HondaJet
HondaJet(ホンダジェット)は、本田技研工業の航空事業会社であるホンダ エアクラフト カンパニー(HACI)が研究開発、製造販売をする小型ビジネスジェット機である。2022年2月現在 世界で約200機以上が運用されている[1]。小型ジェット機カテゴリーにおける出荷数で2017年から5年連続で世界一を達成している[2][3]。
HondaJet開発責任者で設計者の藤野道格が1997年のある夜、眠りにつこうとした時にHondaJetのコンセプトが閃いたという。その場にノートがなかったため、部屋にあったカレンダーを破り、その裏に最初のスケッチを描いたと述べている[4]。ノーズ部の設計には、「ハワイで見たフェラガモのハイヒールから得たイメージを生かした」、「先端形状で美しいものを見ていった時に目にとまり、応用できないかなと思った」と藤野は語っている[5]。
主翼上面エンジン配置形態の特性試験を行うため、ボーイング社に設備を借りたという。その際に「ホンダは何であんなところにエンジンを付けているんだ」とボーイングのメンバーに陰口を叩かれたが、試験で空力的に優れているという結果が出てくると「あいつらすごいことをやっている」と言われ始めた[6][7]。
なお、ホンダの創業者である本田宗一郎には本田技術研究所で1986年に開始された小型航空機の開発プロジェクトについて、1991年まで存命だったが知らされることはなかった。当時、宗一郎は会社をすでに引退していたが航空機に強烈な情熱を持ち続けており、もしホンダが航空機プロジェクトに着手していると知れば、会社に戻ることを抑えられなくなるため、秘密にしておかなければならないとされていたという[8]。



主翼上面のエンジン配置(Over-The-Wing Engine Mount)形態や自然層流翼型(Natural Laminar Flow)、一体成型複合材胴体などのHonda独自開発技術により、クラス最高水準の最高速度、最大運用高度、上昇性能、燃費性能、静粛性および室内サイズを実現。エンジンはGE・ホンダ・エアロ・エンジンが開発・製造したHF120を搭載している。主翼の上にエンジンを搭載した世界的にも珍しいデザインや、空気抵抗を低減する先進的な空力技術などにより、従来のビジネスジェット機に比べ、燃費性能を約17%、速度を約10%、客室容積を約30%改善。操作性や静粛性などにも優れている。超軽量ジェット機としては比較的低価格な490万ドルをベースプライスとしている[9]。
乗員を含む最大7人乗りで、全長約13m、幅約12m、高さは約4.5m。最大運用高度は13,106m (43,000ft)、最大巡航速度は約782 km/h (422 knots)で、航続距離は2,265 km(1,223 nm)。カラーバリエーションはレッド、ブルー、グリーン、イエロー、シルバーの全5色。2007年(平成19年)にはグッドデザイン賞金賞を受賞するなど、デザインの美しさも高評価されている。また、2017年(平成29年)には、米国Flying誌(英語版)のFlying Innovation Awardを受賞している。
2015年(平成27年)12月に連邦航空局(Federal Aviation Administration -FAA)から型式証明を取得した後、北アメリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、東南アジア、中国およびインドに販売サービスネットワークを拡大。
2017年(平成29年)通年の出荷機数は43機であり、同年の軽量小型ビジネスジェット機の出荷量ではセスナの主力機サイテーションM2の39機を抜いて世界No.1を達成し[10]、2018年(平成30年)に37機、2019年(平成31年/令和元年)には36機、2020年(令和2年)には31機を出荷し、4年連続でカテゴリー最高の出荷機数を達成した[2][11][12]。2017年(平成29年)8月時点で月産4機の体制であり、2019年(平成31年)3月期末までに月産7機程度にまで生産能力を拡大させ納期を短縮させる予定である[13]。
2018年(平成30年)本田技研工業がHondaJetとONE OK ROCKのChangeをタイアップさせた企業CMを製作し、2018年上半期にYouTube上で最も再生された広告(約2200万回)になるなど話題となった[14][15][16]。
2018年(平成30年)、改良版のEliteをラインナップに追加。カラーバリエーションにアイスブルー(Ice Blue)/ルビーレッド(Ruby Red)/マナークオレンジ(Monarch Orange)を追加、航続距離を約17%(2,265 km+396 km=2,661 km)延長、高周波のエンジンノイズ低減により客室内の静粛性をさらに向上、そしてアビオニクスシステムの進化により、離着陸時および飛行時の安定性や安全性などの面でもその機能をさらに強化した[17]。
同年4月にFAA、5月に欧州航空安全機関(European Aviation Safety Agency -EASA)の型式証明を取得。日本においても5月17日、国土交通省航空局に型式証明の申請を行い、12月7日取得した[18][19]。
同年7月6日には日本での販売を発表[20]、国内販売代理店は丸紅の子会社である丸紅エアロスペースが行う[21]。日本国内ではビジネスジェットの市場は非常に小さく、そのほとんどが公用機であるが、今後HACIが市場を作り拡大を目指すとしている。12月20日には千葉功太郎、堀江貴文、山岸広太郎が共同所有する初号機(JA01JP)の引き渡しが行われた[22]。
