ニヴフ語 (ニヴフご)又はギリヤーク語 [ 4] (時にNivkhic 、自称: Нивхгу диф Nivxgu Dif [ɲivxɡu dif] )は、外満洲 、アムグン川 (アムール川 支流)流域、アムール川 (黒竜江)下流域、樺太 北部に住むニヴフ 民族固有の、互いに理解できない2つか3つの言語からなる小さな語族 で、しばしば孤立した言語 とされる[ 5] [ 6] 。アムール語族 (Amuric)[ 7] という呼称もある。便宜上古アジア諸語 に含まれる。ギリヤーク 「Gilyak」とは、Tungusicの「Gileke」とManchu-Chineseの「Gilemi」(Gilyami) [ 要出典 ] から派生した、アムール川 (黒竜江)地域の文化的に類似した人々を指すロシア語の表現であり、主に西洋文学でニヴフを指して使われた[ 8] 。
過去一世紀の間、ニヴフの人口は安定しており、1897年には4549人、1989年には4673人だったが、ニヴフ語を母語とする人の割合は同時期に100%から23.3%に減少し、1989年には第一言語として話す人は1000人強しかいなくなり、2010年の人口調査では200人しか記録されていなかった。
国際連合教育科学文化機関 によって、黒竜江 流域方言は「極めて深刻」樺太 方言は「重大な危険」と分類された危機に瀕する言語 である。
現代語の祖語 のProto-Nivkh(ic)はFortescue(2016)によって再構 された[ 9] 。
言語名別称
ギリヤーク語 - ギリヤークと呼ばれたことがあるためニヴフ語もまたギリヤーク語 と表現された。
ニヴヒ語
言語
2002年のロシア国勢調査による、ニヴフの住む集落(ハバロフスク 、ポロナイスク (敷香町)、ユジノサハリンスク (豊原市)を除く、すべて1%以下)。
ニヴフ語は方言連続体 である。村、氏族、さらには個々の話者によっても、ニヴフ語の語法にはかなりのばらつきがある。方言 は伝統的に4つの地理的クラスタに分類される。これらは、黒竜江下流域方言、北樺太方言(本土と樺太を含むアムール・リマン 周辺の海岸部で話される)、東樺太方言(トゥイミ川 周辺を含む)、南樺太方言(ポロナイ川 周辺で話される)である。これらの方言間の語彙的および音韻論的差異は、専門家がそれらを2つまたは3つの言語に分類するのに十分であるが、すでに分割された小集団の間の言語復興のために、ニヴフ語は一般に、さらなる分割の結果に対する恐れのために、単一言語として提示される。Gruzdeva(1998)は、東樺太とアムール川下流域の話者は互いに理解できないと指摘し、方言をNivkh proper (低アムール、樺太北部、海峡と西樺太方言を含む)とNighvng (東樺太と南樺太の2方言)に分けている。Fortescue(2016)[ 16] では、アムール、東樺太、南樺太の各方言は互いに理解度が低く、それぞれが別々の言語を構成していると考えている。
歴史
ニヴフ の人々は、樺太 とアムール川 (黒竜江)流域に何千年もの間住んでいる。17世紀にロシア人と接触するまで、近隣のアイヌ 、日本人 、中国人 との交易を続けていた[ 17] 。ニヴフの数が初めて記録的に減少したのは19世紀で、公式には1856年から1889年と推定されているが、これは天然痘の流行と、ロシアが1873年に流刑囚の樺太への集団移送を開始したことによる樺太の囚人数の増加と一致している。この時点では、ニヴフがロシア語を話すことはほとんどなかったと伝えられている[ 18] 。
革命中および革命後のロシアは、ニヴフ語に大きな変化をもたらした。1920年代には、ロシアはこの地域で長年にわたるゲリラ戦を展開し、1925年に樺太北部がソビエトに譲渡された。この地域の資源が枯渇し、病気が蔓延し、暴力はニヴフの死につながった。その後、スターリンの集団化政策は先住民族の経済に強要され[ 18] 、多くの場合、ニヴフ語の個人を雇用するように駆り立て、伝統的な自給自足の生活手段からの脱却を示した[ 17] 。ニヴフの多くは、中央集権化の過程で、広範囲に広がった居住地から小都市ノグリキ への強制移住を強いられた。自給自足、食生活、住居、教育の変化の結果として、伝統的なニヴフの生活様式は、徐々に、時には強制的にソビエトの生活様式に変えられた。
文法
語順 はSOV型 、膠着語 で、文法 には日本語 と似た点もある。記録された方言や時代によって異なる点も多いが、およそ次のような特徴がある:
閉音節語で、子音 の頻度が比較的高い(例えば民族自称N'ivhgn)。
名詞 の格 の表示には助詞 のような接尾辞 を用い(主格・対格・所有格は無語尾)、動詞 も主に語尾変化により活用する。規定する語と規定される語が接続する(例えば名詞+接尾辞、所有者+被所有物、直接目的語+動詞)ときに、後続の規定される語の語頭の子音 が変化することがある(これを抱合語 的性質ととらえる説もある)。また自動詞と他動詞の対応にも同じような語頭子音交替 が使われる。
性 はないが、数詞 に多数の種類がある(日本語の助数詞 に相当)。人称 ・数 による動詞の語尾変化は一部(2・3人称単数の連用形など)にのみある。
