日本の世界遺産
日本の世界遺産
日本の世界遺産(にっぽんのせかいいさん、にほんのせかいいさん)はユネスコに27件登録されており、文化遺産が22件、自然遺産が5件である。
文化遺産
[編集]| 画像 | ID | 登録名 | 登録年 | 所在地 | 登録基準 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 660 | 法隆寺地域の仏教建造物 | 1993年 | 奈良県 | (1), (2), (4), (6) | ||
| 661 | 姫路城 | 1993年 | 兵庫県 | (1), (4) | ||
| 688 | 古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市) | 1994年 | 京都府 滋賀県 | (2), (4) | ||
| 734 | 白川郷・五箇山の合掌造り集落 | 1995年 | 岐阜県 富山県 | (4), (5) | ||
| 775 | 原爆ドーム | 1996年 | 広島県 | (6) | 負の世界遺産と言われることもある。 | |
| 776 | 厳島神社 | 1996年 | 広島県 | (1), (2), (4), (6) | ||
| 870 | 古都奈良の文化財 | 1998年 | 奈良県 | (2), (3), (4), (6) | ||
| 913 | 日光の社寺 | 1999年 | 栃木県 | (1), (4), (6) | ||
| 972 | 琉球王国のグスク及び関連遺産群 | 2000年 | 沖縄県 | (2), (3), (6) | ||
| 1142 | 紀伊山地の霊場と参詣道 | 2004年 | 和歌山県 奈良県 三重県 | (2), (3), (4), (6) | 文化的景観 2016年に軽微な変更 | |
| 1246 | 石見銀山遺跡とその文化的景観 | 2007年 | 島根県 | (2), (3), (5) | 文化的景観 産業遺産 2010年に軽微な変更 | |
| 1277 | 平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群― | 2011年 | 岩手県 | (2), (6) | ||
| 1418 | 富士山―信仰の対象と芸術の源泉 | 2013年 | 静岡県 山梨県 | (3), (6) | ||
| 1449 | 富岡製糸場と絹産業遺産群 | 2014年 | 群馬県 | (2), (4) | 産業遺産 近代化遺産 | |
| 1484 | 明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業 | 2015年 | 山口県 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 鹿児島県 岩手県 静岡県 | (2), (4) | 産業遺産 近代化遺産 稼働遺産 | |
| 1321 | ル・コルビュジエの建築作品-近代建築運動への顕著な貢献- | 2016年 | 東京都 | (1), (2), (6) | 現代建築 国境を越える世界遺産 | |
| 1535 | 「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群 | 2017年 | 福岡県 | (2), (3) | ||
| 1495 | 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産 | 2018年 | 長崎県 熊本県 | (3) | ||
| 1593 | 百舌鳥・古市古墳群 -古代日本の墳墓群- | 2019年 | 大阪府 | (3), (4) | ||
| 1632 | 北海道・北東北の縄文遺跡群 | 2021年 | 北海道 青森県 岩手県 秋田県 | (3), (5) | ||
| 1698 | 2024年 | 新潟県 | (4) | 産業遺産 | ||
| 1757 | 飛鳥・藤原の宮都 | 2026年 | 奈良県 | (2), (3) |
自然遺産
[編集]| 画像 | ID | 登録名 | 登録年 | 所在地 | 登録基準 | 保護管理 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 662 | 屋久島 | 1993年 | 鹿児島県 | (7), (9) | 屋久島国立公園 屋久島原生自然環境保全地域 | |
| 663 | 白神山地 | 1993年 | 青森県 秋田県 | (9) | 白神山地自然環境保全地域 | |
| 1193 | 知床 | 2005年 | 北海道 | (9), (10) | 知床国立公園 遠音別岳原生自然環境保全地域 | |
| 1362 | 小笠原諸島 | 2011年 | 東京都 | (9) | 小笠原国立公園 南硫黄島原生自然環境保全地域 | |
| 1574 | 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島 | 2021年 | 鹿児島県 沖縄県 | (10) | 生物多様性保全地域 奄美群島国立公園 やんばる国立公園 西表石垣国立公園 自然環境保全地域(崎山湾・網取湾) |
複合遺産
[編集]まだ、日本には自然遺産かつ文化遺産の特徴を持つ遺産は存在していない。
危機遺産
[編集]なし
地域別
[編集]現在、47都道府県中28都道府県(北海道、青森県、岩手県、秋田県、栃木県、群馬県、東京都、新潟県、富山県、山梨県、岐阜県、静岡県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、島根県、広島県、山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、鹿児島県、沖縄県)に世界遺産がある。
分布図
[編集]
北海道
[編集]東北地方
[編集]関東地方
[編集]中部地方
[編集]近畿地方
[編集]- 法隆寺地域の仏教建造物(奈良県生駒郡斑鳩町)(1993年12月登録)
- 姫路城(兵庫県姫路市)(1993年12月登録)
- 古都京都の文化財(京都府京都市、宇治市、滋賀県大津市)(1994年12月登録)
- 古都奈良の文化財(奈良県奈良市)(1998年12月登録)
- 紀伊山地の霊場と参詣道(奈良県五條市、吉野郡吉野町、天川村、黒滝村、野迫川村、十津川村、下北山村、上北山村、川上村、和歌山県新宮市、田辺市、橋本市、東牟婁郡那智勝浦町、串本町、伊都郡高野町、九度山町、かつらぎ町、西牟婁郡白浜町、すさみ町、上富田町、三重県尾鷲市、熊野市、南牟婁郡御浜町、紀宝町、北牟婁郡紀北町、度会郡大紀町)(2004年7月・2016年10月登録)
- 百舌鳥・古市古墳群 -古代日本の墳墓群-(大阪府堺市、羽曳野市、藤井寺市)(2019年7月登録)
- 飛鳥・藤原の宮都(奈良県明日香村、橿原市、桜井市)(2026年7月登録)
中国地方