2019年(令和元年)10月21日、救急医療搬送用のメデバック仕様がハワイのWing Spirit社が所有するHondaJet Eliteに初めて導入されたと発表[23]。また、映画俳優のトム・クルーズがカスタムペイントのHondaJetを所有して自ら操縦していることも明らかにされた[24]。
同年10月29日に自動車の技術開発や販売などで本田技研工業と競合しているトヨタ自動車の系列会社「朝日航洋」がHondaJet Eliteの所有権を取得した事が明らかとなった。2020年春頃からトヨタ自動車役員の移動用として登録記号「JA86GR」で使用する方針だとしている[25]。
2021年(令和3年)、改良版のElite Sをラインナップに追加。カラーバリエーションにガンメタル/ラックスゴールド/ディープシーブルーを追加、航続距離を約222km延長、アビオニクスシステムのアップグレードとして無線通信をテキストメッセージで行うFAA Data CommとACARS、およびパイロットの地上操縦時の負荷を軽減するASASシステムを導入し、パイロットの負荷を軽減し、機体運用の安全性を向上させた[26]。
2022年(令和4年)10月17日、HACIより発表された。燃料タンクの拡張、最大離陸重量増加によって従来機(Elite S)より204km伸び2,865kmとなる。グランドスポイラーを主翼に初搭載、オートスロットル機能(2023年前半)、緊急着陸装置(2023年後半)にそれぞれ導入される。特別色としてBlack Editionが機体色に設定され、内装には2種類のインテリアデザイン(スチール・オニキス)、木目調の床材、コックピットの羊毛シートカバーなどのオプションが追加される[27]。
2024年(令和3年)10月28日 、HondaJet Elite IIに搭載されたオートスロットル機能が、アメリカ連邦航空局(FAA)より認証を取得した[28]。
2021年(令和3年)10月12日、ナショナル ビジネス アビエーション アソシエーション(NBAA)にて発表された。この段階では「HondaJet 2600 Concept」という名称のコンセプト機で、「2600」は航続距離が2,625 nm(4,862 km)であることに由来し、アメリカ大陸横断ルートを無着陸で飛行可能となる[29]。
全長17.62m、翼幅17.29m、全高4.84mに拡大され、それに伴って客室容積も拡大して最大11人乗り(乗員含む)となり、また貨物室容積も従来のHondaJetと比較して大幅に拡大されている。その他にも、最大運用高度は47,000ft(約14,326m)、最大巡航速度は450KTAS(約834km/h)まで向上し、同クラス帯の「ライトジェット機」に対して20%以上、さらに上のクラスである「中型ジェット機」クラスの機体に対して40%以上の燃費向上を目指すとしている。アビオニクスシステムには、新たにオートスロットルやオートブレーキなどの機能を搭載し、パイロットの負荷軽減と安全性の向上を図る[29][30]。
2023年(令和5年)6月13日、正式な商用化と2028年頃の発売を目標に開発を進める方針を明らかにした。エンジンにはGEホンダではなくウィリアムズ FJ44-4Cを採用する[31]。同年10月、正式名称が「HondaJet Echelon」となることが発表された[32]。

エンジンは、ホンダ社が独自開発した小型のターボファンエンジン HF118を基本にGE・ホンダ・エアロ・エンジン社が開発・製造したHF120を搭載する。大手航空機メーカーのボーイング、エアバス、ボンバルディア、ロッキードマーティンなどはGE、P&W、ロールス・ロイスPLCのジェットエンジンを使用しており、エンジンまで自社製なのは世界的にも珍しい。HF120エンジンは、米スペクトラム・エアロノーティカル社が開発中の10席級のビジネスジェット機である「S-40 フリーダム」にも採用される予定とされたが、S-40は開発が事実上中断している。
騒音基準と排気ガスに関する環境基準については、ICAOのチャプター4をクリアする。TBO(Time Between Overhaul, オーバーホール間隔)は5,000時間と長めに設定されている。離陸時推力は機体未装着エンジン単体で9.32 kN (2,095 lbf) で[49]、HondaJetの機体装着時は8.36 kN (1,880 lbf) となる[50]。
この新開発の低燃費ターボファンの搭載と、機体形状の工夫による抗力減少によって、HondaJetは従来機に比べ燃費が約40 %向上したとHondaは発表している。
エンジンポッドは胴体寄りの主翼上面に、パイロンを介して数十cmのクリアランスをとって配置されている。パイロンには後退角が付けられ、後部は内側(胴体側)に曲げられた独特の形状となっている。
アビオニクスとしてはガーミンの「G3000」を基に開発した専用システムが採用された[注釈 1][51]。3台の14インチ高解像度ディスプレイと2台のタッチスクリーンコントローラーを備えたグラスコックピットによりパイロットが必要な情報を明確に表示し、あらゆる操作を容易に行うことができるよう配慮されている。
操縦桿は一般的な山型の両手持ちタイプである。
通常は2名運航であるが、オートパイロットを搭載しておりオーナーによるシングルパイロット運航も可能である。
Eliteにはさらに飛行計画の自動作成に対応したフライトマネジメントシステムや、センサーからの情報を統合し最適な離着陸距離を指示するなど、運航を補助する機能が追加される。またオプションとして飛行時の安全性を強化するシステムが用意される[52]
