
打順(だじゅん)、バッティングオーダーとは、野球、ソフトボール、ゲートボール、クリケットにおいて選手が打撃・攻撃を行う順番のことである。
野球やソフトボールでは、試合を始める前に、両チームでそれぞれ、9人の攻撃時の打順と、守備時の守備位置を決定しておく。投手の代わりに指名された選手が打撃を行う指名打者(DH)ルールを使用する場合には、投手の打順の代わりに指名打者とその打順を決定しておく。試合開始時における9人の選手及び指名打者はスターティングメンバー(スタメン)と呼ばれる。また、選手は、チーム内で打順が早いほうから順に、一番打者、二番打者というように呼ばれる。
NPBにおいては、長らくビジターチームの打撃練習終了後(試合開始の約40分前)に打順表の交換が行われることが慣例となっていた[1]。2012年以後は公認野球規則通り試合開始5分前に「最終の打順表」の交換が行われるが、実際には以前までの慣習通り、ビジターの打撃練習終了後に審判控室内にて「予定の打順表」が両球団と審判の間で交換され、この打順が正式な交換前に記録係とマスメディアに伝えられ、場内に告知される[2]。
打順を誤った場合については以下のように規定されている(公認野球規則6.07)。
打者が打順表の通りに打撃を行わなかった場合、誤った打順で打席に入った打者(不正位打者)が打撃を完了する(フェアボールとなる打球を打ち、又は四死球や振り逃げにより走者となるか、走者とならずにアウトになる)以前であれば、正規の打順の打者(正位打者)と交替し、ストライクとボールのカウントをそのまま受け継いで打撃を継続することができる。
誤った打順の打者が打撃を完了した場合、相手側がこの誤りを発見してアピールすれば、正規の打順にあたる打者がアウトとなる。このとき、誤った打順の打者の打撃によって起こったプレイは全て無効になり、走者は打撃当時に占有していた塁に戻される。ただし、不正位打者の打席中に起こった盗塁・暴投・ボーク・捕逸による走者の進塁・得点は、打撃とは関係ないので無効にならない。そして、正規の打順にあたる打者の次の打順の打者が正しい次打者となる。
打順の間違いを指摘するアピールは、次の打席に立った打者に対して投球したり、走者に対して牽制球を投げたりするプレイ(ただし、走者の不正に対するアピールプレイがある場合、アピールプレイのための送球などはここでいうプレイには含まない)の前までに行わなければならない。1つでもプレイが行われると、打順を誤った打者の打撃は正当化されてプレイが続行され、アピールしても認められない。アピールがなく打順を誤った打者の打撃が正当化された場合、その正当化された打者が位置している打順の次の打順の打者が正しい次打者となる。
日本においては、各打順について理想の選手像が存在しており、それにチーム内の選手を当てはめて起用するという傾向がある。一般的には、一・二番でチャンスを作り、三・四・五番で返すという日本で理想とされる攻撃パターンを実現することを目的として、それに求められる能力を有した選手が起用される(尤も、これには例外もあり、特に外国人監督の場合には、こういった日本独特の起用法を用いないことが多々ある)。他のアジア諸国でもこのような考え方が好まれるようである。
草創期のプロ野球では、投打に秀でた投手が上位打線を担うこともあったが、通常は下位打線、とりわけ打撃力のない投手の場合は八番に入っていた。しかし、投手は守備で最も体力を使うため、打席数を減らして負担を軽くしようという意図から、徐々に九番で起用されることが増えた。近年では、投手が九番以外を打つことはほとんどなく、その理由としては、打撃力のない投手の打席数が増えるのは不利であるからとされることが多い。一方で、八番に投手を置き九番に野手を入れることで、一番打者とのつながりを重視する戦法も存在し、川上哲治監督がしばしば導入していた。現在でも2017年以降アレックス・ラミレス監督が導入しているなど、稀に見られる戦法である。
アマチュア野球、特に少年野球(リトルリーグ)・中学野球(リトルシニア)・高校野球などにおいては、「エースで四番」と表現されるようにチーム内で最も優れた選手がエース投手と四番打者(あるいはそれに準ずる上位打線)を兼任する様子も度々見られる。