[編集]四国地方
[編集]なし
九州・沖縄地方
[編集]- 屋久島(鹿児島県熊毛郡屋久島町)(1993年12月登録)
- 琉球王国のグスク及び関連遺産群(沖縄県那覇市、うるま市、南城市、国頭郡今帰仁村、中頭郡読谷村、北中城村、中城村)(2000年11月登録)
- 明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業(鹿児島県鹿児島市、佐賀県佐賀市、長崎県長崎市、福岡県北九州市、大牟田市、中間市、熊本県荒尾市、宇城市)(2015年7月登録)
- 「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群(福岡県宗像市、福津市)(2017年7月登録)
- 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産(長崎県長崎市、佐世保市、平戸市、南島原市、五島市、北松浦郡小値賀町、南松浦郡新上五島町、熊本県天草市)(2018年6月登録)
- 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(鹿児島県奄美市、大島郡宇検村、大和村 、瀬戸内町、徳之島町、天城町、伊仙町、沖縄県国頭郡 国頭村、大宜味村、東村、八重山郡竹富町)(2021年7月登録)
暫定リスト掲載物件
[編集]日本政府は、登録の前提となる暫定リストに文化遺産3件をリファレンスナンバー(Ref No.[注 2])順に掲載している[3]。英語名は世界遺産センターの暫定リスト[3]、日本語名は文化遺産については文化遺産オンライン[2]による。
文化遺産の候補
[編集]| 画像 | 日本語名 (リスト記載名・英語) | 記載年月 Ref No. | 備考 |
|---|---|---|---|
| 古都鎌倉の神社・寺院ほか | 1992年10月 Ref No.370 | 「武家の古都・鎌倉」として2012年に推薦されたが、翌年、第37回世界遺産委員会での審議前に「不登録」勧告が出されたため推薦を取り下げた。勧告内容を是正するためのコンセプト修正には相当な時間を要するため、2019年11月に神奈川県と鎌倉市・横浜市・逗子市が文化庁に提出する推薦書(原案)の作成活動を同年度限りで休止すると発表した。規模は縮小するが基礎研究と文化財調査および整備事業は継続され、世界遺産登録は諦めない方針も明らかにされた[4]。 | |
| Temples, Shrines and other structures of Ancient Kamakura | |||
| 彦根城 | 1992年10月 Ref No.374 | 姫路城や法隆寺とともに日本で最初の暫定リスト掲載物件となって以来、四半世紀以上を経て、2020年に初めて推薦書原案を文化庁に提案し、以後2021年・2022年と毎年原案を提案するも候補には選ばれず。2023年に同年から運用が始まった事前評価制度を利用する方針を示し、ユネスコへ申請[5]。翌年、事前評価の結果が公表され、一定の評価は得られたが、単独ではなく類似する国宝木造天守と連携するシリアルノミネーションが望ましいとの指摘も受けた[6]。2026年になりようやく推薦が認められ、9月30日に暫定版推薦書をユネスコへ提出。順当に手続きが進めば2027年に諮問機関による現地調査を経て、2028年の世界遺産委員会での審議で登録の可否が決まる予定。 | |
| Hikone-Jo(castle) | |||
| 平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―(拡張) | 2012年9月 Ref No.5760 | 2008年の「登録延期」決議で除外された柳之御所遺跡・達谷窟・白鳥舘遺跡・長者ヶ原廃寺跡・骨寺村荘園遺跡(一関本寺の農村景観)の拡大登録を目指してきたが、現時点で「仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」を証明できるのは柳之御所遺跡だけとし、発掘調査で得られた知見も含めた提案をまとめたが、文化審議会は柳之御所の居館あるいは政庁である性格付けを明らかにすることや中尊寺との一体性の主張のより具体的な説明を求めた[7]。 | |
| Hiraizumi - Temples, Gardens and Archaeological Sites Representing the Buddhist Pure Land(extension) |
自然遺産の候補
[編集]なし
複合遺産の候補
[編集]なし
暫定リストへの過去の提案
[編集]文化遺産推薦に向けた公募
[編集]文化庁は2006年と2007年に文化遺産候補を全国から公募した。その中には「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」、「「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群」、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」、「佐渡島の金山」、「飛鳥・藤原の宮都」のように、すでに世界遺産に登録されているものもある。また、「萩-日本の近世社会を切り拓いた城下町の顕著な都市遺産」は「萩城下町」として「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」に組み込まれて世界遺産に登録されている。その一方で、暫定リスト入りを果たしていない提案も以下のように多く残っている(カッコ内の年は最初に提案された年)[8][9]。以下の提案は文化審議会によって評価や課題が示されている[10]。
なお、「飛騨高山の町並みと祭礼の場-伝統的な町並みと屋台祭礼の文化的景観-」の無形文化財の要素については、無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」の構成資産となった。また、ユネスコの遺産事業とは異なるが、日本遺産に組み込まれた例に四国霊場や足利学校および「水戸藩の学問・教育遺産群」と「近世岡山の文化・土木遺産群」の構成資産候補から弘道館・閑谷学校の指定があり[注 3]、阿蘇は世界ジオパークおよび世界農業遺産、宇佐・国東は世界農業遺産、松島は世界で最も美しい湾クラブに登録されるなど、異なる枠組みで評価されている要素を含む物件もある。
- 北海道東部の窪みで残る大規模竪穴住居跡群(北海道、2007年)[注 4]
- 最上川の文化的景観-舟運と水が育んだ農と祈り、豊饒な大地-(山形県、2006年)[注 5]
- 松島-貝塚群に見る縄文の原風景(宮城県、2007年)[注 6]
- 水戸藩の学問・教育遺産群(茨城県、2007年)
- 足尾銅山-日本の近代化・産業化と公害対策の起点-(栃木県、2007年)
- 足利学校と足利氏の遺産(栃木県、2007年)
- 埼玉古墳群-古代東アジア古墳文化の終着点-(埼玉県、2007年)
