構造
維管束植物 の生活環 において主要な世代である胞子体 (染色体 を2セットもち、減数分裂 によって胞子 を形成する体)は、茎 と葉 (シュート としてまとめられることもある)および根 からなる[3] [4] [5] 。例外的に、マツバラン 類(ハナヤスリ亜綱 )[6] やコイチヨウラン 、オニノヤガラ (ラン科 )など菌根菌 に大きく依存している植物、サンショウモ 属(薄嚢シダ類 )[7] やミジンコウキクサ (サトイモ科 )など一部の浮水植物 、エアープランツ であるサルオガセモドキ (パイナップル科 )などは少なくとも成熟した状態では根をもたない[8] 。
根端
2 . 根端の縦断面: 1 = 根端分裂組織 、2, 3 = 根冠 、4 = 剥離した根冠細胞(境界細胞)、5 = 前形成層
根はふつう細長い軸状の構造であり、先端成長 する[9] [10] 。根の先端部分は根端 (root apex) とよばれる[10] [11] 。根端の中には根端分裂組織 (root apical meristem, RAM) とよばれる分裂組織 が存在し、活発な細胞分裂 を行っている[4] [12] [13] (図2)。茎 のシュート頂分裂組織 とは異なり、根端分裂組織の先端側は根冠 (root cap) とよばれる多細胞層の柔組織によって覆われている[14] [4] [15] (図2)。根端分裂組織は先端側に根冠を、基部側に新たな根の組織を作り出して成長していく。
根は土壌中を伸びていくため、先端表面にある根冠 の細胞は次第にはがれ落ちていくが(ふつう1個の根冠細胞の寿命は1〜9日ほど)、根端分裂組織によって内側から順次新たな根冠細胞が供給され、根冠には一定量の細胞が維持されている[14] [15] [16] [17] (図2)。根冠の細胞はムシゲル (粘質ゲル[15] 、mucigel)を分泌し、根端を保護すると共に根を伸長しやすくする[15] [17] 。根はふつう正の重力屈性(屈地性; 下方へ伸びる性質)を示すが、根冠中央基部付近の細胞(平衡細胞 )内でアミロプラスト (光合成 能を欠き、デンプン 粒を多く含む色素体 )が沈降することが重力方向の感知に関わっていると考えられている[18] 。
根端分裂組織 からは基部側へも新たな細胞が付加され、これが拡大伸長し、それに伴い組織分化していくことで根が伸長していく[4] [19] [20] 。根端分裂組織から基部側へつくられた組織は、外側から前表皮 (protoderm)、基本分裂組織 (ground meristem)、前形成層 (procambium) とよばれ、これがそれぞれ表皮、皮層、中心柱へと分化する[4] [12] [13] 。構成する細胞の状態に応じて、根は先端側から大まかに(重なりながら)分裂帯(細胞分裂帯[4] 、分裂領域 meristematic zone[21] )、伸長帯(伸長領域 elongation zone[21] )、成熟帯(分化帯[4] 、分化領域 differentiation zone[21] )に分けられる[22] 。根端分裂組織を含む部分が分裂帯であり、細胞数が増加していく。ふつう根端から数 mm のところが伸長帯であり、細胞が拡大伸長している[4] 。根の伸長はこの部分で最も活発であり、細胞はときに10倍以上に伸長する。細胞はこの部分で分化し始め、やがて成熟帯において細胞分化が完了する[4] 。
分枝
4a . ヤナギ (ヤナギ科 )の根の側根伸長部横断面: 側根 (E) は中心柱 (C) から内生的に生じ、皮層 (B) や表皮 (A) を突き破って伸長する。D = 内皮、右下スケールバーは 0.2 mm
根は、ふつう根端から比較的離れた場所で、側根 (lateral root; 分枝根 branch root[36] ) を形成して側方分枝 (中軸分枝)する[14] [12] [15] [16] 。根の内部の中心柱 の最外層にある内鞘(またはその外側の内皮 )から新たな側根の原基が生じ、これが皮層や表皮を突き破って伸長する(図4a)。すなわち根の分枝は内生的 (endogenous; 新たな根が内部に形成される) であり、茎の分枝が外生的 (exogenous; 新たな茎が表面から形成される) であるのとは対照的である[8] [16] 。
