タコと文化

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タコが描かれた前期ミノア文明の土器[注釈 1]。
飛鳥山公園にある鉢巻を巻いたタコの遊具。

タコと文化(タコとぶんか)では、人間の文化におけるタコとの関わりについて解説する。頭足類に分類されるタコはその特徴的な姿から、世界各地でキャラクターのモチーフとなっており、神話や伝承にも登場する。

なお、タコを使った食文化については、タコの食文化について述べる。

概説

小原喜三郎の『滑稽欧亜外交地図』。ロシアが黒蛸に描かれる。

地中海沿岸諸国では古来、タコは食用であり、身近な存在であった[1]。例えば、紀元前1,600年頃のクレタ文明やミノア文明では貨幣にタコが描かれ、紀元前1,200年頃のミケーネ文明でも鐙壺の図案に用いられた[2]。キプロスやクノッソスの古陶にもタコが描かれる[3]。また、アリストテレス(紀元前384年 - 紀元前322年)は著作『動物誌』 (Historia Animalium) の中でアオイガイ Argonauta やイチレツダコ Eledone について述べている[1]。

日本では食材としての身近さから、「タコ文化」が根付いている[4]。その形態がユーモラスであり、様々なキャラクターに用いられる[4]。漫画の主人公として登場するほか、玩具や商品キャラクターにもなっている[5]。茹でると真っ赤になるなどといった性質から、茹でたあとの赤色で表現されることがほとんどで[3]、しばしば、胴体を「頭」に、漏斗を突き出た「口」に準え、額に当たる部分に鉢巻を巻いた姿で描かれ[3][6]、しばしば擬人化される[7]。例えば、歌川貞秀『新板化物づくし』には鉢巻をした巨大な蛸が舟を襲う様子が描かれている[8]。タコの姿を模した公園の遊具(滑り台)は「タコ滑り台」や「タコ遊具」と呼ばれ、日本各地に200基ほど見られる[9][10]。また、飾り切りをしたソーセージは「たこさんウィンナー」と呼ばれ、しばしば弁当に入れて親しまれる[11]。

日本ではタコは縁起物として用いられ、おせち料理などにも入れられる[12][13]。茹で上げると赤くなり、めでたい紅白模様であるとされるほか、赤は魔除けの意味があり、墨を吐く生態を「苦難を煙に巻く」と捉え、また名は「多幸」に通ずるとされる[12][13]。

それに対し、ヨーロッパ中北部では「悪魔の魚 (devilfish)」とも呼ばれ、忌み嫌われてきた[14][15][16][7]。これはタコは近づく魚を引き寄せて捕食するため、誘惑者や裏切り者、悪魔と同一視されたことによるとされる[17]。下記のクラーケンが船を襲うとされるように[18]、西洋文学ではタコは海の悪魔として描かれてきた[19]。日本でのタコのイメージとは違い、8本の腕とそれについた吸盤が強調されて描かれる傾向がある[20]。また、多くの長い腕を持つ姿から、1877年にイギリスのフレデリック・ローズにより敵国であるロシアを巨大なタコの姿に描いた風刺地図が描かれた[21]。それを基にフランスや日本、ナチス政権下のドイツなどで、多くの地図製作者に踏襲され、プロパガンダの意図を持ち侵略者をタコに準えた地図が制作された[21]。日本でも、日露戦争開戦直後の1904年に発行された『滑稽欧亜外交地図』がよく知られる[22]。

しかし、近年ではそういった国でも多くのタコをテーマとした商品が急増し、受け入れられている[2][23]。帽子、スカーフやネクタイ、Tシャツ、クッションなどの柄だけでなく、マウスパッドや携帯電話のケースなどコンピューターアクセサリ、マグカップや皿などの食器など、タコをモチーフとした様々な製品が作られている[24]。タトゥーの図案にもなっている[2]。2015年にはユニコードコンソーシアムにより、国際的な文字コードの業界標準規格である Unicode にタコの絵文字(🐙、U+1F419)が追加された[25]。

様々な環境下でのタコの絵文字
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神話・伝承

船を襲うクラーケン。「巨大タコ」と呼ばれるもの。
三代広重『大日本物産図会』に描かれる滑川の大蛸

その特徴的な姿は人間の想像力をかきたて、世界各地の様々な伝承に登場し、またモチーフとされる[26][16]。

例えば、何本もの腕を持つ北欧の伝説に登場する海の怪物、クラーケンはよく知られ、文学や伝説、絵画や映画の至る所に登場する[26]。巨大なタコとイカを合体させたような姿で描かれ、深海に潜んで船を追いかけ、船員を貪り食うとされる[18]。これは13世紀のアイスランドの伝説上の生物ハーヴグーヴァが基になったと考えられており[27]、古代の北欧神話には登場しない。フランスの船乗りたちがアンゴラ沖で巨大なタコに襲われたという話が伝わり、ピエール・ドニ・ド・モンフォールにより「巨大タコ (Le Poulpe Colossal)」の仕業とされ、1810年に著作中で描かれた[27][18][28]。モンフォールは巨大タコとクラーケンの2種の大蛸を区別したが[27][28]、後世には同一視されることもあった[29]。

またタコは、『オデュッセイア』に登場する12本足6頭の怪物スキュラと混同されることもあった[7]。ダニエル・コーエンはギリシア神話のヒュドラはタコがモチーフとしている[30]。

大プリニウス(紀元23年–79年)の『博物誌』には、270 kg 以上の体重を持ち、村人から魚を奪う巨大な蛸についての記述もある[26]。また、ここにはタコは自分の腕を食べて、再生するとも書かれ、それゆえキリスト教世界では守銭奴の象徴ともされた[7]。

イタリアリグーリア州のテッラロでは、巨大蛸が教会の鐘を鳴らして迫りくる敵の侵攻を報せ、村を救ったと伝わる[26]。そのため、テッラロではドアの装飾など様々なところでそのオマージュが見られる[26]。

西インド諸島のアンドロス島では、多くの巻いた腕で人間を捕える「ルクサ (Lucsa)」と呼ばれる怪物が伝えられ、これは巨大なタコともされる[31]。

ハワイの神話では、タコは神代の唯一の生き残りとされる[26]。ハワイの創造神話に登場する海神はカナロアと呼ばれる[32]。キリバスのギルバート諸島では、タコの神ナ・キカが海底から島々を強く押し上げたと伝わる[26]。