- 近世高岡の文化遺産群(富山県、2006年)
- 立山・黒部〜防災大国日本のモデル-信仰・砂防・発電-〜(富山県、2007年)
- 城下町金沢の文化遺産群と文化的景観(石川県、2006年)
- 霊峰白山と山麓の文化的景観-自然・生業・信仰-(石川県・福井県・岐阜県、2006年)
- 若狭の社寺建造物群と文化的景観-神仏習合を基調とした中世景観(福井県、2006年)
- 日本製糸業近代化遺産〜日本の近代化をリードし、世界に羽ばたいた糸都岡谷の製糸資産〜(長野県、2007年)
- 善光寺と門前町(長野県、2006年)
- 松本城(長野県、2006年)
- 妻籠宿・馬籠宿と中山道-『夜明け前』の世界-(長野県・岐阜県、2006年)
- 飛騨高山の町並みと祭礼の場-伝統的な町並みと屋台祭礼の文化的景観-(岐阜県、2006年)
- 天橋立-日本の文化景観の原点(京都府、2007年)
- 近世岡山の文化・土木遺産群-岡山藩郡代津田永忠の事績-(岡山県、2007年)
- 三徳山-信仰の山と文化的景観-(鳥取県、2006年)
- 錦帯橋と岩国の町割(山口県、2006年)
- 山口に花開いた大内文化の遺産-京都文化と大陸文化の受容と融合による国際性豊かな独自の文化-(山口県、2007年)
- 四国八十八箇所霊場と遍路道(香川県・愛媛県・徳島県・高知県、2006年)
- 宇佐・国東-「神仏習合」の原風景(大分県、2006年)
- 阿蘇-火山との共生とその文化的景観(熊本県、2007年)
- 竹富島・波照間島の文化的景観〜黒潮に育まれた亜熱帯海域の小島〜(沖縄県、2006年)
自然遺産推薦に向けた選定
[編集]自然遺産の候補については、2003年に環境省と林野庁が主催する「世界自然遺産候補地に関する検討会」でリストアップと検証が行われ、その中から、有力候補として知床、小笠原諸島、奄美・琉球が選定された[13][注 7]。その過程で漏れた候補は以下の通りである(「比較対象」は、審議の際に、候補地よりも優越するとして挙げられた他国の世界遺産などであり、選定された3件のみが他国の世界遺産よりも優越する可能性を指摘された)[14]。
なお、2013年に環境省が検討会にリストアップした候補地(自然遺産に登録された物件を除く)に対し、その後の活動状況や現在も世界遺産を目指す意思があるのかなどの意識調査を実施している[15]。
| 名称 | 所在地 | 分野 | 比較対象 | 国際的要素 |
|---|---|---|---|---|
| 利尻・礼文・サロベツ原野 | 北海道 | 混交林(日本・満州) | カムチャツカの火山群 | サロベツ原野はラムサール条約登録地。 |
| 大雪山 | 北海道 | 混交林(日本・満州) | カムチャツカの火山群 トンガリロ国立公園 シホテアリニ山脈中央部 | |
| 阿寒・屈斜路・摩周 | 北海道 | 混交林(日本・満州) | イエローストーン国立公園 ンゴロンゴロ保全地域 | 阿寒湖はラムサール条約登録地。 |
| 日高山脈 | 北海道 | 混交林(日本・満州) | シホテアリニ山脈中央部 | |
| 早池峰山 | 東北地方 岩手県 | 夏緑樹林(東アジア) | (該当多し) | |
| 飯豊・朝日連峰 | 東北・中部 山形県・新潟県・福島県 | 夏緑樹林(東アジア) | 白神山地 | |
| 奥利根・奥只見・奥日光 | 東北・中部・関東 福島県・栃木県・群馬県・新潟県 | 夏緑樹林(東アジア) | カムチャツカの火山群 白神山地 | 「尾瀬」「奥日光の湿原」はラムサール条約登録地。「只見」は生物圏保存地域。 |
| 北アルプス | 中部地方 新潟県・富山県・長野県・岐阜県 | 夏緑樹林(東アジア) | カナディアン・ロッキー山脈自然公園群 ヨセミテ国立公園 | |
| 富士山 | 中部地方 静岡県・山梨県 | 常緑樹林(日本) | キリマンジャロ国立公園 ハワイ火山国立公園 グヌン・ムル国立公園 | 文化遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」としては世界遺産リストに登録された。 |
| 南アルプス | 中部地方 長野県・山梨県・静岡県 | 常緑樹林(日本) | カナディアン・ロッキー山脈自然公園群 | 「南アルプス」は生物圏保存地域。 |
| 祖母山・傾山・大崩山、九州中央山地と周辺山地 | 九州地方 大分県・宮崎県・熊本県 | 常緑樹林(日本) | ガラホナイ国立公園 マデイラ島の照葉樹林 | 「祖母・傾・大崩」は生物圏保存地域。 |
| 阿蘇山 | 九州地方 熊本県 | 常緑樹林(日本) | イエローストーン国立公園 ンゴロンゴロ保全地域 | 「阿蘇ジオパーク」は世界ジオパーク。 |
| 霧島山 | 九州地方 宮崎県・鹿児島県 | 常緑樹林(日本) | カムチャツカの火山群 ハワイ火山国立公園 | |
| 伊豆七島 | 関東地方 東京都 | 常緑樹林(日本) | ハワイ火山国立公園 | |
| 三陸海岸 | 東北地方 岩手県・宮城県 | 海岸地形 | グロス・モーン国立公園 ドーセットと東デヴォンの海岸 | |
| 山陰海岸 | 近畿・中国地方 京都府・兵庫県・鳥取県 | 海岸地形 | グロス・モーン国立公園 ジャイアンツ・コーズウェーとコーズウェー海岸 | 「山陰海岸ジオパーク」は世界ジオパーク。 |
今後の在り方について
[編集]ユネスコ・世界遺産委員会・諮問機関の動向と傾向
[編集]創設から40年を経過した世界遺産は、一見して解る著名な建築物・遺跡や自然環境を網羅し、文化遺産では産業遺産や自然と人間の共生が見られる文化的景観などに移行しつつあり、諮問機関の国際記念物遺跡会議(ICOMOS)がこれまで行ってきたテーマ研究に基づき「世界遺産グローバル・ストラテジー(世界遺産一覧表における不均衡の是正及び代表性・信頼性の確保のための世界戦略)」を開示、その中で「世界遺産リストにまだ充分に反映されていない分野」として土木遺産・運河・文化の道・20世紀建築・近代都市・都市遺産・聖なる山・岩絵・先史時代遺跡・化石人類遺跡などを挙げ[16]、「遺産としての農村景観に関する原則」に基づき地域多様性を反映する一般家屋や集落景観の可能性も示唆[17]。
一方、自然遺産に関しては、地形・地質学的特性から生物多様性や固有種生態系の保護へと移行し、諮問機関の国際自然保護連合(IUCN)が生物多様性条約において生態系保全のため2030年まで国際社会が取り組むべき行動指針として、全世界の陸海域の30%を生物・生態系保護区にするという目標を定め(2010年制定の愛知目標では陸域の17%、海域の10%と設定)、各国の制度下で国立公園や国営保護区を積極的に設けるよう求める方向性を示し、ユネスコとしても世界遺産に登録枠を設けることができないかや公海の世界遺産の可能性も検討することになった[18]。