根はしばしば分枝を繰り返す。主となる根から生じた側根は一次側根 (primary lateral root)、そこから生じた側根は二次側根 (secondary lateral root) のように順によばれることがある[37] 。
側根はふつう根の中心柱 に対して特定の位置に由来し、特に原生木部 に面する部分(横断面で木部が外側へ突出している部分)から生じることが多いが、他にも原生師部 に面する部分や原生木部と原生師部の間から生じる例も知られている[15] [16] 。そのため、側根は縦列(または螺生)して生じることが多く[8] 、その列数から中心柱の構造が推定できる。側根が2列であるダイコン (アブラナ科 )は二原型木部、側根が4列であるニンジン (セリ科 )は四原型木部、側根が5列であるサツマイモ (ヒルガオ科 )は五原型木部をもつ[15] 。
4b . ヒカゲノカズラ (小葉植物 )の根(c, dは連続した不等二又分枝による分枝を含む)
上記のように根の分枝はふつう内生的であり側方分枝であるが、例外的に小葉植物 の根はその茎 と同様に、根端分裂組織 が2分することによって二又分枝 する[38] [39] [40] (図4b)。つまり小葉植物の根の分枝は外生的 (新たな根が表面から形成される)である。また小葉植物は、根の木部が内原型である点でも他の維管束植物とは異なっている(上記 )。このように小葉植物とそれ以外の維管束植物(大葉植物 、真葉植物)の根は大きく異なる特徴を示し、一般的にこれらの根は異なる起源をもつものと考えられている[38] [39] 。ただし小葉植物の根も、根冠 や根毛 をもつ点や、茎 から内生発生する点では大葉植物の根と共通している。
根系
ある植物において地下部または根全体、あるいは1個の根とそこから生じている根を合わせたものは、根系 (こんけい、root system)とよばれる[41] [8] [42] [3] 。地下部全体とする場合、根系は根と共に地下茎 なども含む[14] 。この場合、維管束植物の植物体は、地上部のシュート系と地下部の根系からなる[43] 。
太根と細根
太さに応じて根を太根と細根に類別することがある[37] 。樹木 では、一部の根が太く肥大し、それに細い根をまじえている。一方、イネ科 の草本 などでは、全ての根が肥大せず同様な太さになっている。このような中で、太く肥大した根を太根 (woody root, thick root)、太根を主とする根系は太根型根系 (woody root system) とよぶことがある。一方、細いままである根を細根 (fine root, rootlet)、細根を主とする根系は細根型根系 (fine root system) とよぶことがある。
定根と不定根
5c . 茎の節から生じた不定根(節根)
維管束植物において、根は胚 の段階(種子 の中など)で幼根 (radicle) として形成される[10] [37] 。これが成長して一次根 [44] (初生根[37] 、primary root)となり、発達したものは主根 [37] [45] [注 4] (main root、直根[10] taproot) になる。主根からは側根が生じる。このように幼根に由来する根、およびそこから生じた根を定根 とよぶ[14] 。定根からなる根系は、一次根系 (primary root system) とよばれ[14] 、また主根型根系 [37] (主根系[46] 、直根系[3] 、taproot system)ともよばれる(図5a)。