ネズミとタコ

オセアニアの各地では、「ネズミとタコ」の伝説が知られ、タコはネズミに深い恨みを持っているとされる[33][34][35]。地域によっては詳細が異なり、様々なバリエーションが存在する。ネズミと小鳥とタコがココヤシの殻を舟にして海へ出た[34]。しかし、小鳥がココヤシの殻をつついて舟に穴を開けて沈んでしまった[34]。小鳥は翼で飛び立ってしまったが、親切なタコは泳ぎの苦手なネズミを乗せて岸まで運んであげた[34]。しかし、ネズミは礼を言うどころかタコを「禿げ頭!」と罵って立ち去った[34]。そのためタコは憤慨し、ネズミを恨み続けるようになったため、タコはマカフェケと呼ばれるネズミを模した漁具で捕獲されると伝わる[34]。

ニューカレドニア島イヤンゲーヌに伝わる話「ネズミとサギ」では、登場する鳥はサギであり、ネズミと二人でサトウキビでできた舟に乗って魚を捕りに行く[35]。サギが魚を捕っている間、空腹のネズミがサトウキビでできた舟をかじって無くなってしまった[35]。呆れたサギが飛んで帰ってしまい、泣いたネズミの涙がタコに届いた[35]。タコは親切にネズミを運ぶが、この話でもやはり「禿げ頭」と罵られて逃げられ憤慨する[35]。

サモアでは鳥はクイナであり、ヤドカリとクイナとネズミの3匹が舟で旅に出る[36]。舟は嵐で沈んでしまい、ヤドカリは潜って、クイナは飛んで去ってしまう[36]。ネズミは現れたタコに浜まで運んでもらうが、ネズミは途中でこっそりタコの頭に糞をして、陸に着くとそれを馬鹿にした[36]。マーシャル諸島では同様の言い伝えからタコの墨汁嚢の内容物を「ネズミの糞」と呼び、これを食べる人間は卑しまれる[36]。

日本の大蛸

日本でも、古くから大蛸の伝説などの説話や俗信が伝わる[37][16][31]。多くの場合、巨大な蛸入道の姿で波打ち際や海上の船の前に現れる[38]。牛馬や猿を驚かせたり捕らえたりすることもあれば、人を海中に引き込む話も多い[38]。例えば、津軽では大蛸が牛を捕えた伝承が伝わる[16]。『大和本草』には、夜に海辺に忍び込んで牛馬を攫う大蛸が巨大な蟒蛇と格闘し、海中に引き込んだという伝説が記される[16]。また、江戸中期の『日本山海名産図会』では、「滑川の大蛸」と呼ばれるタコが描かれる[39][16]。

人間が捕らえられる伝承の多くは、昼寝をしている大蛸の足(腕)を1日1本ずつ切り取って食べたところで欲が出て、最後の日に残った足で海中に引き込まれるというものである[16][38]。香川県には、「ヤザイモン蛸」という大蛸の怪が伝わる[40]。八左兵門という男が昼寝している大蛸の足を1日1本ずつ足を切って持って帰り、あと1本というときに、大蛸が八左兵門を海に引き込んだという[40]。同様に神奈川県旧北下浦村(現横須賀市)でも、漁師が磯で大蛸を見つけ、1本で桶がいっぱいになる大きな腕を一本ずつ切っていったところ、8日目に海に引きずり込まれたという話が伝わり、この場所を七桶の里という[38]。千葉県南部では、タコは恐ろしい動物で人の命を取ると言われ、次のような話が伝わる[30]。千葉県館山市布良の番太の女房が海辺にいた大蛸の足を毎日1本ずつ切っては帰り、食べていたところ、8日目に最後の1本を切ろうとしたときに高波に呑まれ、タコの足に巻かれて沖に連れ去られた[30]。

愛媛県今治市の大三島では、大蛸の足という話が伝わる[41]。大三島の沖のじじ岩、ばば岩(婆ヶ岩[38])の名で知られる二つ岩の近くに潮干狩りに出かけた17歳の娘、お浜が二つ岩の主の大蛸に見つめられて逃げ帰ったところ、後日大蛸が家を訪れて婚姻を迫った[41]。返事をしなかったところ大蛸が暴れて暴風を起こしたので、嫁に行くことになったが、その際大蛸の8本足が2本足になるまで足を切り落とさせてくれと約束した[41]。毎日1本ずつ切っていったが、6本目を切り終えた次の日に残りの足も切ろうとしたところ、大蛸はお浜を攫って海へ消えて行った[41]。

福井県旧東浦村(現敦賀市)に伝わる話では、貝を採るために潜った孫介がなかなか浮き上がってこないので探してみると、水面下三尺のところを回っており、周囲五尺の柱に繋がれていた[38]。引き上げてみると柱と思っていたのは大蛸の足だった[38]。

兵庫県明石市では、蛸壺漁の由来に関して「明石の大ダコ」の言い伝えがある[42][43]。林崎に西窓后と東窓后の2人の后が住んでいたが、8–12 km の腕を持つ明石の海にすむ大蛸が后たちに思いを寄せ、毎晩腕を伸ばしてちょっかいをかけた[42][43]。二見浦の武士、浮須三郎左衛門が退治しようと追いかけると、大蛸は壺に隠れてしまった[42][43]。蛸壺に隠れた大蛸を陸に引き上げ、生捕りにしたものの腕を伸ばして暴れたので、三郎左衛門は一本ずつ刀で切り落としたが、大蛸が暴れて蛸壺をひっくり返してしまった[43]。大蛸は山伏に姿を変え遁走したが、林神社のあたりで追いつめ、4つに叩き切ると、そのまま大きな石になった[43]。これが元となり、蛸壺漁が始まったと伝わる[42][43]。

新潟県佐渡島の相川では、大蛸が馬を捕えて乗り回して暴れていたので獲らえたところ、町内全戸に配っても余るほどだったと書かれた「蛸配帳(たこくばりちょう)」が明和まで伝えられていたとされる[16][44]。また、佐渡では天保8年に、眼が3寸の大蛸を退治対峙した記録があり、眼は金色に光り、頭はカボチャ大で怒ると朱くなったとされる[31]。越後や佐渡では、海坊主は大蛸が変化したものだという俗説が伝わる[31]。