加えてユネスコと世界遺産委員会は、無形の要素と絡めたりストーリー性がある展開や、文化遺産・自然遺産を問わず「システム」という枠組みや流れの中における対象物の存立意義を解説すること、構成資産に含まれなかった関連する場所の顕彰と連携(ヘリテージ・エコシステム)を求めるようになったほか[19]、災害等を含めた管理体制と被災時における適正な復旧手法の事前構築、緩衝地帯を含めた景観保護や開発の監視・規制、世界遺産管理のエッセンシャルワーカーとしてのサイトマネージャーの育成、文化遺産維持に必要な文化資材の確保、遺産の価値や意義の周知徹底[注 8]、観光公害対策[注 9]、緩衝地帯における文化的空間・文化的環境の確保を求めるようになった[20]。また、2012年に開催された「世界遺産条約採択40周年記念-世界遺産と持続可能な開発:地域社会の役割」(京都ビジョン)で世界遺産存続のためコミュニティの存在の重要性が確認され、世界遺産を維持するためには地域コミュニティの持続可能性も必要であるとともに、保存活動への地域社会関与や世界遺産を活かした地域貢献の具体案(遺産の商品化)なども示さなければならない[21]。
2021年に開催された第44回世界遺産委員会では、世界遺産保全に気候変動対策を盛り込むことが決定し、新規推薦に際して遺産影響評価(HIA)として被害想定シミュレーションと対策案を盛り込むことが義務付けられた[22]。
さらに、国連機関の一員であるユネスコは、国連が推進する持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みから持続可能な開発のための文化を採択し、持続可能な開発を世界遺産にも反映させるべく求めるようになり、今後の世界遺産登録を目指す際には官民一体となった対応が不可欠とされる。SDGs目標11「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」の第4項に「世界の文化遺産および自然遺産の保全・開発制限取り組みを強化する」と明記されており、特に世界遺産候補地周辺での開発は慎重かつ国際ルールに則った適切なもので実施しなければならない、と日本ユネスコ国内委員会は示唆する。
世界遺産の推薦は2020年から文化遺産・自然遺産を問わず審議対象は一国一件に限られるようになり、全体審議数も35件までとして登録数の少ない国を優先するため推薦物件が多い場合には日本からの推薦が受理されない可能性もあるなど(2026年の第48回世界遺産委員会での新規登録で日本の世界遺産は27件となり保有数でアメリカと同率タイの世界11位になった)、一層狭き門となるつつある状況に加え、正式推薦に先立ち「潜在的顕著な普遍的価値(POUV)」などを書面審査する「事前評価」制度を導入することが決まり、推薦書作成に際してさらに手間と時間を要するようになる[23]。
新たな暫定リスト追加の可能性
[編集]文化遺産
[編集]上記のような情勢の変化をうけ、文化遺産分野の諮問機関であるイコモスの国内組織「日本イコモス国内委員会」の岡田保良副委員長(国士舘大教授)は2018年2月8日に宮崎県庁で行われた講演の中で、「政府が選定する国内の推薦候補地について、2019年度までに追加など見直し作業を行う可能性がある」との見解を示し[24]、2020年から文化庁文化審議会(世界文化遺産部会)が「我が国における今後の世界文化遺産の在り方に係る検討について」のテーマ研究を開始[25]。この過程の中で同部会は「特殊な資産に係る世界遺産一覧表への登録に関する指針」として、文化的景観に加え「歴史的町並みと街区」「運河に係る遺産」「遺産としての道」に優位性があるとした[26]。
2021年1月21日に開催した同部会は新たに推薦されるべき候補として、
- 地震や洪水といった防災に係るもの
- 対象の保護に無形文化遺産が必要不可分に関わっているもの
- 独自の信仰形態を表すもの
- 自然の尊重や自然との共生という古来からの精神を体現したもの
- 自然環境と生活の相互作用が独自の文化的価値を表現しているもの
- その時代の日本文化を象徴する資産が全国に展開されているもの
- 戦後の復興を象徴するもの
という指標を示し、文化ナショナリズムが台頭していることをうけ国際軋轢を生まない物件にする配慮も必要とした[19]。
さらに同年2月4日の部会では、トランスバウンダリー(国境を超える遺産)での国際協調も重視するとし、ユネスコの求めに沿った複数の都道府県をまたぐシリアル・ノミネーションの増加を指摘。2006年・2007年の「文化遺産推薦に向けた公募」の時のように単体の自治体推挙による公募制は採らないこと(シリアル・ノミネーションの優位性を示唆)や各既登録地の拡張登録を模索すること、文化遺産であっても自然環境や地質学的特性が遺産に与える影響などを検証する必要性があるとして自然面での保護根拠にエコパークやジオパークを充てる試みなどを決めた[27][注 10]。
同年3月30日の最終部会では単独自治体推挙による公募制を採らないとした前回会合の決定をうけ、新候補地の選定方法として、文化審議会と外部有識者による書類審査・現地調査・ヒアリングで、前述の諸条件を満たし証明してるかを検証するとし、こうした条件に対応できる物件・地域(自治体等の地方行政機関)でなければ世界遺産の候補とすることは難しいとした[28]、文化庁幹部は「有力候補を一本釣りする」としている[29]。
2023年7月4日の同部会では、2030年代の登録候補となるものの選定を始めるとし、2024年になり部会の下に「今後の我が国の世界文化遺産の候補として暫定一覧表に記載することが適当と考えられれる資産の具体的な検討を行うためのワーキンググループ(WG)」を設置して本格的な選定作業に着手(審議会をサポートするため以前から設置されていたアドバイザリーボードを改組)[30]。
2026年に文化庁長官に就任した伊藤学司は「飛鳥・藤原が登録されたなら、2006年と2007年に実施した候補地公募で選ばれた場所が全て登録されることになり、新たな候補の補充が急務となる」として必要性を説き[31]、同年7月に飛鳥・藤原の登録が実現し、文化庁幹部は「当面は彦根城の推薦可否の検討に注力する」としたが[32]、その彦根城も2028年の登録審査に臨むことになり、暫定リスト掲載物件補強が喫緊の課題であるため、読売新聞が文化庁へ問い質したところ、「推進活動を行っている地元とは日常的にやりとりをし、準備の進捗状況は把握している」と明かした上で、選考過程の情報公開に消極的なのは「外部からの働きかけなどにより公平で中立な審議に支障をきたすことへの警戒」があるからだとしたが、選定手順や評価方法は明らかにしておらず、文化資源政策・記念物課は「最終答申の取りまとめは未定」としている。これに対し、前述の日本イコモス国内委員会の岡田は、「登録運動を推進する地域の人たちが何を評価されるのか疑心暗鬼になったり、誤った情報が拡散する恐れがあり、情報を公開して選定作業の透明性を確保すべき」と指摘する[33]。