定根に対して、幼根以外に由来する根は不定根 (adventitious root) とよばれる[10] [37] [47] 。不定根は、ふつう茎 の維管束周辺から内生的に生じるが、まれに外生的に生じる例も知られている(例:ベゴニア の葉挿し)[16] [48] 。不定根は茎の節から生じることが多く、このような根は節根 (nodal root) ともよばれる[37] (図5c)。そのため、挿し木 にはふつう節を残した茎が用いられる[24] 。また定根と同様、不定根も側根を生じて側方分枝する(小葉植物 以外; 上記参照 )。シダ植物 (広義)や単子葉植物 では、ふつうほとんどの根が不定根からなる。このような根系は二次根系 (secondary root system) または不定根系 (adventitious root system) とよばれる[14] 。また多数まとまって生じている一様な不定根はひげ根 (fibrous root) とよばれ[37] [49] 、ひげ根からなる根系はひげ根型根系 [37] (ひげ根系[3] 、fibrous root system)とよばれる(図5b)。
種子植物 において、種子 から生じる根は種子根 (seminal root) とよばれる[10] [37] 。種子根はふつう幼根であるが、既に幼根から側根(種子側根)が生じている例もある[50] 。またイネ科などでは、胚軸 から生じた不定根が種子根となることもある(種子不定根 seminal adventitious root)[50] 。
一次成長と二次成長
6a . マツ属 (マツ科 )の根の横断面: 中央2/3ほどは二次木部 からなり、その周囲は二次師部 と皮層、周縁部はコルク組織で覆われている。
6b . ナラ (ブナ科 )の根の横断面: 大部分は放射組織を含む二次木部 からなり、周縁部はコルク組織で覆われている。
上記 のように、根は頂端分裂組織 (apical meristem) である根端分裂組織 における細胞分裂とそれに続く細胞の拡大伸長によって成長する[4] [19] [20] 。この成長は一次成長 (primary growth) とよばれ、基本的に長さを増す成長である[51] 。一方、一次成長がほぼ完了した部位において新たな分裂組織が生じることがあり、これによる成長は二次成長 (secondary growth) とよばれる[51] 。二次成長は基本的に太さを増す成長であり、これを司る分裂組織は側部分裂組織 (lateral meristem) である[51] 。側部分裂組織には、維管束形成層やコルク形成層がある。
単子葉植物 などを除き、多くの種子植物の根は二次成長を行う[9] [16] [52] 。一次木部 と一次師部 の間に(木部を取り囲むように)維管束形成層 (vascular cambium) がつくられ、内側に二次木部 を、外側に二次師部 を形成していく[9] [53] 。根はふつう放射中心柱をもつため、維管束形成層の横断面は最初は星状だが、二次成長によってやがて円形になる[16] [52] [53] 。木本植物 の根では、茎と同様に二次木部は主に仮道管や道管要素、木部繊維など木化した細胞からなるが(図6a, b)、サツマイモ (ヒルガオ科 )などの根では多量の柔細胞が形成される[54] 。
茎の二次成長と同様、活発な二次成長によって直径が増すと、表皮、さらに皮層は裂けて剥がれることがある。この際には、皮層や内鞘などに1層の細胞からなる側部分裂組織であるコルク形成層 (phellogen) が形成される[9] [24] [55] [56] 。コルク形成層は外側にコルク組織 (phellem)、内側にコルク皮層 (phelloderm) を形成し、これらは合わせて周皮 (periderm) とよばれる。コルク組織の細胞は原形質を欠き、細胞壁 にスベリン 、ときにリグニン が沈着して根の表面を保護している(図6a, b)。
根の機能
7 . マンゴー (ウルシ科 )の木の地下部断面: 発達した根が張り巡らされ、地上部を支えている。
根はふつう地中にあって植物体を固定し、地上部を支えるとともに(図7)、水 やそこに含まれる窒素塩(硝酸塩 など)やカリウム 、カルシウム 、リン酸 などの無機養分 を吸収し、維管束 の木部 を通して植物体全体に送る(木部輸送 )。根は分枝することで表面積を広げ、このような水や無機養分を吸収している。ライムギ (イネ科 )の場合、根の表面積は地上部のシュート系(茎と葉)の表面積の40倍に達すると試算されている[48] 。根は効率的な無機栄養吸収のための応答を示し、例えば硝酸塩が多い場所では根はよく分枝し、またその細胞は効率よく硝酸塩を吸収できるような遺伝子発現を行う[57] 。根毛 や菌根菌 の存在は根の表面積を広げ、根の吸収効率を高めている。