京都府与謝郡には、「衣蛸」(ころもだこ)という蛸の妖怪が伝わる[45]。船が近づくと、大蛸に変化して海中に引きずり込むとして恐れられる[45]。

アイヌの伝承にはラートシカムイやアッコㇿカムイと呼ばれる巨大な蛸が登場する[46][47][48]。

蛇蛸

蛇が水際で蛸に変わる「蛇蛸(蛇だこ[30]、へびだこ)」の伝説も各地に伝わる[38][49]。こうして変化したタコは7本足で人を襲うとも言われ、北陸から北日本にかけて広まる[7][30]。『笈埃随筆』には、蛇が蛸に変化する伝説が記されている[16]。越前に行った商人が、地元の人々が誘い合わせて蛇が蛸になるのを見に行くのを耳にしてついていった[16]。すると山の裾から蛇が現れて海へ泳ぎ出て、尾で何度か水面を叩くと、尾が裂けて脚のようになった[16]。やがて半身が蛇、半身が蛸になり、完全に蛸に変化した[16]。壱岐でもカラスヘビが海辺で尾を石に打ち付けて割き、海に入ってタコになるのを見たと伝わる[30]。若狭の小浜では、梅雨になると蛇が海でタコになるとされ、住民はそれを見分けて蛇のほうは食べなかったとされる[30]。佐渡ではこれを蛇だこと呼び、その正体はムラサキダコではないかともいわれる[30]。

竜宮伝説

タコにまつわる竜宮伝説も各地に伝わる[16]。宮城県南三陸町の志津川湾に浮かぶ竹島にも竜宮伝説が知られる[16]。浜の若者が次々行方不明になり、不審に思った気丈夫な男が月下に海を見張ると、音楽が聞こえてきた[16]。小舟で音楽の方へ向かうと御殿があり、美女に馳走を振舞われた[16]。美女の視線が冷たいことを怪しみ懐の小刀で突いたところ、気を失ってしまい目が覚めると散乱する白骨の脇でタコが死んでいたと伝わる[16]。

松前のカッパ

北海道松前郡では、海中で婦人がタコの足に触れると妊娠するという迷信がある[50]。医者が婦人の難産を治療したところ、タコの足が2本現れたので切断したが、残りの部分は出てこず、産婦は死んでしまった[50]。タコが腹に吸いついて出てこなかったのだという[50]。松前ではこのような異形を「カッパ」と呼び、それが海に入ると「ヤドリ」になるという[38][50]。

上陸するタコ

タコは陸上でも30分以上動き回ることができるため、「夜中に畑の大根を盗む」という逸話が知られる[51][52]。畑の芋を掘って食べたり、墓地に埋葬されたばかりの新仏を盗み海へ逃げ帰ったりする例も知られる[38]。

タコは里芋を好むともされ、6本の足で陸上を歩み、2本の腕で土を掘って芋を盗むとされる[7]。これは里芋と煮た料理が親しまれることからと考えられている[7]。漫画家の小野佐世男はタコが掘った芋を抱えて浜へ戻るのを見たという話をラジオ番組などで語っている[38]。

伊勢の飯野郡では、知恵を持ち力が強い7本足のタコがおり、悪行をなすため忌まれていた[30]。しかし悪い餌を食べていたため人が食べるわけにもいかず、年を経て化物になった[53]。7本足のタコは時々陸に上がって野の墓に行き、新仏を盗んでいくとされた[53]。また、青森県旧岩崎村(現深浦町)では、文化3–4年に病没者を火葬している際に沖から大蛸が現れて火を消し埋葬者を搦めて持ち出そうとしたが、村人が切り殺すと中から人馬の骨が見つかったと伝わる[38]。

三重県鳥羽市にある畦蛸(あだこ)では、「嵐の日に大波に乗って蛸が田圃の畦にやってきた」や「月夜になると蛸が畦の水路まで泳ぎ登ってきた」などの伝承が伝わり、その地名に名を残している[54][55]。

2002年に放送されたテレビ番組『フューチャー・イズ・ワイルド』では、空想上の1億年後の未来の生物として「スワンパス (swampus)」と呼ばれる半陸生のタコが登場する[56]。

信仰と行事

京都、新京極の永福寺(蛸薬師堂)にあるなで蛸。
愛知県日間賀島の安楽寺。タコの絵馬が奉納されている。

日本では古くからタコが民間療法にまつわる信仰対象とされてきた[57]。そのため、日本各地に蛸薬師や蛸地蔵が存在する[57]。

蛸薬師(たこやくし) は、祈願すると禿頭[37][53]や腫れ物などに霊験があると信じられている[57]。蛸薬師には、タコを食べないと誓ったり、蛸の絵の絵馬を上げたりして祈願される[37][57][58]。京都市中京区に所在する新京極の永福寺や、東京都目黒区の秋葉山成就院がよく知られる[37][57][53]。京都のものは、タコを禁食して祈れば疣や痔がすぐに治癒するとされ、『本朝俗諺志』(1746年)にも見える[57]。また、婦人病にも霊験あらたかとされる[59][7]。蛸薬師通の由来にもなった。目黒のものは薬師如来がタコに乗って海を渡ってきたと伝えられ、やはりタコを断って祈願すれば眼病や腫れ物に霊験があるとされる[57]。淡路島旧三原町にある薬師堂でも、絵馬にタコが描かれ、由来書には「漁夫の間には風習迷信があって、病を治すためには薬師如来に祈願し、ある期間や一生蛸を禁食するとか蛸を生け捕らない等の誓いを立てたものである」と書かれる[59]。

町田製薬の軟膏「吸出し青膏」は、「まるで蛸が吸い付くようにおできの膿を吸い出す」というイメージから「たこの吸出し」の愛称が付けられている[60][57][61][62]。たこ美とたこ之助という2匹のキャラクターが作られている[62]。