上記の文化庁に動きに対し在野にあっては、「文化遺産推薦に向けた公募」に立候補し、その後も登録を目指す活動を継続する自治体に加え、新たに名乗りを上げる自治体も現れ、学術的視点で関係各方面から具体的な提言も出されるようになり、明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業の登録に尽力し内閣官房参与も務めた加藤康子は黒部ダム[34]、そして日本イコモス国内委員会委員長・文化審議会世界遺産特別委員会(現 世界文化遺産部会)委員長を務めた西村幸夫と元ユネスコ事務局長の松浦晃一郎らも黒部に加え立山の砂防システムの登録の可能性を公言しており、立山の自然環境を含めれば複合遺産の可能性もあると示唆している[35]。特に西村は今後の日本の世界遺産について、ユネスコが認める保存活用事例(アダプティブユースや遺産と創造性)も勘案しつつ、近代化遺産・産業遺産や稼働遺産としての土木構築物、戦後建築に移行せざるをえないのではないかと言及[36][注 11]。文化庁長官を務めた近藤誠一は、「日本は文化多様性条約はまだ批准していないが、世界的に見ても島国の中で育まれた地域多様性があり、文化多様性の視点からさまざまな独自の文化的価値があるものを探し出して推薦する努力が足りていない」とする[37]。
この他、特定地域の文化財を推すのではなく、例えば各地の日本庭園や茶室などを一つのテーマとするオールジャパン体制のシリアルノミネーションも有効とする[38]。
また、日本イコモス国内委員会は2017年に、将来的に世界遺産になる可能性がある日本の20世紀遺産を選定している。
こうした提言に対し、奈良文化財研究所の所長で文化庁職員時代に京都の世界遺産登録を担当した本中眞は、「これまで世界文化遺産は自国の独自の文化を象徴するものである必要性があったが、今の時代の世界遺産に求められるのは“日本を代表する”という名目だけでは足りず、歴史に照らし往時に国際的な協調性や開放性、文化循環を伴っていたことも重視される」とし[39]、彦根城の登録を支援する読売新聞による講演会で世界遺産を取材してきた同紙編集委員からは「日本人が日本人の感性で彦根城の魅力を力説しても世界(世界遺産)には通じない。世界遺産に求められる国際基準に合致する価値観を示さなけらばならない」「富士山を自然遺産で推薦しようとした際に日本人の美意識に基づく自然美を根拠としたが、それは抽象的で日本人だけの価値観であり世界には通じないとされ、その感性や自然観を信仰や芸術という具象的なもので証明する文化遺産として認められた」と次なる世界遺産候補に必要な要点・視野を示唆[40]、2025年12月7日付の日本経済新聞電子版では「日本の世界遺産は弾切れか」と題し暫定リスト掲載物件が減ったことに関して「日本にはまだ秘めたポテンシャルがあり、新しい価値観に基づく候補選出が望まれる。それを怠ることは文化的自殺行為である」とした[41]。
さらに、諮問機関のICOMOSが2017年に『CONCERNING RURAL LANDSCAPES AS HERITAGE(遺産としての農村景観に関する原則)』を採択し文化的景観の拡大解釈が図られたり[42]、先住民族の文化を取り込む方針を示して2026年の第48回世界遺産委員会では先住民を招聘して意見聴取を行う[43]。これらは世界農業遺産認定地やアイヌ文化の可能性を示唆するものになる。
自然遺産
[編集]環境省では環境審議会(中央環境審議会)の下に自然環境部会を設け、自然遺産の動向について定期的に懇談会・意見交換会を開催している[44]。
日本の世界遺産条約締約作業に携わった筑波大学の吉田正人は、上記の「自然遺産推薦に向けた選定」が気候と地形に応じた植生を基にしたものであり[注 12]、近年ユネスコと自然遺産の諮問機関IUCNが重視する生物多様性や固有種生態系の観点からすれば奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島をもって打ち止めの感はあるが、登録基準ⅷが示す「地球の歴史」については第1に地質分野として生物圏が評価された小笠原諸島の中から火山噴火に伴い「無の状態からの新しい生態系構築が観察できる場所」[注 13]として西之島だけ分離独立させることの現実性[注 14]、第2に太平洋プレート・北米プレート・ユーラシアプレート・フィリピン海プレートの4つが衝突する上に形成された弧状列島の特異さと地震や火山にみられる現在進行形の地質活動が物語るダイナミックな地球の胎動を表現すること、また第3に公海の世界遺産への注目を受けた海底域からの世界遺産推薦の可能性を挙げ、日本海溝や伊豆・小笠原海溝などのプレート境界線、その延長線上に位置する小笠原諸島-伊豆諸島-伊豆半島-丹沢山地を一体的に捉えた視点の検討を提唱する[45][46]。
東京大学名誉教授の岩槻邦男(植物学)は、前述の自然遺産候補地選定に用いられた気候・地質・植生に基づく指標に縛られる必要はなく、例えばマリモの生態系を含めた阿寒湖の再評価や、鳴門の渦潮の可能性も示唆する[47]。
福井県の三方五湖の水月湖で確認される年縞堆積物が万年単位での年代測定の目安となっていることから世界遺産として保護すべきと提言する研究者が多く[48]、三方五湖が評価されるなら更新世中期の指標となったチバニアンの地層を確認できる千葉セクションや国際地質科学連合が新たに設けた地質年代区分である人新世期の試料となる堆積物が採取でき国際的に注目されている別府湾(の海底)などと合わせ、「世界標準層序年代の試料群」などとする意義はあるとの見解もある(日本のみならず各国に分布する国際標準模式層断面及び地点などを共同推薦する案も)[49]。また、北海道の摩周湖は流入河川がなく水質が安定していることから湖水に溶け込む大気成分を観察する国際連合環境計画による陸水監視計画(GEMS)のモニタリングステーションに選ばれており、気象指標観測地として国際的な評価を得ている[注 15]。
2024年にアホウドリ(天然記念物)が伊豆諸島の鳥島で繁殖する型と尖閣諸島で繁殖する型が別種であることが判明し、日本鳥学会が繁殖地を世界遺産など国際的保護機構下に置くべきと提言した[50]。但し、2018年の登録審査に奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島を推薦した際、中国が「釣魚島(尖閣諸島)に領土・領海問題がある」(尖閣諸島問題)として反対を主張し、日本は環境省が「奄美・琉球と尖閣諸島は成り立ちが全く異なり、同じ価値で登録することは考えにくい」とし、外務省も「バッファーゾーン(緩衝地帯)も含め、範囲を外に拡張することはない」と反論する応酬があり[51]、2020年の登録決定後に中国は「先の約束を反故にしないように」と尖閣への拡張登録を行わないよう釘を刺す見解を述べており[52]、尖閣諸島を世界遺産とするのは難しい状況にある。
拡張登録