土壌粒子はふつう負に帯電しているため、硝酸 、リン酸 、硫酸 などの陰イオンは土壌粒子には結合しない。そのためこれらの無機栄養 は容易に土壌溶液に溶脱し、根によって吸収される[58] 。一方、カリウム 、カルシウム 、マグネシウム など陽イオンは土壌粒子に結合しており、容易には溶脱しない。根は呼吸によって土壌中に二酸化炭素を放出し、土壌溶液を酸性化する。その結果水素イオン (H+ )が供給される。この水素イオンが土壌粒子を中和、結合していた陽イオンが土壌溶液に溶脱し、根が吸収する。この過程は陽イオン交換 (cation exchange) とよばれる[58] 。
根の表面で吸収された無機養分を含む水溶液は、細胞壁 内や細胞間隙など原形質外の通路(アポプラスト 経路)や原形質 を通る通路(シンプラスト 経路)を通って維管束 の木部 へ輸送される[57] 。根では、維管束は内皮 に囲まれているため、吸収された水溶液が木部に輸送される際には必ず内皮を通る。内皮細胞どうしの接着部には疎水性物質であるスベリン が蓄積してカスパリー線 が形成され、さらに細胞膜がカスパリー線に密着している[31] [28] [57] 。そのため、アポプラスト経路で輸送されてきた水溶液も、内皮では細胞壁を通ることはできず、必ず内皮細胞の原形質を通らなければならない。内皮細胞は木部へ送られる物質の選別を行い、必要な物質を通し、不必要な物質は透過しない[57] 。また、内皮細胞は中心柱から外側へ物質が逆流することを防いでいる[57] 。さらに、皮層の最外層にカスパリー線をもつ外皮が形成されることもある(上記 )。
根は植物ホルモン であるサイトカイニン の主な生成場所であり、他にもオーキシン やジベレリン 、ストリゴラクトン などの植物ホルモンを生成する[59] 。サイトカイニンは細胞分裂 を制御し、オーキシンは側根 や不定根 の形成を促進する[59] 。またオーキシンは高濃度では細胞伸長を抑制するが、この伸長抑制が根の重力屈性に関わっていると考えられている[59] 。エチレン によって根や根毛形成が促進され、ブラシノステロイド は低濃度で根の成長促進、高濃度で根の成長阻害をする[59] 。ストリゴラクトンは菌根菌 を根に誘因するが、ストリゴラクトンを感知して宿主の根に寄生する寄生植物も知られている[60] 。
さまざまな根
根はふつう地中にあり、植物体の固定と水・無機養分 の吸収という機能をもつ。しかし地中部にあってもこれ以外の機能をもつ根も存在する。また地中ではなく地上に伸びて機能する根もある(気根)。さらに、根はしばしば他生物(菌根菌 、根粒菌 、宿主植物など)と密接な共生関係を結んでいる。
地中根
地中にある根は地中根 (terrestrial root) と総称される[37] 。
普通根 (ordinary root)[37]
形態的にも機能的にもふつうの根のこと。定根 の場合も不定根 の場合もある(図8a, b)。
貯蔵根 (storage root)[10] [37] [54]
肥大して水や養分を貯蔵する特殊化した根のこと。貯蔵された栄養は、一定期間の後に、または母体から離れて分散された後に新たな地上部を生じることに用いられる。以下では塊根と多肉根に類別したが[37] 、その区分はかならずしも一定していない[61] 。また球根 とよばれるものは、塊根などのほかに、鱗茎 や塊茎 など貯蔵器官となった地下茎 も含む。
収縮根 (contractile root; 牽引根 traction root)[10] [16] [37] [62]
地下茎 が成長に伴って地上部に出るのを防ぐために、これを地中に引き込む機能をもつ根のこと。伸長後に収縮するため、表面に環状のしわが生じる(図8g)。地下茎から生じる不定根である。ユリ (ユリ科 )やグラジオラス (アヤメ科 )、リンドウ (リンドウ科 )、シシウド属 (セリ科 )、アザミ (キク科 )などに見られる。