ニヴフ語は膠着語で総合的言語である。他の文法的な標識と同様に発達した格システムを持っているが、文法性はない。ニヴフ語の基本的な語順は、主語-目的語-動詞 であり、主語は口語中でしばしば省略される。ニヴフ語は、語間で高度な抱合が起こる点で注目に値する。例えば、空間的関係を表現する形態素(他の多くの言語における前置詞または後置詞)は、関連する名詞に抱合されている[ 19] 。語は簡単に定義可能な語根と、そのほとんどは接尾辞である生産的な文法的形態素から構成される。ニヴフ語には形容詞がなく、存在の状態を表す動詞がある。動詞の時制には「非未来」と「未来」の2つがある。非未来形は、時間枠を示すために、文脈だけでなく副詞とも組み合わせることができる[ 20] 。
ロシア語が生活のあらゆる分野で支配的な言語となったため、ニヴフ語の文法は前世紀に変化した。例えば、ニヴフ語は最近、名詞とペアを数える際に複数形を標示するようになったが、これはロシア語の文法規則に由来する変化である。しかしながら、2つの言語の文法的構造が大きく異なるため、文法的干渉はそれほど大きくないと仮定されてきた。しかし、ロシア語の構造を借りて簡略化したものもある。言語の不使用と文化の変化のために、ニヴフ語の複雑な形態論的側面の多くは単純化されているか、使用されなくなっている[ 21] 。廃用(obsolescence)と呼ばれるプロセスでは、そりを数えるための形態素と網を数えるための形態素の区別などがなくなり、話者はより一般的なカテゴリの数やその他の記述子を使うようになった[ 22] 。
表記
ソ連 領内では1930年代にローマ字 表記法が制定されたが、まもなく政策によりキリル文字 に変更された。近年は母語 話者が急激に減少し(1989年時点で23.3%とされる)危機に瀕している。
ニヴフの一部は、太平洋戦争 後、樺太 から北海道 などに日本人として移住してきた者が若干存在するが、現在の日本国内で、ニヴフ語の話者コミュニティーは存在しないものと思われる。
これらのうち Ӷ ӷ、Ў ў、Ч’ ч’ はアムール方言のニヴフ語では使用しない文字。
ニヴフ語の正書法[ 23]
文字
音素
А а
/æ/
б б
/b/
В в
/v/
Г г
/ɡ/
Ӷ ӷ
/ɢ/
Ғ ғ
/ɣ/
Ӻ ӻ
/ʁ/
Д д
/d/
Е е
/ɪe/
Ё ё
/jo/ [ 注釈 1]
Ж ж
/ɟ/
З з
/z/
И и
/i/
Й й
/ɪ/
К к
/k/
Кʼ кʼ
/kʰ/
Ӄ ӄ
/q/
Ӄʼ ӄʼ
/qʰ/
Л л
/l/
М м
/m/
Н н
/n/
Ӈ ӈ
/ŋ/
О о
/o/
П п
/p/
Пʼ пʼ
/pʰ/
Р р
/r/
Р̌ р̌
/r̥/
С с
/s/
Т т
/t/
Тʼ тʼ
/tʰ/
У у
/u/
Ф ф
/f/
Х х
/x/
Ӽ ӽ
/χ/
Ӿ ӿ
/h/
Ц ц
/t͡s/
Ч ч
/t͡ʃ/
Чʼ чʼ
/t͡ʃʰ/
Ш ш
/ʃ/
Щ щ
/ʃt͡ʃ/ [ 注釈 1]
Ъ ъ
/ʔ/
Ы ы
/ə/
Ь ь
/j/ [ 注釈 1]
Э э
/ɤ/
Ю ю
/ju/
Я я
/jæ/
音韻
子音
唇摩擦音は弱く明瞭に発音され、両唇音 [ɸ, β] と唇歯音 [f, v] の両方として記述されている。口蓋破裂音は[tʃʰ, tʃ] のように、ある程度の破擦音を伴うことがある[ 24] 。鼻音または/l/ の後、無気破裂音は、有声化して[b, d, ɟ, ɡ, ɢ] と発音される。子音交替とは異なり、これは形態素内でも起こる。アムール方言では、単語の最後にある鼻音の一部が削除されるため、単語の最初でも無声化する。
ニヴフの軟口蓋摩擦音と口蓋垂摩擦音の音素 の区別([ɣ] 対[ʁ] と[x] 対[χ] )は、世界の言語の中ではまれである。これらの音は多くの言語で発生するが、通常は交換可能 である[ 要出典 ] 。
ケルト諸語 とは異なり、ニヴフ語の子音交替 は形態素 頭の破裂音(閉鎖音)と摩擦音・ふるえ音の間に起こる[ 24] 。
有気↔無声
無気↔有声
閉鎖音
pʰ
tʰ
cʰ
kʰ
qʰ
p
t
c
k
q
継続音
f
r̥
s
x
χ
v
r
z
ɣ
ʁ
これは同じ句 内で、ある形態素の前に別の形態素(接頭辞 や付加詞 など)がある場合に起こる。ただし、前の形態素がそれ自体で摩擦音、ふるえ音や鼻音や/l/で終わっている場合は除く。
/p əŋx/ 'スープ'
/pənraj‿v əŋx/ '鴨のスープ'
/amsp‿v əŋx/ 'アザラシのスープの類'
/cxəf‿p əŋx/ 'クマのスープ'
影響を受けるのは形態素の最初の位置のみで、破裂音で終わる他のクラスタは形態素内でも可能である(例:/utku/ "人")。
いくつかの他動詞 では、この過程は明らかに逆方向に進むことが知られている(同じ分布で、破裂音となる摩擦音/ふるえ音)。これは、別個のプロセスをとってきたが、基本的には同じであるとも説明されており、これらの動詞の引用形式には、以前はi-接頭辞(規則的な子音交替を引き起こす他の動詞に引用される形でまだ残っている)があったために許された破裂音が含まれている。名詞の最初の摩擦音は変化しない[ 24] 。
母音