[編集]世界遺産は登録数抑制策の一環として同一国内における類似物件の追従登録を容認しない傾向がある一方で、先行登録物件に類似物件を加える拡張登録を推奨しており、文化審議会も拡張登録の有効性を認めているが[19]、国内においては紀伊山地の霊場と参詣道(熊野古道)と石見銀山において既存登録地に隣接する区域に対象を広げた「軽微な変更」が行われたのみで、拡張登録の実績はなく、現時点では「平泉#世界遺産への拡大登録を目指す遺跡群」だけが暫定リストに掲載されているのみである。
- 文化遺産
- 日本イコモス国内委員会は、「文化遺産推薦に向けた公募」の内、松島の貝塚群は北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群に加えることを検討すべきと示唆したり、松本城は暫定リスト掲載の彦根城や公募に名乗りを上げなかった犬山城と合わせて既登録の姫路城への「近世日本の木造天守閣式城郭」といったような枠組みでの拡張登録にすべきとしている[10][注 16]。
- 既存登録地ではかねてから構成資産を追加する拡張登録を模索する運動が展開されているが、必ずしも行政が積極的に動いているとは限らず、地元メディアによる発案や住民有志による市民運動の次元に留まっているところもある。
- 京都では市として東山一帯、嵯峨野・嵐山一帯、大原・八瀬地区、鞍馬・貴船地区の追加登録を目指しているほか、元京都市長の門川大作は在任中に妙心寺・南禅寺・東本願寺・桂離宮などの追加登録を目標にすると公言。この他、滋賀県と共同で琵琶湖疏水の可能性が示唆されたり、民間団体が保津峡を推挙。知恩院・大徳寺・禅林寺(永観堂)は追加登録に向けて自発的に会合を行なっている(「古都京都の文化財#拡大登録計画」参照)。
- 日光の社寺では、日光杉並木を社寺への参道として追加させようという提言がある[54]。
- 琉球王国のグスク及び関連遺産群では、浦添城の追加を目指す運動がある[55]。
- 既に拡張登録(軽微な変更)を実現している紀伊山地の霊場と参詣道(熊野古道)では、さらなる区間の延伸に加え、未登録の紀伊路を追加させようという動きがある(「紀伊山地の霊場と参詣道#再追加登録を目指して」参照)。
- 富岡製糸場と絹産業遺産群では、登録に至る過程で候補地から除外された場所の再検証を行うなどしている(「富岡製糸場と絹産業遺産群#拡張登録を目指す動き」参照)。
- 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産では、登録時にICOMOSから登録された集落の周辺にある廃村などに残る「信仰の遺構」(教会堂跡や墓地など)について包括的な記録を作成するよう求められており、現時点では補完的な目的での指示であるが将来的には拡張登録への道筋に繋がる可能性もある(「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産#追加調査要請」参照)ほか、旧長崎県庁跡地が「岬の教会」跡で発掘調査により遺構が確認されており世界遺産を目指すべきとの提言もある(岬の教会跡は川を挟んだ対岸の出島とセットでの別物件とすべきとの意見もある)[56]。
- 北海道・北東北の縄文遺跡群では、既存登録地の範囲拡大(軽微な変更)の可能性がある他(「北海道・北東北の縄文遺跡群#拡張登録」参照)、他の縄文遺跡との連携を模索すべきとの提言もある(「北海道・北東北の縄文遺跡群#他地域の縄文遺跡について」参照)。
- 佐渡でも登録に至る過程で候補地から除外された場所(新穂銀山)や金銀搬出港の港町であった沢根の可能性が取り沙汰されている(「佐渡島の金山#拡張登録を望む声」参照)。
- 自然遺産
- 上掲の吉田が、ユネスコとIUCNが推奨する海洋域への展開による拡張登録を提案している(「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島#除外された海洋域」を参照)。
- 伊豆・小笠原海溝が2020年に海洋保護区として沖合海底自然環境保全地域となったことから[57]、小笠原の世界遺産の範囲を端に海洋域に広げるだけでなく深海にも言及すべきとの見解がある[58]。
越境遺産の提案
[編集]外国から越境遺産(トランスバウンダリー)の共同提案の可能性が打診されている事例や、日本側から呼びかけるもの、諮問機関が示唆するものなどがある。
- 文化遺産
- 2019年の第43回世界遺産委員会で登録されたアメリカのフランク・ロイド・ライトの20世紀建築作品群が将来の拡張登録候補として国外唯一の推薦資産に旧山邑家住宅(現:ヨドコウ迎賓館)を挙げている[59]。
- 巨石記念物を重視する欧州考古学を支持するユネスコの方向性を踏まえ、韓国の世界遺産高敞、和順、江華の支石墓群に代表される東アジアの支石墓(ドルメン)の分布を顕彰すべきと指摘する見解がある。その中には国史跡である九州の志登支石墓群や新町支石墓群がある。支石墓が海を越えて日本に伝播したことを顕彰することはユネスコが重視する文化循環になる。但し、高敞、和順、江華の支石墓群を越境拡張登録するには、韓国側の理解が前提となり、政治的な日韓関係に加え、双方に存在する反日・嫌韓感情が障壁となる[60][注 17]。
- 中国が拒絶しているためユネスコ加盟や世界遺産条約を批准できない台湾(中華民国)だが、日本の文化庁に相当する文化部が独自に世界遺産候補地を選定しており、その中でも有力視される日本統治下で敷設された阿里山鉄道の登録を実現すべく、日本による越境物件として日本に推薦してもらう案が立法院に提出された[61]。また、八田與一による烏山頭ダムと嘉南大圳の資質も高く、日本との共同推薦や代理推薦を模索する動きがあり、日本側有志の支援もありまずはかんがい施設遺産の登録をめざして足掛かりとする準備段階にある[62][注 18][注 19]。
- 自然遺産
- 生物系統学の揺籃地 - 2009年、8か国13資産から成る「生物系統学の揺籃地」についてスウェーデンが暫定リスト記載を計画し、先行してスウェーデン国内の6資産を暫定リストに記載した。同国外の資産に植物学者カール・ツンベルクゆかりの日本の長崎県出島と神奈川県箱根町が含まれる[63]。
- ロシアが国後島(露語:クリリスキー)のクリリス自然保護区を知床と一体化して評価しようと提案している[64]。しかしながら北方領土問題が障壁となっている。
- 2021年に登録された韓国の「ゲボル(韓国の干潟)」を、2019年に登録された中国の「黄海=渤海湾沿岸の渡り鳥保護区群(第1段階)」同様、渡り鳥のルートである東アジア・オーストラリア地域フライウェイとみなす東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(EAAFWP)では、ルート上の飛来地を国境を越えて世界遺産として保護することを目指しており、その中には日本も含まれている。但し、世界遺産候補地として具体的な場所は示していない[65][注 20]。前述のアホウドリ繁殖地を世界遺産化で保護するという主張に対し、その飛来地であるベーリング海・アリューシャン列島や尖閣型が経由するオホーツク海をフライウェイ対象地と包括する案も出されているが、これには日米露の協力が必要となるため現実的には困難な状況である[50]。