クラスター根 (cluster root, proteoid root)[63]
短い側根が密生して試験管ブラシ状に変形した根(図8h)であり、また有機酸分泌能力が一般的な根よりも高く、土壌中の難利用性のリン を溶解し吸収しやすくすることでリン欠乏土壌に適応している。ヤマモガシ科 (学名: Proteaceae)の植物から発見されたため、かつては proteoid root とよばれていた。しかし後にマメ科 、クワ科 、ヤマモモ科 などからも見つかったため、形態的特徴に基づいてクラスター根(房のような根の意味)とよばれるようになった。また側根ではなく根毛 が房状に形成されたダウシフォーム根(dauciform root)がカヤツリグサ科 やイグサ科 の一部に、同様のキャピラロイド根がサンアソウ科 に見られ、これらもクラスター根と同様にリン吸収に適応したものであると考えられている[64] 。
気根
地上部にある根は気根 (aerial root) と総称される[37] [65] 。地下茎 から生じるものや、地上茎、水中茎から生じるものなどがある。
呼吸根 (通気根[54] 、respiratory root, pneumatophore)[37] [66] (→詳細は「呼吸根 」を参照 )
地上に露出し、地下部の呼吸のための酸素を取り入れる根のことであり、内部に通気のための組織をもつ。沼沢地など地中の酸素に乏しい環境に多い。上へ垂直に伸びる直立根 (erect root)(例:ハマザクロ )、上下に屈曲しながら伸びる屈曲膝根 (curved knee-root)(例:オヒルギ ; 図9a)、根の背面が所々で上部に向かって肥大する直立膝根 (erect knee-root)(例:ヌマスギ ; 図9b)に類別される。
吸水根 (absorptive root)[37]
空気中の水分を吸収するための根のこと。表皮が多層化して死細胞となり(ときに木化する)、空気中の水分を吸収・貯蔵することができる。このような表皮は根被 (velamen) とよばれる[23] [24] 。サトイモ科 やラン科 の着生植物 に例がある(図9c)。また「吸水根」という用語は全く別の意味で用いられることがあり、1つの植物において、土壌深くまで伸びて主に水を吸収する根を吸水根、浅く広がって主に無機養分を吸収する根を吸肥根とよぶことがある[67] 。
同化根 (assimilation root, assimilatory root)[37] [68]
多数の葉緑体 を含み、扁平化して光合成 を行う根(図9d)。カワゴケソウ科 やクモラン (ラン科 )では葉 が退化しており、同化根が光合成器官となる。
絞め殺し植物 (strangler)[70] (→詳細は「絞め殺しの木 」を参照 )
他の植物(宿主)の樹冠 で発芽し、成長する。寄生植物 ではないため宿主となった植物から栄養を奪うことはないが、地面に向けて多数の気根を伸ばし(図9g)、やがてこの気根が宿主の幹を覆うとともに(図9h)、茎は葉を付けて宿主の樹冠を覆う。宿主植物が枯死した場合には("絞め殺し")その部分が空洞になり、かご状になった絞め殺し植物の気根が残る。ガジュマル などイチジク属 (クワ科 )に例が多いが、他にもヤドリフカノキ (ウコギ科 )やヤマグルマ (ヤマグルマ科 )が絞め殺し植物となることがある。
9j .
バニラ (
ラン科 )の節からは、巻ひげになる気根が生じている。
保護根 (protecive root)[37]
茎から生じ、多数が密に絡み合って茎を厚く覆う根であり(図9k)、茎を保護し機械的支持を与える。いわゆる木生シダ とよばれる植物に見られ、ヘゴ (薄嚢シダ類 )では茎の直径 13 cm に対して保護根の厚さ 56 cm に達した例がある。
根針 (根刺、root spine, root thorn)[37] [54] [73]
茎から生じ、硬い棘になった根(図9l)。ヤシ科 に例が多く、その他に Moraea (アヤメ科 )、ヤマノイモ属(ヤマノイモ科 )などで見られることがある。
水中根
10 . コウキクサ (サトイモ科 )はそれぞれ1本の水中根をもつ.