大阪府岸和田市にある天性寺は蛸地蔵(たこじぞう)と呼ばれる[57][63]。岸和田城落城の危機に、大蛸に乗った法師が数千のタコを従えて現れ、城を救ったという伝説がある[53][63]。この法師は地蔵の化身であり、後日城の堀から矢傷・玉傷を無数に負った地蔵が発見されたと言われる[63]。タコの絵馬が多く奉納され、家内安全や商売繁盛、安産などが祈願される[57]。また、南海本線蛸地蔵駅の由来にもなっている[57][64]。

愛媛県西予市明浜町(旧狩江村)にある春日神社では、あるとき御神体が上方に移そうと船で盗み出された際、三崎村名取で神罰を受けて難破し、御神体を海中に落してしまったところ、それを大蛸が海上に持ちあげ、地元の住民が拾って海岸に祀り、翌年狩江村民が現存する元の所に祀ったという伝承がある[57][65]。そのため狩江村民は蛸を捕まえず、今日に至るもタコを食べない習慣が残っている、と伝わる[57][65]。愛媛県三崎町正野の野坂権現でも同様の伝承が伝わり、海人はタコを口にしないと言われる[57]。岩手県久慈市宇部町でも漁師の守り神として「タコ神」が祀られ、漁師は決してタコを口にしない伝統が伝わる[57]。

愛知県知多郡南知多町の三河湾に浮かぶ日間賀島は「タコの島(多幸の島)」と呼ばれる[66][67][68]。日間賀島にはモニュメントやマンホールの蓋など、至る所でタコのキャラクターが見られる[66]。旧来タコ漁が盛んで、干ダコを作る伝統がある[69][70]。日間賀島では貞観4年の大地震で沈んだ寺の仏像が漁師によって引き上げられた時、仏像を守るように一匹の大蛸が巻きついていたという逸話があり[66][69]、それを曹洞宗安楽寺の阿弥陀座像の胎内仏として祀ったとされる[69][71]。そのため安楽寺は「たこ阿弥陀(章魚阿弥陀)」と通称される[66][70][71]。それ以来、旧暦正月3日に安楽寺にタコを供えて「蛸祭り」を行うようになった[69][71]。明治維新以降、この祭りは元日に日間賀神社で行われるようになり、同時に島にあるもう一社の八幡社にも干ダコが祀られる[69]。干ダコは蒸してから短冊状に切る「タコさばき」が行われ、神饌とされる[69][70]。もとは大漁祈願、安全長寿を祈る正月行事があり、それに安楽寺の由緒なども加わり発展したものだと考えられている[69][70]。昭和30年代まではこれが島の主要な行事であったが、現在ではタコ漁が衰退するとともに観光化が進み、夏(8月)に観光行事として、タコの供養と豊漁を祈願する「たこ祭り」が行われる[66][69][71]。ここでは、子供たちを対象とした蛸ダンスや蛸のつかみ取りなど娯楽イベントが行われる[69][71]。

『出雲国風土記』には、出雲国杵築御崎にいたタコを天羽々鷲(あめのはばわし)は捕らえ、運んで行った島を「蜛蝫島(たこしま)」[注釈 2]と呼んだとある[42][72]。蜛蝫島は現在の大根島とされ、「蜛蝫神社(たこじんじゃ)」がある[73]。

タコは稲の成長の祈願にも関連している[57]。関西地方には半夏生にタコを食べる「半夏蛸」の習慣がある[57][74][52]。これはタコの腕を伸ばす様子を発育の良い稲に見立てたとも[57]、大地にタコのように吸い付いて[74]、稲の根が蛸足のようにしっかり根付くようにともされる[52][74]。愛媛県にも田植えのサンバイオロシ(田の神降ろし)の際に、タコの吸い付く習性に肖り苗の活着が早くなることを祈って、タコを供える呪術的風習が知られる[57]。

また、浴衣地に網目文を施した上にタコを描き、大漁を意図した図柄が用いられることもある[74]。歌川豊国『江戸名所百人美女 薬けんぼり』などに描かれる[74]。

日本では、タコを食べると瘧(マラリア)が再発するが、マラリア患者が1杯食べつくせば完治するという迷信があった[30]。また、伊勢山田では痰の薬に、沖縄には頭痛や虫下しの薬に用いた[30]。福岡県の玄界灘沿岸では「コヤスノガイ」と呼ばれるアオイガイの殻に水や湯を入れて妊婦に呑ませ、安産祈願を行う[75]。

愛媛県では、妊婦がタコの足を食べると生まれてくる子の髪の毛が縮れるという俗信があった[30]。朝鮮の俗信では、妊婦がタコを食べると骨のない子が生まれるとされた[17]。和歌山県では、タコを煮ている傍で笑うと顔が赤くなると言われた[30]。

かつて大阪では、春の彼岸と秋の彼岸に四天王寺境内に「蛸蛸(蛸々、たこたこ)」と呼ばれる大道芸人がいた[76][77]。一人は張りぼての大きな蛸を頭から被り、もう一人は戎の被り物をして張りぼての鯛を持ち踊った[76]。日清戦争以降は腰に張りぼての馬をつけ、玩具の剣を振り回す剣劇を行うようになった[76][77]。中国兵の首が落ちると「コレ一銭の泣き別れ」と言って入れ替りとなる[76]。それを「蛸々眼鏡」と呼ばれる万華鏡で覗かせ、見物料を稼いだ[76][77]。初めは1銭であったが、2銭、3銭となり、最後は5銭となって滅びた[76]。「天王寺名物、たこたこ眼鏡じゃい」[76]「とうさん、ぼんさん、眼鏡をお目々にしっかりつけて、ハイヨウ蛸ぢやいな、蛸ぢやいな」などの声で知られた[77]。

作品

ラヴクラフトによるクトゥルフのスケッチ。

日本ではタコは多くの場合、コミカルで親しみやすいキャラクターとして描かれる[78]。タコはそのものでなくても様々なキャラクターのモチーフとして登場する。例えば、日本では田河水泡の漫画『蛸の八ちゃん』や古谷三敏の『ダメおやじ』のキャラクター「タコ坊」などが挙げられる[4]。『蛸の八ちゃん』は海底から人間世界にやってきたタコの物語を描いた作品である[60]。1973年にぬいぐるみ劇として放送された日本の特撮テレビ番組『クレクレタコラ』では、公害によって怪獣化し陸に上がったフテクサレタコ「タコラ」が登場する[79]。巡音ルカの頭部だけをデフォルメし、髪の毛を脚に見立てたキャラクターは「たこルカ」と呼ばれる[80][81]。