- 鳴門の渦潮に関して、ノルウェーやスコットランド(イギリス)における同様の海流現象(渦潮#有名な渦潮参照)との共同申請の可能性を探ることになった[66]。
複合遺産化の可能性
[編集]上掲の吉田は、1982年にIUCNが発行した『The World's Greatest Natural areas(世界の優れた自然地域)』に将来の自然遺産候補として阿寒国立公園・日光国立公園・富士箱根伊豆国立公園が上げられており、いずれも「自然遺産推薦に向けた選定」で俎上した後、日光や富士山は文化遺産に鞍替えして登録された点に着目し、日光は男体山や中禅寺湖から流れ落ちる華厳滝など自然崇拝を含む自然環境要素、富士山は前述の海底から地上に至る地質活動の終着点としての位置付けから複合遺産の可能性を考えている[45]。
- 文化遺産への自然要素の取り込み
「文化遺産推薦に向けた公募」に名乗りを上げ、その後も登録運動を継続している場所の中では、前述しているが立山・黒部が「中部山岳国立公園としての自然環境の側面を強調すれば複合遺産の可能性がある」と西村幸夫や松浦晃一郎らが指摘しているほか、天橋立は自然の地形(砂嘴)を取り込んだ文化的景観と捉えていることから複合遺産の可能性があり、阿蘇もカルデラという地形・地質の自然環境ありきの前提で阿蘇くじゅう国立公園や阿蘇ジオパークとして保全条件が確保されており複合遺産の可能性を残している。
- 自然遺産への文化要素の取り込み
現時点で日本には暫定リストに掲載されている自然遺産候補はないが、候補として名前が上がる場所の中には文化面の要素を含み、複合遺産化の可能性を模索する場所もある。
- 自然遺産候補として有力視される阿寒湖に関して、上掲の吉田は「自然遺産推薦に向けた選定」で俎上した阿寒湖とアイヌとの関係性を説く[45]。阿寒湖アイヌコタンのような観光施設は別として、阿寒湖そのものがアイヌが神聖視する文化的空間であり、前述したようにユネスコも先住民族文化の世界遺産への取り込みを図っており、マリモ生態系としての自然遺産要素にアイヌ文化を絡めることで複合遺産の可能性が高まる。
- 自然遺産登録を目指して運動を展開する鳴門の渦潮に関しては、現時点で自然現象を保護する国内法がなく[注 21]、風光明媚な景勝地として名勝に指定されていることから、文化的景観を伴う可能性を探究しており、複合遺産化の可能性も考えられている(「鳴門の渦潮#世界遺産を目指して」参照)。
- 世界遺産の中で潮流となりつつあるフライウェイに関して[注 22]、東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップに帰属できる国内のラムサール条約登録の内、石川県の片野鴨池は重要文化的景観 (加賀海岸地域の海岸砂防林および集落の文化的景観)に選定されており法的保護根拠が伴うことになり、宮城県の大崎耕土は世界農業遺産であり冬期湛水(ふゆみずたんぼ)のような自然と人間の共生が見られ、複合遺産としての可能性を秘めている。
暫定リストからの削除
[編集]文化審議会は新たな暫定リスト掲載物件の選定のみならず、登録の可能性が潰えたと考えられるものに対し、暫定リストからの削除も検討する方針も示している。一つの指標として、一定期間(5年間程度)活動実績が無い物件を有する自治体に対して継続か断念するかの意思を確認する[19]。
そもそもユネスコ指針としては、暫定リストは10年前後毎に見直しを図ることが望ましいとしているが、2025年時点で暫定リストに掲載されているものの中で、武家の古都・鎌倉と彦根城は1992年に日本の世界遺産候補第一号として暫定リストに掲載され、鎌倉は2012年に推薦したものの、諮問機関の調査を経て「不登録」勧告が出されたため推薦を取り下げ、2019年に神奈川県と鎌倉市・横浜市・逗子市が推薦書(原案)の作成活動を同年度限りで休止すると発表。文化財としての基礎研究や発掘調査および保存・整備事業は継続し、世界遺産登録は諦めない方針も明らかにしたが、再推薦に向けた活動実績(新たなコンセプトに基づく推薦書作成など)は行われておらず、既に5年以上が経過している[4]。
新たな保護体制
[編集]世界遺産は登録の条件に完全性として法的保護根拠を求めるが、文化遺産であれば文化財保護法を拠り所とし、そこに景観法などを組み合わせて対処しているが、世界遺産のための専用の法令は存在しない[注 23]。これは文化財保護法による体制が充分有効に作用しているためで、それが「世界遺産という保護制度は日本には不要」と世界遺産条約の批准を遅らせたともされる[67]。
しかしながら、世界規模での自然災害が頻発して世界遺産の被災が相次ぎ、特に地震が多い日本には必要な対策を講じるようユネスコからの要請もあり、2004年に内閣府・文化庁・消防庁・国土交通省により「地震災害から文化遺産と地域をまもる対策のあり方」を取りまとめたが、法的保護の裏付けは伴わないものであった[68]。そうした中、2019年に発生したノートルダム大聖堂の火災や首里城の火災をうけ文化庁は『世界遺産・国宝等における防火対策5か年計画』を策定(〜2024年度)し、2020年には国立文化財機構が文化財防災センターを設立。世界遺産を含む文化財が災害対策基本法・災害救助法の対象となった[69]。その後、強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法に基づき、2025年6月に閣議決定された『第1次国土強靱化実施中期計画』に『第1次文化財防災対策5か年計画』(〜2030年度)を盛り込み、「不特定の者が立ち入る世界遺産または国宝のうち、特に優先して対策すべきものに係る防災設備対策」「世界遺産、特別史跡に所在する災害時のリスクが高い斜面等のうち、特に優先して対策すべきものに係る水害・老朽化対策」を国の責任として実施することになった[注 24]。さらに、新たに発足する防災庁との連携も検討。この取り組みの対象となった世界遺産は世界遺産委員会に提出する保全措置報告(SOC)に新たな保護政策が加わった旨が記載される[70]。
また、世界遺産条約関係省庁連絡会議には参加していない観光庁(同会議に参加する国土交通省の外局)が所管する観光立国推進基本法では、世界遺産登録地や世界遺産を含む国際観光文化都市などにおける「環境および良好な景観の保全」やオーバーツーリズムによる環境負荷の軽減案の策定も義務付けており、これらはユネスコも求めるものとなっている。観光圏の整備による観光旅客の来訪及び滞在の促進に関する法律では、世界遺産登録地でも認定されている観光圏において、認定に際し提出する「観光圏整備計画」に記載がない整備(無認可開発=不法行為)を行った場合の罰則条項があることから、その運用の見直しが図られることになり、観光圏認定地であれば世界遺産保護の根拠となる[71]。
