている[12]。

Rape & Domestic Violence Services Australiaは、積極的な同意が実際にどのように表れ得るかの例として、言語的には「Yes」「気持ちいい」「続けて」「やめないで」「あなたに〜してほしい」「あなたが〜すると好き」などを、身体的には、リラックスした、嬉しそうな、または熱意のある様子を示すこと、関与して応答すること、性的な働きかけに応じること(例えば、相手にキスしたり触れたりすること)を挙げている[13]。

大学生を対象とした研究では、積極的同意の理解には個人差があり、より包括的に捉える参加者群では、幅広い非言語的行動に加え、受動性など同意を強く示すとはいえない行動も、積極的同意の指標として判断される場合があった[14]。

ハレルらは、大学生を対象とした研究で、性的な声を出したり激しく呼吸したりすること、うなずくこと、避妊具を提示・使用すること、性的興奮を示すこと、自ら性器を露出すること、身体の位置や姿勢を変えること、相手の身体に触れること、相手を特定の位置や姿勢へ導くこと、積極的に働きかけたり性的行為を開始したりすること、相手を引き寄せたり抱きしめたりすること、接触を受けた側が行為を続けること、相手の衣服を脱がせることの12種類の非言語的行動が、参加者によって積極的な性的同意を示すものとして挙げられたと報告している[15]。

批評

ジェシカ・エドワーズ、ウズマ・S・レーマン、E・サンドラ・バイヤーズは、積極的な性的同意のコミュニケーションについて、参加者が、互いの期待を明確にすること、コミュニケーションを容易にすること、関係の質を高めること、性的体験の質を高めること、安全性を確保し強制を避けることなどを利点として認識していたと報告している。参加者は同意のコミュニケーションを、単なる安全確保の手段としてだけでなく、関係性や性的な質を高める手段としても捉えていた。一方で、気まずさや不自然さ、拒絶への不安、コミュニケーションの難しさなどの障壁も報告された。著者らは、性教育において、こうした不安を認めつつ、積極的同意が関係を豊かにし得る方法としても提示できるとしている[16]。

法学者のジョナサン・ウィトマー=リッチは、積極的同意をめぐる議論について、「Yes means yes」という表現は法的基準そのものではなく、教育的なスローガンにすぎないと指摘している[17] 。同スローガンは、相手が拒否しなかったことから同意を推測するのではなく、何らかの肯定的な合意の表示を求めるという教育上の目的には有用であり得るものの、これをそのまま法的要件として理解することは誤りであるとしている[17]。積極的同意は必ずしも明示的・言語的な「Yes」を要求するものではなく、同意は言葉だけでなく行動によって示されることもあり得る。また、「積極的な同意」が存在することと、その同意が「明確で曖昧でない」こととは別の問題であり、積極的同意制度が当然に曖昧さのない明示的な同意まで要求するわけではないとしている[17] 。このため「Yes means yes」という標語のみから、明確な言語的承諾が確認できなければ直ちに不同意であるとの法的結論を導くことはできないという整理になる[17]。

また、「No means no」から「Yes means yes」への移行が従来の法からの大幅な転換であるとの説明にも疑問を呈している。アメリカでは、被害者に明示的な拒絶や身体的抵抗を要求する法理は以前から後退しており、積極的同意という名称を採用しなくても、同様の変化は判例法上すでに進行してきたとしている。[17] したがって、「Yes means yes」を導入することによって初めて、拒絶がなければ同意とみなす法制度から脱却したと理解するのは単純化しすぎであるとしている[17]。さらに、沈黙や受動性のみでは通常、積極的な同意の表示として十分ではない一方、それらを具体的な状況から完全に切り離して評価することも適切ではないとしている。実際の性的コミュニケーションでは、言葉だけでなく身体的行動や非言語的な反応など様々な形で意思が伝達されるため、法的判断において重要なのは、単に明示的な「Yes」が存在したかではなく、当事者間の言語的・非言語的な言動を具体的な文脈の中でどのように解釈するかであると論じている[17]。

コミュニケーション学者のケイト・ロックウッド・ハリスは、「Yes means yes」や「No means no」といった性的同意をめぐる議論をコミュニケーション神話が生じているとして批判的に検討した。ハリスは、反性暴力教育や活動が、同意におけるコミュニケーションは明確で曖昧でないものであるべきだと示唆することについて、コミュニケーション能力に求める基準を引き下げ、同意を歴史的・文化的文脈から切り離すと批判している[18]。ハリスによれば、コミュニケーションには一定の曖昧さが避けられず、同じ言葉でも話者や文脈によって意味が異なり得る。このため、同意を単純で曖昧さのないものとして捉えることは、非言語的なメッセージを軽視し、倫理的な相互作用には曖昧さを完全に排除する必要があるかのような理解につながるという。また、「Yes」と「No」が明確であることだけを強調すれば、相手の欲求を無視するという実際の問題を見失うとしている[18]。さらに、同意を個々の当事者間のやり取りだけに還元することにも批判的であり、関係性、権力、アイデンティティ、歴史、文化などの文脈を考慮する必要があるとしている[18]。