ハワード・フィリップス・ラヴクラフトのクトゥルフ神話描かれる邪神クトゥルフはタコの頭部にコウモリの翼を持った巨大な軟体動物のような姿をしている[26]。これは他の作品にもオマージュされ、『サウスパーク』でもネタとして取り上げられている[26]。

小説・映画

西洋文学において、タコは長らく海の悪魔として描かれてきた[19]。かつては悪役であったタコは、現在では主人公としての立場を獲得することもある[82]。

ヴィクトル・ユゴーはクラーケンのイメージから、『海に働く人々』(1866年)で人間を襲うタコを描いた[7]。ジュール・ヴェルヌのSF小説『海底二万里』(1870年)では、タコが人間の太刀打ちできない敵として登場する[27][36][注釈 3]。それを基に制作された映画『海底六万哩』(1916年)では同様に敵はタコであったが、『海底二万哩』(1956年)ではイカをモチーフとしたクラーケンに変更されている[27]。『水爆と深海の怪物』 (It Came from Beneath the Sea, 1955) でもジェット推進する巨大なタコが描かれている[84]。映画『テンタクルズ』 (Tentacles, 1977) もクラーケンの伝説に由来し、大蛸が登場する[85]。アメリカのパニック映画『オクトパス』 (Octopus, 2000) では、船や潜水艦を襲い、恐ろしい歯が生えた口に取り込むクラーケンが登場する[86]。ジェムソン・アイリッシュ・ウイスキーのコマーシャル映像でも巨大な酒好きのタコが登場する[86]。『メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス』 (Mega Shark vs Giant Octopus, 2009) では巨大なタコがサメをも仕留めている[87]。

2009年のアカデミー賞短編アニメ賞にノミネートされた『オクタポディ』 (Oktapodi, 2007) では、タコの番が登場する[88]。2003年のディズニー映画『ファインディング・ニモ』にはオオメンダコのパールが[89][90]、『ファインディング・ドリー』にはミズダコのハンクが登場する[82][91]。ハンクは主人公ドリーの見方として、家族と再会させるべく人間を出し抜こうとする[82]。ニコロデオンのアニメ『スポンジ・ボブ』シリーズに登場するキャラクター「イカルド・テンタクルズ (Squidward J. Q. Tentacles)」は、どの言語でも名前からイカに間違われるが、タコがモチーフである[92]。2010年の『トイ・ストーリー3』では「ストレッチ (strech)」という名の紫色のタコのおもちゃが登場し、腕を伸ばしてお金をかき集める[93][94]。

映画「ジェームズ・ボンド」シリーズの『007/オクトパシー』には、女性窃盗密輸団の古い秘密指令の印にヒョウモンダコが用いられている[95]。シカゴ・フード映画祭で2011年に最優秀フード・ポルノ映画賞を受賞した短編映画『アモール・プルポ』 (Amor pulpo, 2011) は、女性がデートの支度をする場面の合間にタコが捕獲され調理されるシーンが映され、レストランにて供されるという作品である[96]。

1989年にディズニーが制作した映画『リトル・マーメイド』では、魔女アースラというキャラクターが登場するが、その動きはジャック・クストーが撮影したタコの動きがモデルであると言われる[97]。モバイルゲーム「ディズニー ツイステッドワンダーランド」では、『リトル・マーメイド』をテーマとした寮オクタヴィネルに、アースラのようにアズール・アーシェングロットというタコ脚(オクトピット)のキャラクターが登場する[98]。

俳句と詩

「蛸」や「章魚」は夏(三夏)の季語、「麦藁章魚」は仲夏の季語となっている[99]。

江戸時代の俳人である松尾芭蕉は、明石にて「蛸壺や はかなき夢を 夏の月」という俳句を詠み、柿本神社にその句碑が残っている[100][52]。出典は『猿蓑』で、「笈の小文」に収録されている[101]。正岡子規は「飯蛸の 手をひろげたる 檐端哉」や「冬枯や 蛸ぶら下る 煮賣茶屋」の句を詠み、『寒山落木』に収録される[102]。熊本県の俳人上村占魚は「章魚沈む そのとき海の 色をして」という句を詠んだ[101]。

萩原朔太郎の散文詩に「死なない蛸」がある[103][36]。水槽で餌を与えられないタコが自分の体を全て食べてしまい、意識だけの存在になって生き続ける[36]。

イギリスの詩では、やはりタコは恐ろしい存在として表現される。アルフレッド・テニスンはソネット The Kraken(1830年)を詠み、「数知れない巨大な突起 まどろむ青い海を巨大な腕でかき乱す (Unnumbered and enormous polypi Winnow with giant arms the slumbering green.)」と表現した[27]。

楽曲

1969年の『アビー・ロード』に収録されたビートルズの「オクトパス・ガーデン」はタコが蒐集したものを巣穴の周りに並べる様子がきっかけに生まれた楽曲である[104]。リンゴ・スターは『ビートルズアンソロジー』の中で当時を振り返り、サルデーニャ島での休暇中に船長から聞いた話を基に歌詞を書いたと語っている[105]。

日本では、「湖畔の宿」の替え歌として『タコ八の歌』が知られる[106]。

美術

ボローニャのモンタニョーラ公園にあるニンフの噴水の彫刻。
歌川国芳『流行蛸のあそび』

伊藤若冲の『動植綵絵』「群魚図」には、様々な魚種に紛れて大きな泳ぐタコが描かれており、その一本の腕の先端にはもう1匹の小さなタコがしがみついている様子が描かれる[107][108]。歌川国芳の浮世絵『流行蛸のあそび』には、擬人化された様々なタコの様子が描かれる[109]。

タコの姿はパブリックアートのモチーフとしても見ることができる[25]。イタリアボローニャのモンタニョーラ公園(英語版)にあるニンフの噴水の彫刻には、乙女の太腿に腕を巻き付かせるタコが彫られている[110]。スペインのビーゴには、前述の『海底二万里』を書いたヴェルヌとタコの銅像が設置されている[111]。テキサス州イーストオースティンの公園(ジェシー・アンドリュース・パーク)には、6 m の高さの紫色のタコの彫刻「オチョ (Ocho)」がある[25]。