| モデル | HondaJet[53][54] | HondaJet Elite[53][55] | HondaJet Elite[56] | HondaJet Echelon(開発計画値)[57] | |
|---|---|---|---|---|---|
| 外形寸法 | 全長 | 12.99 m (42.62 ft) | 17.62 m (57.79 ft) | ||
| 全幅(翼幅) | 12.12 m (39.76 ft) | 17.29 m (56.72 ft) | |||
| 全高 | 4.54 m (14.90 ft) | 4.84 m (15.86 ft) | |||
| 機内寸法 | 長さ | 5.43 m (17.80 ft) | 7.74 m (25.38 ft) | ||
| 幅 | 1.52 m (5.00 ft) | 1.55 m (5.08 ft) | |||
| 高さ | 1.47 m (4.83 ft) | 1.59 m (5.21 ft) | |||
| 重量 | 最大離陸重量 | 4,808 kg (10,600 lb) | 4,853 kg (10,700 lb) | 5,035 kg (11,100 lb) | 7,938 kg (17,550 lb) |
| 性能 | 最大巡航速度[注 1] | 782 km/h (422 KTAS[注 2]) | 834 km/h (450 KTAS[注 3]) | ||
| 最大巡航高度 | 13,106 m (43,000 ft) | 14,326 m (47,000 ft) | |||
| 航続距離[注 4] | 2,265 km (1,223 nm) | 2,661 km (1,437 nm) | 2,865 km (1,547 nm) | 4,862 km (2,625 nm) | |
| 上昇率 | 1,216 m/分 (3,990 ft/分) | 1,250 m/分 (4,100 ft/分) | |||
| 離陸距離 | 1,219 m (4,000 ft) | 1,128 m (3,699 ft) | 1,006 m (3,300 ft) | ||
| 着陸距離 | 930 m (3,050 ft) | 829 m (2,717 ft) | 777 m (2,550 ft) | ||
| エンジン | 製造会社/モデル | GE・ホンダ・エアロ・エンジン / HF120 | ウィリアムズ・インターナショナル / FJ44-4C | ||
| 推力 | 9,119 N (2,050 lbf) x 2基 | 3,450 lbf x 2基 | |||
| 最大定員 | 乗員1名 + 乗客6名 乗員2名 + 乗客5名 |
乗員1名 + 乗客10名 乗員2名 + 乗客9名 | |||
HondaJetで採用されている主翼上面エンジン配置が航空機の新しい形態を切り拓いたとして、設計・開発責任者である藤野道格は、米国航空宇宙学会(AIAA)より「AIAA 航空機設計賞」 (2012年)[37]、米国の学術団体 SAE Internationalより「ケリー・ジョンソン航空宇宙機設計開発賞」(2014年)[38]、国際航空科学会議(ICAS)より「航空工学イノベーション賞」(2014年)[58]を受賞した。これらの3賞を同一人物が受賞したのは世界初[37][38][59]。
| 日付 | 飛行区間 | 記録 |
|---|---|---|
| 4.09.2016 | Teterboro, NJ to Fort Lauderdale, FL | 478 mph(約770km/h) |
| 7.19.2016 | Bedford, MA to West Palm Beach, FL | 486 mph(約780km/h) |
| 4.19.2017 | Miami, FL to Panama City, Panama | 369.11 mph(約594km/h) |
| 5.04.2017 | Greensboro, NC to Dallas, Texas | 338.65 mph(約545km/h) |
| 5.04.2017 | Dallas, Texas to Phoenix, AZ | 366.61 mph(約590km/h) |
| 5.19.2017 | London, UK to Geneva, Switzerland | 322.24 mph(約519km/h) |
| 5.24.2017 | Geneva, Switzerland to London, UK | 281.91 mph(約454km/h) |
| 8.10.2017 | Pensacola, FL to Greensboro, NC | 385.25 mph(約620km/h) |
| 8.10.2017 | Keflavik, Iceland to Shannon, Ireland | 388.36 mph(約617km/h) |
| 8.20.2017 | Curitiba, Brazil to Golania, Brazil | 325.19 mph(約523km/h) |
| 8.27.2017 | Buenos Aires, Argentina to Santiago, Chile | 306.33 mph(約493km/h) |
| 9.02.2017 | Amman, Jordan to Dubai, UAE | 356 mph(約573km/h) |
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