積極的同意については、その適用範囲や概念の明確性をめぐる問題も指摘されている。法学者のジャネット・ハレーは、積極的同意を大学の懲戒手続や刑事司法における制裁規範として用いた場合、過度に広範となり、本来制裁すべきでない行為まで対象に含み得ると論じている。また、同意を得る責任を一方に負わせる構造が、男性を性的行為の能動的主体、女性を受動的主体とする伝統的なジェンダー役割を強化する可能性も指摘している[19]。

ソーシャ・マコーマックとジョナサン・ヘリングは、積極的同意には支持すべき点がある一方、単純な「Yes means Yes」として導入することには危険があるとして、同意が内心の意思か意思表示か、言語による必要があるか行動でも足りるか、どの程度の自律性を備えた同意を要求するか、表明された同意に依拠できない場合、条件付き同意、相手方に求められる同意確認の義務という6つの曖昧さを指摘している。その上で、単純なモデルではなく、これらを明確化した積極的同意モデルを支持している[20]。

刑法

積極的な同意は、近年、多くの法域の性犯罪法で採用されている[21]。積極的な同意モデルは、推定された同意を否定し、同意を法的な許可を生じさせるために表明または伝達される必要があるものとして捉える。その共通する中核的な目標は、受動性の法的意味を変えることにある[2]。また、相手が同意も拒絶も示さず受動的である状況での性交も処罰対象となり得る点に特徴がある。[22]

日本の2023年改正刑法では、性的行為について相手方の積極的な同意がない限り性犯罪が成立する、いわゆる「Yes means Yes」型の規定は採用されていない[23]。

シュルホーファーは、刑法上の性的同意について、肯定的な同意の伝達を求める積極的同意モデルのうち、沈黙や不作為も文脈によっては同意を伝達し得る「文脈的な積極的同意」を支持している。このモデルでは、同意は必ずしも言語によって明示される必要はなく、言葉や行動など、すべての事情を踏まえた行動全体から判断される。性的行為が明確に予期され、拒否する合理的な機会があるなどの文脈では、沈黙や不作為自体が他の事情と併せて同意を伝達する行動となり得る一方、身体的・言語的な抵抗がなかったことのみでは同意は成立しない。シュルホーファーは、このモデルを、拒絶が表明されなかったことを一般的に同意の成立に十分とする考え方よりも支持している。支持する理由について、拒絶がないことを同意とする考え方は、人がいつでも誰に対しても性的接触を受け入れており、望まない場合にはその意思を表明しなければならないことを事実上前提とするものだと論じている。その上で、同意を肯定的な合意を伝達する行動と捉え、各人は肯定的な意思表示をするまでは身体的プライバシーを望んでいるものと考える方が適切であるとしている[24]。

タチアナ・ヘルンレは、「Only yes means yes」は道徳上の規則として妥当であり、教育上も、意思が不明確な場合には相手に確認し、相手が沈黙して意思を伝えない場合には性的行為を行うべきではないとする。一方、こうした道徳的要請をそのまま刑事政策に移すことには批判的であり、刑法は「最終手段」として、必要不可欠な行為規範の中核を超えて拡張すべきではないと論じている。そのため、性的行為直前の状況が曖昧な場合に反対意思の表明を求める「No means No」を、刑法上の基本的な行為規範として正当化している[25]。

ノルウェー刑法審議会は「No means No」型と「Yes means Yes」型の両者はいずれも性的行為の自発性を基礎としていると論じている。そのため、その差は必ずしも大きくなく、「Yes means Yes」型でも沈黙や受動性が同意の表現として解釈され得ると指摘している[26]。同国は、「Yes means Yes」型の規定には、すべての性行為は自発的であるべきという社会の姿勢や期待を明確にし、相手が参加を望んでいるか確認することを促す効果が期待できるとしている[27]。なお明示的な同意を必須とすることは、実際には任意の性行為まで刑事責任の対象となり得るため行き過ぎであるとして採用しなかった[26]。

関連項目

出典

  1. 1 2 Cole, Kevin (2019). “Affirmative Consent”. The Palgrave Handbook of Applied Ethics and the Criminal Law. Cham: Palgrave Macmillan. pp. 47–68. doi:10.1007/978-3-030-22811-8_3. ISBN 978-3-030-22810-1
  2. 1 2 3 4 5 High, Anna (2023). “Comparing Affirmative Consent Models: Confusion, Substance and Symbolism”. Sydney Law Review 45 (4).
  3. ↑ Peterson, Zoë D.; Littleton, Heather L.; Anderson, RaeAnn E.; Koss, Mary P. (2024). “Quantifying Criminal Sexual Acts: The Illegal Sexual Exploitation Module of the Revised Sexual Experiences Survey-Victimization (SES-V) Measure”. The Journal of Sex Research 61 (6): 868–881. doi:10.1080/00224499.2024.2359049.
  4. ↑ Quilter, Julia; McNamara, Luke (31 March 2026). “'Perfecting' the criminal law definition of sexual consent: 50 years of statutory reform in Australia”. Current Issues in Criminal Justice. doi:10.1080/10345329.2026.2645250.
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