ニヴフの母音体系はイアン・マディソン が「欠陥がある(defective)」と表現したように特異なもので、実際には母音を移動させて母音空間 の前部中央領域の間隙を補償する回転システムである。中央の/ɤ/ は、通常の前舌中央母音の欠如によって生じるギャップを補完するものとして、Maddieson(1984)によって記述されている。
5母音体系で想定されていた前舌中央母音は、これまでは/ɪe/ としてMaddiesonの言語の記述で表されていた、狭から中央に近い非円唇前舌二重母音に発展した可能性がある。
強勢
強勢はどの音節にも起こりうるが、最初の音節に集中する傾向がある。方言的な変動があり、強勢によって区別される最小対 はまれであるように思われる[ 25] 。
ニヴフ語から日本語に入ったとされる単語
保恵駅 :旧国鉄樺太東線の駅名。「鮭の川」を意味する「ホ・イ」、または「イトウのいる川」を意味する「ホイ・イ」に由来[ 26] 。
千輪駅 :旧国鉄樺太東線の駅名。「新しい川」を意味する「チェルンゲイ」に由来[ 26] 。
亜屯駅 :旧国鉄樺太東線の駅名。「下の川」を意味する「アトンギー」に由来[ 27] 。
気屯駅 :旧国鉄樺太東線の駅名。「上の川」を意味する「ケトンギー」に由来[ 27] 。
古屯駅 :旧国鉄樺太東線の駅名。「街」を意味する「コトン」に由来[ 27] 。
参考文献
から作成した。
日本語
中目覚 (1917)『ニクブン文典』三省堂.
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服部健 (2000) 『服部健著作集 ― ギリヤーク研究論集』北海道出版企画センター
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日本語以外の言語
音韻
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文法
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Gruzdeva, E.J. 1997. Nivxskij jazyk[ニヴフ語]. In A.P. Volodin (ed.), Jazyki mira: paleoaziatskie jazyki, 139-154. Moscow: Indrik.
辞書
Savel’eva, V. and C. Taksami. (1965) Russko-nivkhskij slovar’ [ロシア語・ニヴフ語辞典]. Moskva: Sovetskaja entsiklopedija.
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Saveleva, Valentina N. and Taksami, Cuner M. 1965. Russko-nivchskij slovar': 17300 slov[ロシア語・ニヴフ語辞典:17300語]. Moskva: Izdat. Sovetskaja Enciklopedija. 479pp.
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比較言語学
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脚注
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1 2 3 南樺太:概要・地名解・史実(西村いわお・著、高速印刷センター内出版部 1994年)p.437
1 2 3 南樺太:概要・地名解・史実(西村いわお・著、高速印刷センター内出版部 1994年)p.438
関連資料
Gruzdeva, Ekaterina. 1998. Nivkh , Lincom Europa, Munich, ISBN 3-89586-039-5
Maddieson, Ian. 1984. Patterns of sounds , Cambridge University Press , ISBN 0-521-26536-3
Mattissen, Johanna. 2003. Dependent Head Synthesis in Nivkh: A Contribution to a Typology of Polysynthesis , John Benjamins, Amsterdam, Philadelphia, ISBN 1-58811-476-7
Nedialkov, Vladimir P., Otaina, Galina A. 2013. A Syntax of the Nivkh Language: the Amur dialect, Amsterdam ; Philadelphia : John Benjamins Pub. Company, [2013],
丹菊逸治. 2008. ニヴフ語サハリン方言基礎語彙集 (ノグリキ周辺地域).(TUFS) / 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所.
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