環境省所管のエコツーリズム推進法では、サステイナブルツーリズムを実践するエコツーリズム推進協議会を立ち上げた自治体として、自然遺産から屋久島町・小笠原村・奄美市・竹富町(西表島)、文化遺産では白川村を指定しており、同法では「観光旅行者その他の者の活動により損なわれるおそれがある自然観光資源の保護」「特定自然観光資源を汚損し、損傷し、又は除去すること。ごみその他の汚物又は廃物を捨て、又は放置する行為をしてはならない」とし、罰則条項もある。
さらに、内閣府が総合特別区域法の地域活性化総合特区として「奈良公園観光地域活性化特区」や「和歌山県『高野・熊野』文化・地域振興総合特区」など世界遺産区域が特区認定されており[72][73][注 25]、政令として対象地周辺に規制を課すことが出来ることから、今後の活用が期待される(規制をするための支援補給金も給付される)。
前述したアイヌ文化の可能性に関しては、「アイヌの伝統と開拓による沙流川流域の文化的景観」(平取町)が重要文化的景観となっているほか、アイヌ古式舞踊(重要無形民俗文化財・日本遺産)が無形文化遺産となっているものの伝承地は旭川市に限定指定されている。しかし、内閣官房主導のアイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律に基づく施策推進地域は北海道全域に広まっており、アイヌによる祭事の場における自然環境保全やアイヌ遺跡の発掘調査が行われるなど有形物としての顕彰も進められている[76]。
脚注
[編集]注
[編集]- ↑ 橋野鉄鉱山の採掘場と運搬路を含む。
- ↑ リファレンスナンバーは暫定リスト掲載時に振られる管理番号で、登録後に世界遺産リスト掲載時に与えられるIDとは異なる。
- ↑ 足利学校、弘道館、閑谷学校は2011年に「近代の教育遺産」(茨城県、栃木県、岡山県、大分県)として推挙。
- ↑ 「北海道・北東北の縄文遺跡群」とは別件。
- ↑ 山形県では2009年6月に現職を破って知事に当選した吉村美栄子が、登録推進事業の中止を打ち出した[11]。
- ↑ 2026年になり松島と瑞巌寺が織りなす景観の組み合わせで改めて世界遺産を目指そうという民間団体の活動が始動した[12]。
- ↑ 知床は2005年に、小笠原諸島は2011年に、奄美・琉球は2021年に世界遺産登録。
- ↑ ヘリテージツーリズムや世界遺産と博物館の計画。
- ↑ オーバーツーリズムによる環境負荷軽減を目指した来訪者コントロール、また世界遺産がクラスター発生地とならぬよう新型コロナウイルス感染拡大防止の観点も含む。
- ↑ 佐渡島の金山が再推薦を行った際に佐渡ヶ島における金鉱脈が形成された地質学的経緯やそれが風化作用で地表に露出し発見されるに至った自然誌の視点を追加で盛り込んだことが評価に繋がり、石見銀山でも地質学的見地の研究を進めており6年毎に報告義務がある保全措置報告(SOC)に反映させている。
- ↑ 黒部・立山では、使われなくなったレンガ造りの黒部川第二発電所を再利用した下山芸術の森発電所美術館や世界的建築家・磯崎新による立山博物館展示館など、西村が指摘する条件に沿う施設も充実している。
- ↑ 分類学(生物の分類)の権威ミクローシュ・ウドヴァルディが人間と生物圏計画のために1975年に作成した区分表。海洋域の生物区分表もあるが、日本では活かされていない。
- ↑ 同様の世界遺産にはアイスランドのスルツェイ島がある。
- ↑ 小笠原の登録基準ⅷを追加する「軽微な変更」の方が現実的。
- ↑ 摩周湖は任意団体である摩周湖世界遺産登録実行委員会が民間レベルで独自に登録活動を展開している。
- ↑ 姫路市は「拡張登録は考えていない」と拒否[53]。
- ↑ 支石墓は現在の北朝鮮や中国東北部でも造られたが、中国においては文化大革命で悉く破壊され現存していない
- ↑ トランスバウンダリー推薦には日本側からも類似する遺産を推薦しなければなず、日本による代理推薦は台湾を日本の一部と見なすことになる可能性もあり中国のみならず台湾国内でも反発する意見もある
- ↑ 代理推薦は唯一エルサレムの旧市街とその城壁群が所有を宣言するイスラエルでなくヨルダンによって行われ、どこの国にも属さない特例措置が採られている
- ↑ 東アジア・オーストラリア地域フライウェイは生物多様性の観点から可能性を秘めているが、世界遺産に求められる完全性の法的保護根拠が障壁となる。ラムサール条約指定地だけでは充分ではなく、渡り鳥条約は日本と相手国の二国間条約でしかなく、移動性野生動物種の保全に関する条約は未批准である。
- ↑ 日本は海洋法に関する国際連合条約やマルポール条約を批准し海洋基本法や海洋汚染防止法も制定しているが、渦潮自体を保護するものではなく、現況では潮流を変え渦潮が消えてしまう可能性がある大規模な護岸損壊を防ぐ海岸法や公有水面埋立法で対処するしかないが、その主張が認められるかは不透明。
- ↑ 2026年の第48回世界遺産委員会では開催国の韓国で韓国の干潟の拡張登録が実現したことから、「黄海干潟の渡り鳥フライウェイ多国間セミナー」を開催。中国では2019年登録の黄海=渤海湾沿岸の渡り鳥保護区群も2024年に拡張しており、北朝鮮が2026年に西朝鮮湾沿岸湿地を暫定リストに掲載したことから、北朝鮮へもセミナーの出席を呼びかけるなどフライウェイに関する動きが活発化している。
- ↑ 韓国や中国では世界遺産保護のための法令を制定している。
- ↑ 現状では建造物と特別史跡が対象で通常の史跡や重要伝統的建造物群保存地区・重要文化的景観などの世界遺産は対象とはなっていない。また、世界遺産が国宝でもある建物がある一方で、重要文化財で世界遺産になっているものもあり、計画では「不特定の者が立ち入る大規模な重要文化財のうち、特に優先して対策すべきものに係る防災設備対策」も設けられたが世界遺産には触れておらず、現状では小規模な重要文化財での世界遺産は対象とはならない。
- ↑ この他、認定解除されたが明治日本の産業革命遺産の活用策を含む「九州アジア観光アイランド総合特区」[74]が、宗像・沖ノ島や潜伏キリシタン遺産も含めた「新たな九州圏広域地方計画」を改めて起案している[75]。
出典
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- ↑ 「地震災害から文化遺産と地域をまもる対策のあり方」の公表について 内閣府 2004年7月8日
- ↑ 文化財防災の現状と課題 文化財虫菌害研究所
- ↑ 「第1次文化財防災対策5か年計画」を策定しました 文化庁 2025年12月26日
- ↑ 「観光圏」の見直し検討 支援策活用促進、財政面も―観光庁 時事通信 2025年7月20日
- ↑ 奈良公園観光地域活性化特区について 奈良県
- ↑ 地域活性化総合特別区域計画 和歌山県
- ↑ 九州アジア観光アイランド総合特区 内閣官房
- ↑ 新たな九州圏広域地方計画 骨子 構成 国土交通省
- ↑ アイヌ文化の胎動をさぐる地 『北海道マガジン「カイ」』(NorthernCross Corporation)