通常の状態として水中に伸びている根を水中根 (aquatic root) という[37] (図10)。このような根は、根冠や根毛を欠いていることがある[8] [26] 。ミズキンバイ (アカバナ科 )は、水底を横走する根茎 の背面から列状に生じて水中に浮かんでいる根をもち、特に浮根 (floating root) とよばれる[37] 。
他生物と共生した根
根はふつうは地中にあり、他生物と密接な共生関係を築いている例が多い。根は特に根冠や根毛を通じて有機物(光合成産物の20%にも達することもある)を土壌中に分泌・放出しており、根の周囲に特異な環境を形成している[58] 。このような環境は根圏 (rhizosphere) とよばれ、さまざまな微生物が植物と共生関係を結んで生育している。また下記のように、ほとんどの維管束植物は根において菌類と直接的に共生して菌根を形成しており、さらに窒素固定を行う生物と共生して特異な構造を形成している例もある。
11b .
アーバスキュラー菌根 は外見的な特殊化は見られない。写真では根から伸びる菌糸と胞子(褐色の球)が見られる。
11c . a . ラン型菌根菌のペロトン. b . アーバスキュラー菌根 菌の樹枝状体. c . 根の細胞(大型で液胞で占められた細胞)の間隙を占める外生菌根 菌のハルティッヒネット断面.
菌根 (mycorrhiza, pl. mycorrhizae)[37] (→詳細は「菌根 」を参照 )
維管束植物のほとんどは根において菌類(菌根菌 、mycorrhizal fungus) と共生し、菌根を形成している[74] 。ただし水生植物やウラボシ科 、アブラナ科 、ヒユ科 、ナデシコ科 、タデ科 などでは菌根をもたない種が比較的多く知られている。菌根の形態や菌根菌のグループにはさまざまなタイプが知られており、それに応じて外生菌根 (外菌根; 図11a, 11c-c)、アーバスキュラー菌根 (図11b, 11c-b)、ツツジ型菌根(エリコイド菌根)、イチヤクソウ型菌根(アルブトイド菌根)、シャクジョウソウ型菌根(モノトロポイド菌根)、ラン型菌根(図11c-a)などに類別されている[75] 。この中ではアーバスキュラー菌根が最も普遍的であり、進化的にも最も祖先的な菌根であると考えられている[74] 。根が合成する植物ホルモン であるストリゴラクトン は、アーバスキュラー菌根菌を根に誘引する[59] 。菌根菌が根の表層や細胞間隙に菌糸を張り巡らせるものや、植物細胞内(正確には細胞壁 と細胞膜 の間)に侵入して栄養交換用の構造を形成するものがいる[58] [76] (図11c)。菌根菌の菌糸は根毛よりも細く、遥かに長く土壌中に張巡らされており、より効率的に無機養分 や水を吸収し、これを植物に供給している[77] 。また菌根菌は、植物に病害や乾燥ストレスに対する耐性を付与することも知られている[78] 。一方、植物は菌根菌に有機物 を与えており、菌根菌との間に相利共生関係が築かれている。ただし植物の中には、自らは光合成 せずに有機物も菌根菌から得ている例がある(腐生植物 = 菌従属栄養植物、菌寄生植物)[79] 。また菌根菌は、異種間を含むさまざまな植物の根をつなぎ(菌根菌ネットワーク)、その間で糖などの物質転送が起こっていることが知られている[76] [80] 。
根粒 (根瘤、root nodule)[37] (→詳細は「根粒 」を参照 )
マメ科の植物では、根に根粒菌 と総称される窒素固定 能をもつ細菌が共生し、根粒とよばれる粒状の構造を形成する(図11d, e)。根粒菌は窒素化合物を供給し、植物は有機物を供給する相利共生関係が築かれている。マメ科植物と共生する根粒菌はプロテオバクテリア門 に属するが、マメ目に比較的近縁なバラ目 (グミ )、ブナ目 (ヤマモモ 、ハンノキ 、モクマオウ )、ウリ目 (ドクウツギ 、ナギナタソウ) の中には、窒素固定能をもつ放線菌 のフランキア属 と共生して根粒を形成するものが知られている[81] 。このような植物はアクチノリザル植物 (actinorhizal plant)、形成される根粒は放線菌根 (actinorhiza) やハンノキ型根粒ともよばれる[82] [83] (図11f)。マメ目、バラ目、ブナ目、ウリ目は単系統群を形成しており、この系統群は窒素固定クレードとよばれる[84] 。根粒形成の機構は、アーバスキュラー菌根 形成の機構をもとにしたものであることが示されている[84] 。