ドキュメンタリー

ジャン・パンルヴェ(英語版)は、海洋生物のドキュメンタリーを得意としていた映画監督であり、タコを主題としたドキュメンタリーを制作している[93]。パンルヴェはタコの特性をしなやかなチューインガムのようだと形容した[93]。彼の処女作はまさに、『タコ』 (La Pieuvre, 1928) であり、10分間のシュールレアリスム風なモノクロの短編サイレント映画であった[93]。パンルヴェによる短編映画『タコの性生活』 (Les amours de la pieuvre, 1967) では、雄が雌の漏斗に交接腕を挿入する様子が描かれる[112]。

ドイツ・オーバーハウゼンの水族館 Sea Life Oberhausen で飼われていたチチュウカイマダコの「タコのパウル (Paul der Krake)」を主題とした長編ドキュメンタリー『超能力タコ、パウルの生涯』 (The Life and Times of Paul the Psychic Octopus, 2012) が制作されている[113]。

2019年にアメリカのPBSが放映した Octopus: Making Contact は、生態学者のシールがタコを家に招待するドキュメンタリーである[82]。最初の放送で190万人に視聴され、インターネット上で大きな反響を得た[82]。

『オクトパスの神秘: 海の賢者は語る』 (My Octopus Teacher, 2020) は、Netflixで配信されたドキュメンタリー映画で、南アフリカのケルプの森(ジャイアントケルプなどからなる藻場)で野生のチチュウカイマダコとの信頼関係を築こうとする様子が描かれている[82]。この作品は2021年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を獲得した[82]。

2024年にはナショナル・ジオグラフィックが制作した『解明!神秘なるオクトパスの世界』 (Secrets of the Octopus, 2024) がDisney+で配信されている[82][114]。水中で2年もの期間撮影され、知性を示すタコの姿が捉えられている[23]。

タコをモチーフとしたキャラクター

また、企業や自治体のキャラクターとなることもある。宮城県の南三陸復興ダコの会では、タコをモチーフにした「オクトパス君」というゆるキャラが存在する[115]。北海道函館市戸井地区では道内有数のミズダコ漁獲量を誇ることから、1988年の戸井町時代にタコが町魚に制定され[116]、合併後の現在もイメージキャラクター「トーパスちゃん」が親しまれる[117]。

サンリオのキャラクターには「チューチューターコ」がおり、ボーイフレンドはイカのコータくんである[118]。

ゲーム「ポケットモンスター」のシリーズでは、『ポケットモンスター 金・銀』からオクタンが登場する[119]。オクタンの名はオクトパスとタンクを掛け合わせたものだとされる[119]。また、『ポケットモンスター ソード・シールド』には、タタッコと、それが進化したオトスパスが登場する[120][121]。オトスパスはわざ「たこがため」を使う[121]。

腕と触手

葛飾北斎の描いた春画『蛸と海女』の一部。
Spicy-Adventure Stories (August 1936) の表紙。

タコの腕はスーパーヒーローや悪役のモデルになっている[122]。マーベル・コミックの作品にシリーズに登場するスパイダーマンの宿敵、ドクター・オクトパスは独立して動く腕を駆使する様子が描かれる[123]。この腕は3 t の物を持ち上げられるという設定がある[124]。

香港の公共交通機関が発行しているICカードは八達通(オクトパスカード)と名付けられ、様々な機能を持ち、タコの長く便利な腕を想起させるネーミングとなっている[123]。ポペットバルブの気密を保つために研磨を行う際、持ち手として取り付けるバルブラッパー(工具)はタコ棒という俗称で呼ばれる。先端にタコのような吸盤があり、これでバルブを吸いつけて作業する[125]。

性的モチーフとして

また、タコの腕はしばしば淫らなイメージを持って扱われ、「触手もの」という一大ジャンルとなっている[126]。触手もののはじまりは19世紀初頭の日本の木版画である[126]。葛飾北斎の作とされる文化11年(1814年)に刊行された春画『喜能会之故真通』「蛸と海女」には女体に絡みつくタコが描かれている[78][126][16][30][注釈 4]。「蛸と海女」では海女が岩場で仰向けになり、両脚の間に大蛸が、口元には小蛸が、乳首や肢体には蛸の腕の先が巻き付いており、海女の両腕は大蛸の2本の腕を握りしめている[126]。昔の西洋の研究者はこれを凌辱の場面と誤解したが、合意のうえでの快楽を描いている[126]。これは根付のモチーフなどにもなっている[126]。現代でも、佐伯俊男や寺岡政美などの作品に受け継がれている[110]。

20世紀半ばにはアメリカのパルプマガジンやコミックの表紙にタコが用いられるようになった[126]。1936年8月号のスパイシー・アドベンチャーズ誌の表紙には赤い水着姿の女性に腕を巻き付けるタコが描かれている[126]。

漫画やアニメーションの世界でも触手ものは広がり、ロボットの腕が登場することもある[110]。更に暴力的な表現は「触手責め」と呼ばれ、フェティシズムの一つとなっている[110]。これは男性器を直接描写できない検閲規制から発展したと考えられることもある[110]。

吸盤を具えた腕で抱きしめ吸い上げるイメージから、タコそのものも好色的で淫らなイメージを持たれる[16][7][3]。そのため、西洋では食べると催淫作用があるという俗信があった[17]。 日本語の「蛸」は女陰の特殊なものを指す隠語として用い[37][130][131]、タコの吸盤のように引き付けるものを指す[58]。「蛸つび(蛸玉門)」[132]や「蛸壺」ともいう[58]。

「蛸」は私娼を指す例もある[130]。江戸中期の菅江眞澄の寄稿日記には、南部地方では古く遊女のことをタコと言った、と記される[16]。また、「閨中に入って妾はタコになる」や「章魚と麩を出してもてなす出合茶屋」などといった破礼句も知られる[16][58]。タコのように吸い付いて傍を離れない女郎を「蛸女郎(たこじょろう)」という[58]。日本以外でも、フランスのノルマンディーでは、漁師の間での隠語として、タコは男性の持つ全ての力を吸い取る強欲な女を意味する[16]。