メジャーリーグベースボール(MLB)をはじめとする米球界においては、打順ごとの特定の印象は薄く、セイバーメトリクスによる分析を基にチームの選手構成に応じて最適と考えられる打順を組むことが多い。そのため、日本に比べて各打順での役割はあまり重視されず、打順を固定した方が良いという考えもあまりない。例えば、2020年のワールドチャンピオンのドジャースはレギュラーシーズンの60試合で57パターンの打順を組んでいる[9]。
ただし、初めからそのような傾向があった訳ではなく、セイバーメトリクスが発達していなかった時代のMLBでは、当時ブルックリン・ドジャースのスプリングトレーニングで訓練係を担当していたアル・キャンパニスが、当時の「多くの優れた野球人」からの意見も採り入れて執筆した野球技術書『ドジャースの戦法』(1954年)において、「ドジャース戦法(スモールボール)」を提唱するとともに各打順の役割を以下のように定義付けている[10]。
キャンパニスの定義はMLB全体に大きな影響を与え、加えて通算本塁打上位5人が3番打者としての出場がもっとも多いという記録が残っていることなどや、一番から始まる攻撃で確実に打順が回ること、四番より前位でありその分打席数が多くなることなどから、2000年代中頃までは三番に最強打者が置かれることが多かった[11]。これは、日本では「三番最強打者論」として一部のチームで採用されるなど影響を与えている。
ところが、2010年代に入ると、セイバーメトリクスによる高度な分析が進み、統計的に最適な打順を研究する学者も数多く存在する中で、コンピュータ・シミュレーションなどによって「より優れた打者により多くの打席数を与える」という起用法が効果的な戦術として示され、それに基づいた「二番最強打者論」がMLB各チームに影響を与えるようになった[12][13]。また、トム・タンゴらは『The Book: Playing the Percentages in Baseball』(2007年)にて、数理モデルを用いて「各打順に認められる一般的な性質」や各打順の「強打者を置く値打ち」などの分析結果を示し「二番最強打者論」を裏付けている[12]。タンゴらによれば、
と分類することができる[12]。このように「最も重要」とされることに加え、併殺を避けるための走力や打点をあげる/得点機を演出する打力などが必要となる一番打者が出塁している場合の打撃、自ら出塁して得点機を創出する能力など求められるものが多いことから、二番に最も優れた打者を起用することが理想的とされるのである[12][14]。
「二番最強打者論」が優位となった背景としては、MLBにおいて、チームの各打者が一様に一定の長打力を有すようになったことで、機動力や走力を利用する戦術から長打力と出塁能力を重視し大量得点を狙う戦術へと傾向が変容し、元来存在した「打者のタイプ」という概念が意味をなさなくなっていることや[13]、初回をビッグイニングにして試合の主導権を握ることを目指す戦い方が主流になっていることなどが挙げられる[15]。その上で、データを用いるなどして「より効率的に得点できる打順」を模索した結果、上記のように「二番に最も優れた打者を置く」という結論にたどり着くのである[13]。
日本でも、これに影響を受けて2015年頃より東京ヤクルトスワローズや東北楽天ゴールデンイーグルスなど一部のチームで二番に強打者を起用するという動きも見られるものの、長期に渡って安定的に成績を残したり、圧倒的優位性を示したりという例は未だなく、定着するには至っていない[14][16]。これについては、MLBのように多くの打者が長打力を有している訳ではない上に、歴史的に機動力やバントなどの小技を駆使する戦術が定着している日本においては[17]、単に「MLBの真似」をしているだけの状態ではこれを定着させるのは困難であるとの指摘がある[16]。ただしその反面、「二番最強打者論」を採用することによって従来の日本式の戦術でしばしば見られる「自ら相手にアウトを与える」行為による得点機会の浪費を抑えることができるとの見方もある[12][18]。
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