11f . ヨーロッパハンノキ(
カバノキ科 )のハンノキ型根粒
サンゴ状根 (coralloid root)[85] [86] (図11g)
ソテツ類 (裸子植物 )は、根の一部が負の重力屈性(背地性; 上方に生長する性質)を示し、サンゴ状根とよばれる特殊な根を形成する。この根にはネンジュモ属 (Nostoc )のシアノバクテリア (藍藻 )が共生している。ネンジュモ属は窒素固定 能をもち、窒素化合物をソテツ類に供給する。ソテツ類はさまざまな毒素 をもつことが知られているが、そのうち BMAA (β-methylamino-L-alanine) はソテツ類自身が生成したものではなく、共生藍藻が生成したものであると考えられている[87] 。
寄生根
12a . ヤドリギ (h = 茎 ): 宿主の師部 (c) 内を横走する不定根(寄生根、f)が宿主の木部 (b) へ側根 (e) を伸ばし、また不定芽 (g) をつける。
12b . 上がネナシカズラ (e = 表皮 、r = 皮層、g = 維管束 )、 下が宿主であるアマ (E = 表皮、R = 皮層と師部 、H = 木部 )。寄生根の木部 が宿主の木部とつながっている(木部架橋)。
共生の1形態として、寄生がある。他の植物に寄生し養分を奪う植物は寄生植物 とよばれ、自ら光合成を行いながら宿主からも栄養分を奪う半寄生植物(ヤドリギ など)と、光合成能を欠き、有機物も含めた栄養分を宿主から奪う全寄生植物(ネナシカズラ など)がある[88] 。寄生植物は栄養分を吸収するために宿主に吸器 (haustorium, pl. haustoria) を付着させているが、寄生植物における吸器は特殊化した根であり、この根は寄生根 (parasitic root) ともよばれる[10] [16] [37] 。寄生根では、しばしば寄生植物と宿主の維管束 (木部 )がつながっている(木部架橋、xylem bridge)[24] (図12b)。寄生根は、以下のようにいくつかのタイプに類別されることがある[37] [54] 。
シオガマギク型 (Pedicularis type)
根が発達するが、その一部が寄生根として宿主の地中根に侵入するものであり、半寄生植物であるコゴメグサ属 、シオガマギク属 (ハマウツボ科 )、カナビキソウ 、ツクバネ (ビャクダン科 )などに見られる。
ハマウツボ型 (Orobanche type)
種子 が発芽すると幼根が宿主の根に侵入し、分枝する。成長につれて最初の寄生根は退化し、代わりに根茎 が発達して宿主の根を取り込むものもある。ツチトリモチ科 やヤッコソウ科 、ハマウツボ科 の全寄生植物種に見られる。
ヤドリギ型 (Viscum type)(図12a)
種子 が発芽すると胚軸 下部が吸盤状になり宿主の茎に固着し、そこから不定根を出して樹皮内に侵入、分枝する。分枝した根が宿主木部 に侵入して吸器になる。幼根は伸張しない。半寄生植物であるヤドリギ など(ビャクダン科 )に見られる。
ネナシカズラ型 (Cuscuta type)(図12b)
種子発芽後、主根はまもなく退化し、宿主に巻き付いた枝の随所から不定根である寄生根を出して宿主に侵入する。つる性の全寄生植物であるスナヅル (クスノキ科 )やネナシカズラ (ヒルガオ科 )に見られる。
脚注
注釈
↑ このような状態は、根上がりとよばれる[1] 。
↑ 小葉植物 の根の木部も外原型とする記述もある[34] 。
↑ 菌根菌 は主根型根系に特徴的というわけではなく、ひげ根型根系にもふつうに見られる。
↑ 広義には、側根が生じている母軸となる根(定根か不定根かを問わない)を主根とよぶことがある[45] 。
出典
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