タコと火星人

フィクションにおける火星人の姿はしばしば頭が大きく手足は細長く描かれ、「タコ型」と言及される[133][134]。これはイギリスのウェルズが書いた1898年のSF小説『宇宙戦争』の挿絵に由来するとされ[133][134]、頭脳の高度な発達と肉体の退化とを表している。

タコ型宇宙人は後世の様々な作品に転用されている。例えば、1939年の海野十三『火星兵団』に登場する火星人は「大蛸のような」と形容されている[135]。昭和30年代に少年雑誌「ぼくら』に連載された前谷惟光による「火星の八ちゃん」もタコをイメージした火星人が描かれている[60]。2021年のタイザン5の漫画『タコピーの原罪』に登場するキャラクター「タコピー」などにもその影響がみられる[136]。

日本語とタコ

「蛸」の「凧」。オランダにて。

タコは特徴的な姿や生態を持つため、様々な物事がタコに喩えられて用いられてきた。玩具の「凧(たこ)」は、長い尻尾を付けた様がタコに似ることから名付けられたとされる[137][138]。凧は上方では、「いか」や「いかのぼり」とも呼ばれる[15][138]。また、上代の旗には蛸旗(鮹旗、たこはた)と呼ばれるものがあり、吹流しに類するもので、こちらも旗の足が割れている様子をタコの腕が垂れている様子に喩えたものであるとされる[37][139]。

体にできる「胼胝(たこ)」も一説にはタコの手の裏に似ていることからともされる[140]。

また、日本語にはタコを冠する言葉やタコに関する諺も数多く知られる[138]。例えば、タコは骨を持たないことから、有り得ないことの喩えとして「タコのあら汁」、当たり前のこととして「タコに骨なし、海月に目なし」と言われる[138]。

胴体に由来する表現

蛸の「頭(胴体)」が坊主頭に似ていることから、坊主頭の者を嘲り、蛸入道や蛸坊主(たこ坊主)という[139][37][130][138]。蛸入道はタコそのものを指すこともあり[37]、坊主を蔑んで「蛸」ということもある[37][141][58][76]。蛸入道を略して「蛸入(たこにゅう)」ということもある[142][143]。「たこにゅう」は戦前の女学生ことばであるとされる[143]。なお、タコは料理をしても骨が残らず、魚臭もしないため、肉食をする「生臭坊主」でなくとも僧侶の間で重宝がられたという流言が伝わる[138]。また、大阪弁では値が張ることを「高うつく」というが、「坊主のはりつけでタコつく(蛸突く)」という駄洒落も知られる[76]。

また、タコの胴のように頂辺を丸く縫い上げた頭巾を蛸頭巾(たこずきん)という[37][139][138]。蛸頭巾には紫色を用いた[37]。オーバーコートやレインコートに付けて頭に被るフードを「蛸」ということもある[37]。

姿に由来する表現

蛸胴突による礎石搗き固め。

杭を打ったり土や割栗石を突き固めるのに用いる道具(胴突き)は蛸(たこ、タコ)または蛸胴突(たこどうつき)と呼ばれる[144][37]。蛸搗(たこつき)とも呼ばれる[145][146][147]。直径 30–40 cm の樫や欅の材を円筒形の棒にし、2–4本の把手を付け、先端に金輪をはめてできる[37][注釈 5]。数人で持ち上げるため柄が多くついており、それをタコに喩えたものであるとされる[145]。そのようにして搗き固める仕事を指して「蛸搗き(たこつき)」ということもある[150][151]。石製の土搗きの道具は「石蛸」と呼ばれる[146][147]。

着物の裾の周囲をまくり上げることを蛸絡(蛸絡げ、たこからげ)という[15][37][138]。蛸が腕を広げた姿に喩えたものである[138]。また、古くは蛸(章魚)は脚絆(股引)を指すこともあり[152][130]、蛸片(蛸衣、たこびら)と呼ばれた[130][153]。蛸片は獄衣を指すこともある[130][154][155]。

一つ(または少ない)ものを手に入れようと四方八方から争って引っ張るさまや、人気のある人物や物が多くの人に求められる状態をひっぱりだこ(引っ張り蛸、引張蛸)と言うが[156]、これは腕を竹串で張って干される干しダコの姿に由来するとされる[67][156]。また、近世以前は、「ひっぱりだこ」は磔刑およびその受刑者を意味する比喩表現であり、1687年の浮世草子『色道大皷』に見られる「三人の女房の敵おぼへたるかとひっはり蛸にして突通し捨ぬ」のように17世紀に用例が知られる[156]。前者の初出の実例は1802年の『俳諧觿』で、「引はり凧に風邪の流行医」の雑俳が知られる[156]。このように「引っ張り凧(引張凧)」と表記されることもある[156]。

大阪市北区中之島の堂島川に面して生えていたクロマツは、タコが泳ぐ姿に似ていることから「蛸の松」という愛称で呼ばれている[157][158]。

腕に由来する表現

器物の足が蛸の足(腕)のような形になっているものや、1箇所からいくつも分岐している形をタコの腕に喩えて、蛸足(タコ足、たこあし)という[37][15]。特に1つのコンセントから多数のコードを引き、電気器具を接続することを蛸足配線という[15]。また、内燃機関において、等長化されたエキゾーストマニホールドは俗にタコ足と呼ばれる[159]。キャンパスが複数の箇所に分散している大学は蛸足大学と揶揄される[138]。腎臓の糸球体にある足細胞 (podocyte) は、数本の突起を放射状に毛細血管壁へ伸ばしていることから、「タコ足細胞」とも呼ばれている[160][161]。

また、古伊万里唐草に見られる、蔓に突起状の葉を加えた蛸の腕のような文様は、「蛸唐草」と呼ばれる[162]。

タコは自分の腕を食べるという逸話から、株主が自分の資本を食いつぶすことをそれに準えて、配当するだけの利益を上げていない株式会社が架空の利益を計上して資産から不当に株主へ配当することを「蛸配当」という[37][139][138][163]。「蛸配」や単に「蛸」ともいう[37][139][164]。また、自分の財産を食いつぶすことを「タコは身を食う」という[138]。

同様に自分の腕を食べるという逸話から、会食などで各自で持ち寄ったものを全て食べ終え、もう何も食べられるものがない状態を「タコの手食い」という[138]。

蛸壺に由来する表現

蛸を捕らえる蛸壺を元にした言葉もある。「蛸壺」は原義から転じ、戦場で兵士が一人だけ立ったまま潜み、そこから射撃できるように掘った塹壕を指す語としても用いられる[37][139]。

また、第二次世界大戦前に北海道や樺太の炭鉱に見られた、労働所を収容して重労働を強制した部屋を「蛸部屋(タコ部屋)」と呼ぶ[37][138]。これは蛸壺のタコのように抜け出せないことからと言われる[37][138][31]。蛸部屋は単に「蛸」とも呼ばれ、そこで働かされる人のことも「たこ」という[37][139][138][165]。

侮蔑語としてのタコ

「タコ」は、バカやアホに類する、相手を蔑む悪口にも用いられる[166][167]。この悪口の由来は諸説あり、江戸時代に将軍に謁見できない「御目見以下」である御家人のことを揶揄して旗本の子が「以下」と言ったことに対して、御家人の子が「タコ」と言い返したことから来た、という説明がなされることがある[167][168]。

野球では、安打が打てずに(凡打のみで)、凡退することを「タコ」という[138][166][169][170]。例えば、4打席4打数無安打の場合は「4タコ」と言う[171]。相手ピッチャーの手玉に取られ、骨抜きにされることを骨を持たない「タコ」に喩えたものだとされる[138][171]。

また、悪口、野球用語ともにタコは自分の腕を食べるという逸話に基づくという説もある[171][167]。

京都では「いけ好かない人」を「好かん蛸(すかんたこ)」という[172]。なお同じ語を大阪弁では「スカンタレ」という[172]。

麻雀においても、下手な人を「タコ」という[173][注釈 6]。同様に、自分の順位のことを考えないで和了ることを「タコ和了」、根拠なしにただ要らない牌を切っていくことを「タコツッパ」、考えが全くない副露を「タコ鳴き」という[173]。

その他

風呂に入ったり、酒に酔ったりして赤くなる様子を、茹でて赤くなったタコに喩えて「茹で蛸」と表現する[174][7]。「怒って茹で蛸になる」という表現も用いられる[174]。また、叱責する(される)ことを「蛸釣る(蛸吊る、たこつる)」、「蛸を釣る(章魚を釣る)」という[140][130][175][176][177][76]。これは叱られた者が茹で蛸を吊るしたように赤くなることからと考えられている[140]。兵舎の窓からおでん屋の煮蛸を釣り上げるところを見つかって叱られたことに起因するという談もある[140]。叱責されることを「たこつられた」や「たこ」ともいう[177]。もとは大阪の第四師団管下の兵卒の隠語として発生したといわれる[76]。

また「蛸釣(章魚釣り、たこつり)」は、先端に鉤を付けた竹竿で外から格子窓などを通じて室内の衣類などを盗み出すことを指す[37][139][178]。その犯人のこともいう[179]。似た語に「たこなり」があり、江差では窓から棒を利用して衣類を盗む賊をいう[180]。また持っているものを後ろから盗み取ることを蛸釣(たこつり)ということもある[181]。盗賊が住居に侵入するために使う縄梯子を「蛸」ということもある[182][183]。

大相撲の隠語で、思い上がって天狗になり、周囲の意見に聞く耳を持たなくなることを「タコになる」という[184][185][186][13]。自惚れて得意顔でいるが、他人からは卑しめられていることを「蛸の糞で頭へ上がる(たこのくそであたまへあがる)」という表現を用いる[37][15][58]。これは、タコの胴が頭と誤られていたので、糞が頭の方にあることから[58]。

大根の葉を「蛸巣(たこのす)」という[187]。富山県ではタコノテと呼ばれる[188]。

タコのようになるまで殴ることを俗に「タコ殴り」という[166]。また、痛めつけることを「タコ」といい、「タコにしたろか」などとして用いる[189]。

タコに因んだ生物

タコヒトデ科の1種 Labidiaster annulatus。

タコはまた、その姿に喩えて他の生物の和名にも用いられる。下記のものが挙げられる。

タコノマクラ目の不正形ウニの1種であるタコノマクラ Clypeaster japonicus は、タコが枕にして寝るだろうという想像からの名であるとされる[37]。この名はかつてはヒトデ類を指し、『訓蒙図彙』などに用例がみられる[195]。その後クモヒトデ類やカシパン類を指したが、1883年の『普通動物学』で同属の Clypeaster subdepressus を指す和名として扱われた[195]。それが飯島魁 (1890)『中等教育 動物学教科書』により本種の名に用いられ、標準和名として広まった[195]。

脚注

注釈

  1. ↑ クレタ島イラクリオンにて紀元前1500年の土層より出土。ギリシャ、アテネ国立考古学博物館所蔵。
  2. ↑ 蜛蝫は⿰虫居、⿰虫者
  3. ↑ ヴェルヌの『海底二万里』に登場する頭足類はタコではなくイカだとされることもある[83]。
  4. ↑ 『喜能会之故真通』は一般的には北斎作とされるが、美術史家の間での見解に差異があり、林美一や辻惟雄は、筆致が異なるとして北斎作ではなく、三女のお栄(葛飾応為)か門人渓斎英泉の作であろうという立場を取っている[127][128]。一方で浅野秀剛は画の緩みや弟子任せの箇所があったとしても部分的であり、北斎構想による高い完成度を示した作品であるとしている[129]。
  5. ↑ 英語では rammer[148]及び punner[149] と呼ばれ、日本語でも「ランマー(ランマ[146]・ラマー・ラム)」や「プンナー」とも呼ばれることもある。
  6. ↑ 漫画『ぎゅわんぶらあ自己中心派』でも「日本タコ友の会」が登場する。

出典

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関連項目

  • タコの食文化 - タコを食用とする習慣や料理、およびそれらに関わる歴史・慣習
  • タコ漁 - タコを対象とする漁業や漁法
人物
その他
  • 卍固め(オクトパス・ホールド) - アントニオ猪木の必殺技。タコが絡みつくように固める。
  • 水銀整流器 - 多陽極式水銀整流器は胴部(冷却部)と多足(多陽極)の形状からタコと呼ばれることがある。
  • スカンタコ - 『ドラえもん』のひみつ道具。京言葉の「好かん蛸」から。